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【インクルーシブ・リーダーシップ】多様なメンバーによる組織への「埋め込み」にILが効果を発揮する!?(Ghosh, 2023)

ちなみに、共著者に名を連ねているのは京都大学の関口教授です。グローバルHR関連の幅広い領域で、主に海外ジャーナルでの投稿に投稿されており、引用数も多く、世界レベルでの研究者のお一人と言えます。

Ghosh, D., Gonzalez, J. A., & Sekiguchi, T. (2023). Different feathers embedding together: integrating diversity and organizational embeddedness. Journal of Management Studies.


どんな論文?

この論文は、エンベデッドネス(Embeddedness)という考え方と、組織の状況や人口統計学的なダイバーシティに関するプロセスについての理論モデルを提示したものです。

「組織エンベデッドネス(Organizational Embeddedness)」とは、個人が組織と強い結びつきを持ち、そこから離れにくい状態を表す概念です。「エンベッド(Embed)」とは英語で「埋め込む」という意味です。

組織の人材定着の研究において用いられており、「なぜ従業員が辞めるか」ではなく、「何が従業員をそこにとどまらせているのか」という観点に着目しているのが特徴です。

組織におけるエンベデッドネス(OE)は、人々を組織に留めておく力の総体(つながり、適合、犠牲(組織を離れると失うもの)を合わせたもの)を指します。
この論文では、OEの3要素が、組織ステージの違いや、マジョリティ・マイノリティという従業員の多様性でどう異なるかを理論的に示しています。

この理論的フレームワークが、以下の図です。

P4

つまり、
組織の画一性・多元性・多様性といった特徴が(Organizational Context)、
グループ内の関係性(Intergroup relations)に影響を与え、
OEのダイナミクス(OE development dynamics)が高まり、
その結果として、
OEのスピードや程度(Degree and speed of OE development)に影響する。
そして、
グループ内の関係性が、組織エンベデッドネスのダイナミクスに影響する効果を、インクルーシブ・リーダーシップが高める、というモデルです。

組織の段階に関する着目

また、この論文で特徴的なのは、組織のステージによる、多様な社員の組織への埋め込まれ度合いの違いに着目している点です。

過去の研究から、3 段階組織人口学モデル(Cox, 1991; Joshi, 2006)を使用し、組織の多様性のステージを、画一的(均質で構造的に分離している)、多元的(中程度の異質性と構造的統合)、多文化的(異質で構造的に統合されている)のいずれかとして示しています。

そして、各ステージにおいて、マジョリティとマイノリティといったグループ内の関係性がどのように、組織的エンベデッドネス(OE)に影響するかを丁寧に分析しています。

マジョリティ出身の従業員は、まず組織への埋め込みとして、組織とのつながりを経験し、次に組織へのフィット、そして犠牲を経験するようです。
このような順序は、画一的ステージの組織において、OEの度合いと開発スピードを低下させるようです。逆に、多元的な組織の方がより大きく、より速いと考えられます。

他方、マイノリティ従業員は、まず犠牲を経験し、次に適合を経験し、次につながりを経験する。マジョリティ社員と、OEの経験の仕方が逆になります。

なぜ、ILがこのモデルにおいて有効なのか

3段階の組織ステージそれぞれにおいて、インクルーシブ・リーダーシップが果たす役割が異なります。以下、ステージごとに見ていきます。

①画一的ステージにある組織

この組織では、OE開発において、周縁化されたグループ(マイノリティ)出身の従業員とのつながり、適合、犠牲の低減に関する、阻害要因を取り除くことが重要とのこと。

これを達成するために、インクルーシブリーダーは、意思決定や社会的ネットワークにおける彼らの発言や参加促進を通じて、マイノリティのエンゲージメントを高めるような方針と実践を組織レベルでデザインするひつようがある、と説明します。

その際に効果的なインクルーシブ・リーダーシップは、現段階では比較的同質的でダイバーシティやインクルージョンに鈍感な支配的グループの従業員をターゲットとし、彼らの独自性を大切にしながら、マイノリティの従業員をインサイダーとして扱うインクルージョン・マインドセットを促進すること

さらに、インクルーシブリーダーは、組織全体としての正式な構造、方針、 プロセスを通じて、社会的グループ間の権力、資源、機会の分配に貢献します(Nishii and Leroy, 2022)。

このようなインクルーシブ・リーダーシップのプロセスと行動は、特にマイノリティ従業員のエンベデッドネスを改善する可能性があります
最終的に、インクルーシブ・リーダーシップは、画一的な組織を多元的な組織へと変革するのに有効な可能性があると説きます。

②多元的ステージにある組織

この組織ステージにおいては、インクルーシブ・リーダーは、補完的・相補的な適合性とともに、質の高い同集団と異集団のつながりを発展させる異集団間の社会的相互作用を促進する関係性のつなぎ役となります。

また、アイデンティティの脅威や集団間の対立を防ぐために各集団の独自性を認め、全従業員が社会的アイデンティティや深いレベルでの違いを理解できるような実践を行います。このアプローチは、どのグループの従業員も排除されたと感じることなく、多様性の重要性を強調し、グループのアイデンティティの安全性を維持する(Emerson and Murphy, 2014)と予想されるとのこと。

③多文化的ステージにある組織

この組織ステージにおいては、効果的なインクルーシブ・リーダーシップを通じて、あらゆる社会的グルー プの従業員の帰属意識と独自性を維持することで、彼らのインクルージョン経験を活かし、リンク、フィッ ト、犠牲の開発を強化・加速させ、OEを高く、迅速に発展させることができるようです。

また、インクルーシブリーダーは、全従業員に対する敬意を示す正義と公平性を確保し、ホスピタリティ溢れる環境を作り出し、メンバーのニーズを支援し、彼らや彼らの好み、意見を支持することを表明することによって影響力を行使するとのこと。


感じたこと

組織のステージと、マジョリティ・マイノリティ、そして組織への埋め込まれ度合いとそのスピード、こうした変数を丁寧かつ緻密に分析し、各パターンにの留意点を論理的に示した点は、参考になります。

また、各ステージや、マジョリティ・マイノリティに対するILの有効性にも触れられています。これにより、実践者目線で言えば、自分たちの組織ステージや、集団におけるマジョリティ・マイノリティの状況を抑えた上で、組織へのリテンション向上のための適切なIL発揮を推奨できます。

リーダーシップは魔法の杖ではありません。だからこそ、こうした組織の文脈条件や、集団の特徴に合わせて、インクルーシブ・リーダーシップの中でもどこに力点を置けばよいかの指針を示した本論文の価値は大きいです。


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