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【マルチレベル】分析を行う際の「前提」をおさえる指標を詳しく解説した文献!(鈴木・北居, 2005)

今回もマルチレベルを扱った研究に関する文献です。この分析は、まずデータが個人レベルと集団レベルに分けられるのか、という前提を丁寧に押さえる必要があります。
組織行動論関連でマルチレベル研究を行う際には、必読の書と言えるくらい重要な文献です。(ただし、数式も出てくるので多少難解です)

鈴木竜太, & 北居明. (2005). 組織行動論における集団特性の分析手法-マルチレベル分析に関する研究ノート. 神戸大学大学院経営学研究科 Disscussion paper, 45


どんな論文?

この文献(ディスカッション・ペーパー)は、マルチレベル分析における手法やプロセス、分析手法をかなりわかりやすく示した論文です。

何がありがたいかと言うと、マルチレベル研究を行う上で確認しておくべき、重要な指標とその値が示されている点です!
分析において、「この数値で妥当と言えるのか?」という値は、なかなか決まっていないことが多いのですが、(相関係数しかり)、過去の文献を参照し、その上でこの値が良いとされている、という説明があるので、安心です。

ほかにも、集団内(Within)・集団間(Between)の分析手法や、具体的研究例の紹介など、初めてマルチレベル分析を行う方にとって、まず押さえるべきポイントが詰まっており、必読の書です。


集団内合意、信頼性、非独立性

マルチレベル研究において、そもそも、分析を進める前段階で確認しなくてはならないのが、この3つです。

下位レベルに基づいたデータを上位レベルで集計する(例えば、個人レベルで集めたデータを集団特性として集計する)ことに意味があるかどうかを示すために、集団内のメンバー回答が、偶然集められたメンバー回答と比べて似ている、ということを示す必要があります集団のメンバー回答は、集団の影響を受けているため、偶然のメンバー回答よりも類似度が大きいはず、だからです。

そのためにおさえるべき指標が、rwg、ICC(1)、ICC(2)、η2乗、の4つだと説明されます。それぞれの分析手法の詳細は後段で少しだけ説明しますが、以下のように要約できるようです。

※WABA(Within and Between Analysis)は、集団の異質性を扱う時に使われる指標です。本文献にも記載があるのですが、数式が多くて理解をいったん棚に上げることにしました。
※η2乗は、WABAともICCとも関連する値ですが、それ単体でデータ階層性の指標として扱うことは見る限りなさそうです。

なお、ICC(1)、ICC(2)については、前回の投稿で触れておりますので、そちらをご参照ください。


各指標の詳細


1.合意指標rwg ~どれだけ、集団内で回答傾向が類似するか

集団内合意とは、集団内の人々の回答が一致している程度を示しています。(文献では、集団内のメンバー相互にその回答が交換可能である程度、と書かれています)
データに階層性があるか、つまり、個人レベル=集団レベルとならず、集団レベルでの分析に意味があるかどうかを、合意指標rwgで確認します。

rwgは、簡単に言えば、観測された分散と、まったく合意が存在しないとき(=集団の影響を受けず、個人がランダムに反応したとき)の分散の差を用いて計算されるものです。合意の程度が高ければ1,低ければ0に近づきます。

rwgは、統計的有意水準のような明確な基準は存在しないようです。ただ、合意指標の計算方法を示したJamesは、経験的な基準として0.70という数値を示したとのこと。これが一つの基準となりそうです。ただし、合意が存在しないときの(理論的)分散は、一様分布を基にしており、それを過剰評価する危険性も指摘されている様子。よって、ICCなど複数の指標と並行して使うことが推奨されています。

2.Interclass Correlation(ICC)
マルチレベル研究では、ICC(1)とICC(2)に分けて測定されるようです。ICC(1)が1.0のとき、グループ内のメンバー間の反応が同じであることを示しています。一方、マイナスの値を取ることもあります。その時は、データの分散がグループ間にはなく、グループ内の個人間にあること(=グループの影響はない)と解釈されます。
なお、ICC(1)の基準は、James(1982)によるICC(1)を用いた研究レビューにより、0~0.5の間を取り、中央値は0.12とのこと。

ICC(2)は、メンバー間の平均的な評価の信頼性の程度を示すもので、グループ間で十分な違いがあるかどうかの指標にもなっているようです(Ostroff, 1992)。ICC(2)が1に近づけば、グループ同士がより区別できていることを意味します。
なお、ICC(2)にも、集計を正当化するための統計的基準はなく、一般的に用いられているのが0.70であり、0.50未満だと、合意を示すには不十分と解釈されるようです。

3.η2乗(イータ2乗)
イータ2乗は、グループ間の違いで説明される分散の割合であるηB2乗と、グループ内の違いで説明される分散の割合であるηw2乗の2つがあります。(BはBetween=グループ「間」、WはWithin=グループ「内」を表します)
グループ間の違いの割合とグループ内の違いの割合を足すと1になります。

ηB2乗は、ICC(1)と同様、ある変数の分散におけるグループ間分散の割合を示すものなので、グループサイズが十分大きいとき、両者は等しくなるようですが、グループサイズが小さいとき(文献では、25人未満と例示されます)は、ICC(1)と比べてηB2乗が大きくなる傾向があるようです。


感じたこと

合意指標rwgや、ICCは論文で頻発するので、データに階層性があると示す際の基準としてしか見ていませんでしたが、何を表しているのか、少し理解が深まった気がします。(ただし、難解なのでおそらくすぐに忘れます)

数式は最低限にして説明されているので、なんとなくついていけます。また、基準となる値もあるので、元論文を参照するのにも有用です。

この論文と投稿は、何度も見返して自分の理解を深めるために使おうと思いました・・・。



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