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【リーダーシップ】リーダーシップを組織貢献に繋げるためには、「組織と個人の結びつき」が重要だと示した良論文!(砂口&松下, 2017)

前回投稿に引き続き、リーダーシップの効果が、メンバーの行動に影響するメカニズムを扱っていきます。組織と個人の結びつき、として使われているのは、組織コミットメント(その中でも、情緒的コミットメントと呼ばれる要素)です。

大変読みやすく示唆に富んだ論文で、かなりおススメです!

砂口文兵, & 松下将章. (2017). 変革型リーダーシップが組織市民行動に及ぼす影響に関する検討 「組織と個人の結びつき」 に着目して. 組織科学, 51(1), 58-69


どんな論文?

この論文は、上司の変革型リーダーシップが、部下の組織市民行動に影響を与えるためには、組織と個人の結びつきとして、組織に対するコミットメントが大切、と定量的に示した論文です。

組織市民行動(Organizational Citizenship Behavior:OCB)とは、職務の範囲を超えた取り組みを表す概念です。公式な役割や報酬にもとづかない、利他主義や市民道徳、誠実性などで構成されます。

OCBのような、従業員個人の役割を超え、チームを支える行動が促されるために、変額型リーダーシップが有効であり、かつ、部下が組織に対してコミットしようとする意識こそが重要、という点を明らかにすべく、ある小売業における171店舗、2501名の従業員に対する定量調査を実施しました。

個人的に注目したのが、この研究が「マルチレベル」であることです。
変革型リーダーシップを集団レベルの変数として、それ以外の変数を個人レベルの変数として扱うことで、チームごとに組織コミットメントや、OCBへの影響が異なる、と想定しました。
つまり、著者らはリーダーシップの影響はチームによって異なる、と考えています。分析の枠組みは以下図をご参照ください。

P64

調査の結果、仮説は無事に支持されると共に、変革型リーダーシップ⇒情緒的コミットメント⇒OCBというパスが示されました。

実践的な意味合い

この論文の面白いところは、メンバーの行動は、必ずしも上司のリーダーシップだけでなく、組織とのつながりによるところが大きい、という点です。

過去の先行研究では、リーダーシップがOCBに影響を与えるメカニズムは、上司と部下の社会的交換関係、つまり、上司のリーダーシップに対して部下が「お返し」するという関係に基づく、と仮定されてきました。

しかし、今回の研究は、こうした上司・部下の関係に拠らず、部下が組織に対してつながりを感じていれば、OCBを発揮し得る、ということを示しています。

著者らは、ジョブ・ローテーションを引き合いに出し、配置転換で上司が変わってしまっても、組織とのつながりを意識すれば、OCBのような役割外の貢献行動が促進される、と説明しています。

さらに、組織のつながりを高めるために大切なのは、「メンバーが組織の価値や目標をより知覚すること」と著者らは語ります。
特に、成果主義的な人事制度が普及するにつれ、OCBに対する動機が薄れる中で、組織に対する貢献行動を高め得る方策を示したのは、とても実践的だと感じます。

リーダーシップ、と聞くと、どうしても上司―部下間の影響力を想起し、それにより、部下の行動が変わるというイメージを持ちますが、リーダーシップと部下の行動の間に、組織とのつながりが一定の役割を果たすというのは、組織開発の観点でも示唆に富んだ内容です。


感じたこと

これは多くの方に読んでほしい論文だと思いました。まず、研究論文でありながら、大変読みやすくわかりやすいです。論理構成が明確で、無駄がなく、読んでいて内容がすっと腹に落ちます。

昔、ある方に、「プロは、難しいことをわかりやすく説明する。難しいことを難しく説明するのはセミプロだ」と言われたことがあります。本論文は、研究上の作法に沿いながらも、大変わかりやすく書かれています。

さらに、内容が濃く実践的です。モデルとしては、変数を3つしか扱っていないシンプルなものですが、それでいて本質的な指摘を説得力ある形で行っています。これまでの研究の穴を的確につきつつ、実践的に十分な意味合いも持っています。見本にしたい、と思わせる研究でした。

個人的には、マルチレベル研究に興味があるので、研究手法に関しても参考になる部分が多く、読んでいて大変お得感がありました(研究手法はマニアックなので、割愛しています)。

こうした論文を書けるよう自分も精進したいと思える良論文で、今後も何度か見返すことになると思います。


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