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【ダイバーシティ】ダイバーシティ研究を概観し、潮流を知るための良文献!(内藤, 2024)

ダイバーシティ・マネジメントを知る上での必読書!とも言える文献と出会いましたので、紹介させていただきます。

内藤知加恵. (2024). ダイバーシティ・マネジメント研究の新たな潮流. 日本労働研究雑誌, 66(4), 44-49.


どんな論文?

この文献は、ダイバーシティ・マネジメント(多様性管理)に関する研究を概観すると共に、どう進化・変化してきたか、そして現在の潮流は何かをまとめたものです。特に、理論や属性の面に焦点を当てています。

ダイバーシティ・マネジメントとは、企業が多様な人材を取り入れ、その違いを活かして組織の成果を向上させるマネジメント手法であり、1980年代から研究が進められてきました。

研究初期は性別や人種などの基本的な属性に焦点が当てられていましたが、最近では障がい(ニューロ・ダイバーシティ)や性的指向(LGB)といった新たな属性が注目されているようです。
また、こういった属性は差別につながりやすく、また「見えにくい」(障害でいえば、知的障害は一見わかりにくい)と指摘されています。

障がい者に関しては、法定雇用率が年々高まっていると筆者は指摘しています。障がい者の受け入れに関する各国政府の取り組みもあり、社会の公器としての企業の倫理的な役割は「倫理的正統性」と説明されます。

一方で、ダイバーシティ・マネジメントの観点では、こうした貴重な人材をインクルードし、活躍を後押しすることで、企業の競争優位性を高めることも戦略上重要になります。こうした「経済的正統性」の観点でも、ニューロ・ダイバーシティや性的志向の多様性は重要である一方、まだまだ研究蓄積は少なく、今まさに注目され始めている領域(潮流)のようです。

(「正統性」については後述します)


ダイバーシティ・マネジメントの理論的展開

著者によれば、ダイバーシティと成果の関係を説明する理論は大きく3つにわかれるようです。ダイバーシティが成果に良い影響を与えるというプラス論と、逆に悪い影響を与えるというマイナス論、そして、両者を統合する理論(モデル)です。以下に簡単に整理します。

1.プラス論
ダイバーシティのプラス論は、多様な人材が集まることで、組織やチームがより広範な視点や情報を得られると主張します。これにより、意思決定の質が向上し、創造性が高まり、結果として企業の成果が向上するという考え方です。

2.マイナス論
一方で、マイナス論は、ダイバーシティが増すことで、コミュニケーションの障害や対立(コンフリクト)が生じやすくなると指摘します。人々が異なる属性に基づいてグループ分けされると、内集団と外集団の対立が生じ、組織のパフォーマンスが低下する可能性があると考えられます。

3.統合モデル
統合モデルは、プラス論とマイナス論の両方を統合して考えるアプローチです。その1つがカテゴリー化精緻化モデル(CEM)です。ダイバーシティが対立を引き起こす一方で、その対立を通じてより精緻な情報処理が行われ、最終的に創造性や成果の向上に繋がると説明します。このモデルは、ダイバーシティの影響が状況によって異なることを示し、プラス面とマイナス面をバランスよく捉えています。
もう1つは、ダイバーシティと成果の関係はコンテクストによる、という立場です。ある研究では、39 文献 8757 チームのデータをもとにメタ分析を行い、産業・職業(男性の多さ等,職業の人口統計学的構成)・チーム(長期・短期/相互依存性)といった、レベルの異なるコンテクスト要因が、チームダイバーシティと成果の関係を調整することを示しているようです。

ちなみに、CEMを紹介した文献を過去の投稿で紹介しているので、リンクを貼り付けておきます。


ダイバーシティ・マネジメントの「正統性」とは

上の方で軽く触れましたが、ダイバーシティ・マネジメントには2つの正統性がある(Köllen 2021)、と本文献では紹介されています。

なお、正統性とは「正しい系統や血筋」という意味で、「正当(道理にかなっていて正しい)」とは異なります。この論文では、
「組織のアクションが内部および外部の利害関係者によって受け入れられ、認められること」
という他の先行研究の定義を援用しています。

1つ目は、経済的正統性です。経済的正統性とは,ダイバーシティ・マネジメントのもたらす経済的価値に焦点を当てた考え方で、

  • 多様な視点が正の影響を組織にもたらす(イノベーションの種)

  • ダイバーシティ・マネ ジメントに取り組むこと自体が、より優秀な人材を引き付けることに寄与する

  • 多様な従業員を適切に管理することで離職を防ぎ、企業のコストを抑えることができる

といった経済的な価値によって、組織のアクションが受け入れられる、ということを指しています。

もう1つが、倫理的正統性です。倫理的正統性は、ダイバーシティ・マネジメントを平等実現の手段ととらえる考え方で、女性、同性愛者、障がい者等、特定の社会的カテゴリーに属する、いわゆるマイノリティ社員が、高い地位に就けるよう,企業が投資することを正当化するものとされます。

  • 政治・ 経済分野のクオータ制(人数割当制)

  • アファーマティブ・アクション(積極的格差是正措置)

  • ポジティブ・アクション(積極的改善措置)

などは、倫理的正統性の観点から受け入れられるようです。

なお、経済的正統性と倫理的正統性は相互排他的ではなく、両立することもある、と指摘されています。


感じたこと

一言でいうと、D&I関係者は必須で目を通すべき文献です。企業におけるダイバーシティ・マネジメントを支えるための理論的背景や、浸透させるための理論的見地を得るのに最適です。

企業のダイバーシティ・マネジメントにおいては、経済的正統性と倫理的正統性、この2つの両立をどのようにストーリーとして浸透させられるかが重要です。ただ、どのようなストーリを紡ぐにせよ、理論という「背骨」の通った話でなければ正統性を得られない、と感じます。

この文献は「良い理論ほど実践的なものはない」という有名な言葉を感じさせてくれるほど、有用な示唆に富んでいると感じました!

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