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【インクルーシブ・リーダーシップ】ILを扱った日本の著者らによる海外論文!(Morinaga et al., 2023)

随分とご無沙汰しておりました。実際の研究や論文執筆に時間を振り切り、アウトプットは少しお休みしておりましたが、徐々にアウトプットも再開していこうと思います!(やるぞ!)

本日紹介するのは、日本の著者らによる、海外ジャーナルに寄稿されたIL関連の論文です。

Morinaga, Y., Sato, Y., Hayashi, S., & Shimanuki, T. (2023). Inclusive leadership and knowledge sharing in Japanese workplaces: the role of diversity in the biological sex of workplace personnel. Personnel Review, 52(5), 1405-1419.


どんな論文?

この論文のポイントは以下の通りです。

・ILを発揮した上司のもとでは、部下が相互に知識共有を行う
・(生物学的)性別の多様性が高いチームでは、IL⇒知識共有の度合いが高い(逆はそうでもない)
・集団レベルと個人レベルの変動を分けたマルチレベル分析

簡単に言えば、インクルーシブなリーダーの下では、部下が支援されていると感じるため、知識の収集と伝達を頑張って行おうとする、というものです。

しかも、チームにおける多様性が高い状況下では、IL⇒知識共有の度合いが高まりました。これはどのようなことでしょう。少し詳しく解説します。

知識の収集は、相手から情報を引き出す行動です。
つまり、職場において同僚から情報をもらえるようお願いしたり、説得する必要があります。ちょっと面倒ですね。

知識の伝達だと、自分の時間を使えばよい(一方的なメッセージならなおさら)ですが、相手から情報をもらおうとする知識の収集は、相手の時間を奪う、という心理的なハードルが生まれそうです。

多様性が高い状況だと、さらに遠慮が生まれる可能性があります。
気軽に話を聞いたりするのも同性の方が気を遣わない可能性はあります。言い換えると、異性に知識の収集をしにくいことが想定されます。

今回の研究結果は、インクルーシブな上司は、職場全体でメンバーの受容力、包容力を高めることで、多様な性別の方が集まる職場でも、互いのためを思った行動がとりやすくなり、結果として、遠慮の入ってハードルの上がる知識の収集行動も促進される、という可能性を示唆しています。

集団レベルと個人レベルを分ける

もう一つのポイントは、ILの影響を集団レベルと個人レベルに分けている点です。リーダーシップは、①チームメンバー全体への影響と、②メンバー個々人に対する影響、の両方が想定される概念です。

言い換えると、①はチーム内で似通った認識があることを指し、②はチームの影響とは別に、リーダーの影響に対して個々人が認識を持つことを指します。
これに関して、①を集団レベルでの変動(分散)、②を個人レベルでの変動(分散)として、統計的に処理することで、①と②の影響を分離して分析することができます。

逆に、①と②を分けて分析しないと、本当は①(職場全体に対するILの影響)なのに、②(個人に対するILの影響)と誤って解釈してしまう恐れがあるのです。

今回の研究では、①を考慮した上で、②の有効性を示しています。言い換えると、リーダーの振る舞いは、ILの集団レベルと個人レベル、両方の影響を分けて分析したものの、2つのレベルとも、知識共有の度合いと関連性を持つことが示されました。

チームに与える影響と個人に与える影響の両方を見ることで、インクルーシブなリーダーの影響が職場全体に広がり、個々人の認識にも影響した、ということが言えそうです。

感じたこと

テレワークなども広がり、職場の個業化が進むと言われます。さらに、多様性も増すと、知識共有のような面倒なことはちょっと・・・オンラインだしわざわざ言うのも億劫、などと感じる方もいるかもしれません。

こうした変化のある職場で、インクルーシブな上司がいるだけで、職場内の知識共有が進みやすいという結果は、コロナ以降の新しい働き方で、知の交換を進めるためのヒントを与えてくれます。

インクルーシブ・リーダーシップが、職場においてますます重要になる、ということを感じており、IL研究者のはしくれとしては、しっかり知見を現場に届けねば、という想いを強くしました。

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