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【リフレクション】批判的内省と、それ以外の思考との違いとは?質問票もあり(Kember et al., 2000)

今回はリーダーシップ関連ではなく、「リフレクション(内省)」に焦点を当てた文献です。批判的内省と内省の違いが描かれています。

Kember, D., Leung, D. Y., Jones, A., Loke, A. Y., McKay, J., Sinclair, K., ... & Yeung, E. (2000). Development of a questionnaire to measure the level of reflective thinking. Assessment & evaluation in higher educatio


どんな論文?

この研究は、専門職準備コースにおける学生を対象に、内省的思考のレベルを測定するための質問票を開発することを目的としたものです。

著者らは、内省的思考のレベルを以下の4つに分類しました。

  • 習慣的行動(Habitual Action)

  • 理解(Understanding)

  • 内省(Reflection)

  • 批判的内省(Critical Reflection)

著者らの作成された尺度は、それぞれ4設問から構成され、Appendixに実際の設問も記載されているため、多くの研究で使用されています。

本研究は、香港の大学生350人を対象にテストされたものです。確認的因子分析により16の項目が意図された因子構造に適合し、各尺度の信頼性が確認されました。

研究結果から、大学院生が学部生よりも内省的思考を多く行うことが示されました。著者らの考察では、大学院生は多くの場合、既に専門的な実践や、ある程度の職業経験(問題解決や改善の機会を含む)を持つため、自身の行動や信念を深く批判的に見直す必要性を強く感じている、とのこと。

さらに、大学院生は多くの場合、自己の専門分野に対する強い関心や情熱を持っており、その分野での実践や研究を通じて自己改善を図る意欲が高いです。このような意欲が、日常的な実践や経験を振り返り、より良い方法を模索するための批判的内省を促進するとのこと。

この批判的学習への理解を深めるために、他の内省的思考との比較や違いについても見ていきます。


内省的思考の4段階

この論文で紹介された4段階について補足します。

習慣的行動(Habitual Action):
習慣的行動とは、以前に学習され、頻繁に使用されることで意識的な思考をほとんど伴わずに自動的に行われる活動を指します。例としては、キーボードのタイピングや自転車の乗り方が挙げられます。熟練した専門家が通常の問題に対処する際、特定の問題を何度も経験すると、同様のケースに対処する方法がルーチン化されます。ショーンはこのような行動を「行動の中の知識(knowing-in-action)」と呼びました。(内省までは行かないもの)

理解(Understanding):
理解とは、メジローが「思慮深い行動(thoughtful action)」と呼ぶもので、既存の知識を評価せずに使用するタイプの学習や思考を指します。大学で行われる多くの「書籍からの学び」はこのカテゴリに含まれます。
(こちらも内省とまでは行かない)

内省(Reflection):
内省は、「学習と教育」で有名なジョン・デューイが提唱した概念です。彼の定義によれば、内省は、支持する根拠とそれが導くさらなる結論の光の中で、あらゆる信念または仮定された形態の知識を積極的に、持続的に、注意深く考慮すること、と言われます。

具体的には、現状を問題化し、その妥当性に関する疑問を提起するプロセスです。また、新しい理解と評価に至るために個人が経験を探求する知的および感情的活動を指します。

批判的内省(Critical Reflection):
批判的内省は、メジローが「前提の内省(premise reflection)」とも呼ぶもので、私たちがどのように認識し、考え、感じ、行動するのか、その理由を意識することを伴います。これは、無意識に内在する信念や価値観を批判的に見直すことを必要とし、視点の大きな変革を伴います。
したがって、批判的内省は、根深い信念を変更する困難なプロセスであり、従来の知恵や仮定を意識し、それを批判的に評価すること、とのこと

※デューイも、批判的内省とそれほど深くない内省を区別し、十分に批判的でない人はすべての可能性を検討せずに急いで結論に達することがあると指摘したようです。

これら4つの尺度は、それぞれ異なるタイプの思考と行動を測定しており、学生の反省的思考のレベルを評価するための有用なツールとなります。


内省と批判的内省の違い

内省(Reflection)と批判的内省(Critical Reflection)の違いについてもう少し補足を加えます。

簡単に言うと、内省は経験を振り返ること、批判的内省はその経験の根底にある前提や信念を問い直すことです。批判的内省は無意識に内在する前提や信念を批判的に見直し、視点を根本的に変えるプロセスと説明されます。

信念や視点が変わるかどうか、が大きなポイントになりそうです。(ジャック・メジローの「変容的学習」でも、この信念や視点の変容が重要とされます)論文中に書かれている例示と目的を紹介します。

  • 内省とは、例えば、授業や実習で学んだことを思い返し、それがどのように役立ったかを考えることである。内省は主に過去の経験を再評価し、その学びを深めることを目的とする。

  • 批判的内省とは、例えば、ある信念がどのように形成されたのか、その信念が現在の行動にどのような影響を与えているのかを深く掘り下げて考えることです。批判的内省は、大きな視点の転換や根本的な理解の変化をもたらすことを目的とする。


感じたこと

「大人の学習」として時々耳にする「変容的学習」を促す批判的内省について、理解が深まると共に、質問票が掲載されていてとてもありがたい論文でした!

リーダーシップ開発にはまず自己認識を高めること、と言われたりもしますが、ただ自己認識するだけでなく、自らを批判的に省みて、信念や視点を変えられることも重要だと感じました。

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