【リーダーシップ】リーダーとメンバーの関係の質は、時間経過の段階によって、異なる要因に影響を受ける(Nahrgang et al. 2009)
リーダーとメンバーの関係の質はLeader-Member Exchange(LMX)と呼ばれ多くの研究がありますが、時間の経過に伴うLMXの変化や、その変化に与える要因を、縦断調査を踏まえて明らかにした文献です。
どんな論文?
この研究は、リーダーとメンバーの関係(LMX)が、時を経る中でどう発展するか、その発展に何が影響するか、リーダーとメンバー、それぞれが相手の特性に対する評価や、パフォーマンスに着目して調査したものです。
LMXがどう発展するか、何が影響するか調べるにあたり、著者らはそれまでの研究で明らかにされてこなかった、以下の3点に着目しています。
1.リーダーとメンバーの関係が最初の8週間にわたりどのように発展するか
2.リーダーとメンバーの関係に与える、メンバーの視点だけでなくリーダーの視点の違い
3.関係の初期段階におけるリーダーとメンバーの関係の質に対するいくつかの要因
研究の対象者は、ビジネススクールにおける69人のリーダーと330人のチームメンバーで構成され、330のリーダーとメンバーの組み合わせを対象としています。この対象者に、0週目(T0)、4週目(T4)、6週目(T6)、8週目(T8)と、定期的にアンケートを取り、LMXの変化を探りました。
研究結果として、以下のことが明らかになりました。
①初期の関係の質に影響するのはパーソナリティで、リーダーとメンバーはそれぞれ違うパーソナリティにもとづいて関係の質を判断する
リーダーは、メンバーの外向性に基づいて関係の質を判断する
メンバーは、リーダーの協調性に基づいて関係の質を判断する
(つまり、リーダーは、メンバーがどんどんリーダーに話しかけてくるような社交的かつ積極的な「外向性」によって関係の質を評価し、
メンバーは、「協調性」つまりリーダーが自分たちに協調的であることで関係の質を評価する)
②時間が経った後に影響するのは、パフォーマンスなどの行動が関係の質に大きな影響を与える
時間が経つにつれて、どのような要素が関係の質に影響する?
時間の経過に伴うLMXの変化に与える影響として、心理学でいう「単純接触効果」以外の要因として、リーダーおよびメンバーのパフォーマンスに着目しています。
つまり、パフォーマンスが上がると、リーダー⇔メンバー間で信頼が高まる、というメカニズムです。
この研究では、パフォーマンスを見るために、国防総省の研究および訓練目的のために開発された「Distributed Dynamic Decision-Making(DDD)」という、意思決定のシミュレーションゲームのようなものが使われています。
各チームは同じ部屋で協力し合い、自由にコミュニケーションをとることができました。ほとんどのチームは、12回のコンピューター・シミュレーションを通じて高いレベルのコミュニケーションを行っています。(高い成績を取るとインセンティブが与えられる)
こうした条件下で、パフォーマンスの関連性が、関係の質にどう影響するかを調査しています。
著者らは、パフォーマンスが良いリーダーに対して、メンバーは信頼と支持を構築し続けると共に、リーダーに対して抱く尊敬の度合いにも影響を与えると予想し、実際に想定通りの結果が得られています。
補足分析
本研究では、補足分析として、リーダーとメンバーの性別の類似性およびパーソナリティ(特に外向性と協調性)の類似性がLMXの質に与える影響を検討しました。
その結果、性別および外向性の類似性は、初期の交流におけるリーダーまたはメンバーのLMXを有意に予測しない、ということが示されました。つまり、性別や外向性の類似性は、あまり関係の質に影響しない、ということです。
他方、協調性の類似性に関しては、2つの異なる結果が示されました。
①リーダーとメンバーの協調性が類似している場合、メンバーが評価した初期のLMXに有意な影響を与えました。つまり、リーダーが高い協調性を持っているとメンバーが評価した場合、初期の交流におけるLMXの質は高く保たれる
②リーダーとメンバーの両方が協調性が低い場合、初期の交流における関係の質は非常に低くなります(メンバーが評価した場合)。
すなわち、協調性がリーダー・メンバー間で類似していることは、メンバー目線における関係の質に重要だと言えます。
感じたこと
LMXは、関係性によって生じるリーダーシップの形態、という整理がなされ、リーダーシップ理論の中で説明される概念ですが、LMXの変化に対して互いのパーソナリティに対する認知の影響もあるというのは参考になります。
リーダーは、メンバーがどんどんリーダーに話しかけてくるような社交的かつ積極的な「外向性」によって関係の質を評価し、
メンバーは、「協調性」つまりリーダーが自分たちに協調的であることで関係の質を評価する、というのは、チーム内で関係の質を高めるための視点として興味深いと感じました。