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【大公開】2024年シーズン NPB審判員リクエスト成績<上>

まえがき

2025年の「球春到来」を約2週間後に控えたプロ野球。2月1日は選手だけでなく審判員もキャンプインします。
MLBのようにいきなり対外試合からその年をスタートさせるのではなく、NPBではまず選手の練習に参加しながら目慣らしや動きの確認を行い、シート打撃、紅白戦を経て対外試合である練習試合やオープン戦に入っていきます。
おそらく各チームの練習風景がスポーツニュースで取り上げられる際に、投内連携やフリーバッティング、ブルペンでの投球練習で審判員の姿を目にしたことがあるのではないでしょうか。

審判員のパフォーマンスの良し悪しとは

審判員も選手と同様、シーズンを万全の体制で挑み、毎試合よりよいジャッジメントをするためにキャンプから準備をします。審判員のパフォーマンスの良し悪しは端的にいうと、

「正確なジャッジができるかどうか」

正直なところ、審判員の存在が本当に求められる場面は試合の5%ほどと言われています。だれが見ても明らかなアウト・セーフ、キャッチ・ノーキャッチ、フェア・ファウルなどは極論、まったく判定をしなくても何ら問題なく試合が進行します。例えば↓の映像は最悪なケース。

むしろ極端な話、判定をしなかった方が何も起こらずに試合がスムーズに進行していたところを、守備側ですら何も言わないような明らかなセーフをアウトにしてしまっています。これは審判員として一番低レベルなミス

前述の5%とは言葉で表すと、守備側と攻撃側が両方のメリットを主張するケースで、第三者である審判員に白黒つけてもらわないといけない場面、すなわち

「これは際どいからどっちか決めて!」

というときになって初めて審判という存在が求められるのです。

審判員のパフォーマンスを知る手段

しかしながら、この審判員のパフォーマンスは基本的に公表されることはありません。推測では、NPBが裏でそのデータを一括管理し、その成績に応じて割り当てや翌年の契約などを考慮していると考えられますが、一般に公開されているデータがないので野球ファンには「審判員のパフォーマンス」を具体的に知る由はありません。

近年のSNSの発達に伴い、”誤審”があれば大々的に取り上げられ、昔のスポーツニュースやスポーツ新聞のみが取り扱っていたときに比べればより細かな判定が、より早いスピードで多くの方々に知れ渡るようにはなりました。
ただしこの問題点は、影響のある判定のみが大きく取り上げられることや、いい判定は見逃されることがあり、現場でジャッジする審判員にとっては印象や事実根拠という点においてフェアなシステムではありません。

ということで、今回は2024年度のNPB審判員のリクエスト成績を公開し、並びにそのデータについて詳しく考察していきたいと思います。

概要

総リクエスト数

昨年の年間合計リクエスト数は561回でした。

これは1試合平均0.65回リクエストが起こる計算となりますが、言い換えると1.5試合に1回リクエストが行われる、すなわち全12球団が試合を行った日には一日平均で4回のリクエストがあるということになります。

NPB審判員の正答率は79%(図↓)で、2024年度のMLB審判員の正答率48%を大きく上回ります。

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ただしこれを見て「NPB審判員がMLB審判員よりも優秀」とするのは早合点。
理由は、MLBのリプレイ検証システムでは、プレイが落ち着いた後に15秒の時間制限があり、この間に判定を「チャレンジ」するかをチームの代表者である監督が決断します。この決断にあたり、チームは独自に用意した”映像検証チーム”が即座にその判定を「チャレンジ」するに値するか、実際の映像を見ながらテクノロジーを駆使して30秒以内に検証し、監督に伝えます。そのため、チームが「チャレンジ」に成功する確率がその場で見て判断したり、当該選手の反応に頼るよりも高くなる、という寸法です。

プレイの種類

圧倒的に多かったのは、「アウト/セーフ」の判定。全体の92%に上ります(図↓)。

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残りの8%を抽出すると、その内訳は以下(図↓)のようになります。

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ポジション別

一番多かったのは一塁塁審の判定に対するリクエストで、52.9%と過半数を占めました。牽制やライト線のフェア・ファウルの判定、キャッチ・ノーキャッチも含まれますが、基本的には内野ゴロの際のフォースプレイ。
NPBでは前述のMLBのような”映像検証チーム”は存在しないため、そもそも他の塁よりもプレイが起こる確率が高いことに加え、イニング終わりや試合最後のアウトがダブルプレイなどによって際どくなった場合、「”せっかく”なのでリクエストする」パターンも多く見受けられたことがリクエストの半数以上を占める要因と考えられます。

続いては二塁塁審で29.1%。主に盗塁や牽制、ダブルプレイの際のフォースプレイ、二塁打を狙った際のタッグプレイが大半を占めます。

その次は球審で11.8%。得点に絡む本塁でのクロスプレイはもちろんですが、投球が打者の身体に当たったかどうか際どい場合もリプレイ検証が可能なので、そのケースも一定数見受けられました。

そして一番少なかったのが三塁塁審で6.2%。この統計はプレイが「起きた場所(塁)」ではなく、塁審のポジションをもとにしているため、二塁塁審が打球を追って外野に出た場合は打者走者が二塁を狙った際の二塁でのプレイもカテゴリーとしては「三塁」に含まれることになります。あとは三塁打を狙って三塁でタッグプレイが起こったケースやレフト線のフェア・ファウル、そして外野でのキャッチ・ノーキャッチがその内訳となります。

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個人成績

まず前提として、審判員を評価する際に「数字がいい=いい審判員」と決めつけることはできません。なぜなら、機会が不均等だからです。1シーズン通してまったく際どいプレイに出くわさない審判員もいれば、逆に毎試合のように映像で見ても白黒つけ難いプレイに出くわす審判員もいます。このような白黒つけ難いプレイでリプレイ検証の結果、判定が覆った場合でもメジャーリーグでは「replay miss(リプレイミス)」と呼び、マイナス評価の対象とはならないことになっているそうです。
そのため審判員のパフォーマンスを正確に評価するためには、プレイ一つひとつを検証する必要があります。

なので今回ご紹介するのはあくまで、数字上におけるパフォーマンスの良し悪しであることをあらかじめお断りしておきます。

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【大公開】2024年シーズン NPB審判員リクエスト成績<上>|松田貴士(まつだたかひと)