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【読書レビュー】たゆたえども沈まず/原田マハ

久々に立ち寄った書店で衝動買いした原田マハさんの新作文庫本。表紙絵には、ニューヨーク近代美術館(MOMA)で鑑賞して以来、とても好きな作品の一つとなったフィンセント・ファン・ゴッホの“星月夜“。

最近は文庫本を滅多に買わなくなったけど、読み応えのある一作だったので、レビューを書きました。

◆作品名/作者:たゆたえども沈まず/原田マハ

◆価格:750円(税抜)

◆ジャンル:熱き男達のヒューマン系アートフィクション

◆ボリューム:読みやすさ○、文庫本サイズで450P程度

◆こんな人にオススメ:美術(とりわけゴッホ/印象派時代)が好きな人、ちょっと教養深まりそうな本を気軽に読みたい人、在宅を余儀なくされ退屈極まりない人

~あらすじ/所感~

物語の舞台は19世紀後半、栄華を極めるパリの美術界。
"加納重吉"という一人の日本人の視点からこの物語は描かれる。フランスへの憧れを抱くことが嘲笑の対象ですらあった当時の日本において、パリへの情熱を貫き一足先に旅立った“林忠正“という人物からの誘いを受け、重吉は画商としてパリへ向かうことになる。

この時期のパリは、官僚的で画一的な従前の絵画認識からの脱却を目指し、新たな表現を試みる一派(印象派)が徐々に躍進していく時代。そんな環境の中で孤立奮闘する重吉と忠正の日本人としての葛藤や、正統を好む保守的な権力層と気鋭の画家達の対立は一つの見所となるだろう。

気鋭の画家の中には同時期に流行した日本の浮世絵を参考にする者も多く、物語はこうした画家達や先見の明を持つ者達と、浮世絵の画商を生業とする重吉と忠正との関わり合いの中で進んでゆく。

その中で重吉は、フィンセントの弟テオドロス(テオ)と出会い次第に仲を深めることとなる。兄の才能を信じ抜き、一人の画商としてまた弟として繊細すぎる兄を精神・金銭両面で支え続けるテオ。繊細で不安定ながらも決して絵を描くことだけはやめることのないフィンセント。
一見すぐに綻びてしまいそうな細い糸で繋がった兄弟の物語が中盤以降のメインテーマであり最大の見所だ。

パリ美術界における一つの時代の転換期を描いた本作は、ある程度時代背景を知っている方が楽しめるのはもちろんだが、背景描写・心理描写がしっかりしている為、まっさらな状態からでも十分にその世界観を満喫することが出来る。

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この作品の見所は先にもお伝えした通りですが、読み進める中で時代背景をしっかり理解できる為、自分自身も19世紀後半のパリの世界に入り込み、登場人物達と一喜一憂しながら物語を読み進めていくことができます。

こうした共感や没入感が生まれるのは、細かな情景/動作等の描写から登場人物の内面が徐々に徐々に浮き彫りになってくる過程を経るからこそ。漫画でやりがちな推しメントークが出来そうなほど僕は感情移入してしまいました。

■表紙絵になっている“星月夜“に関して

僕自身がMOMAで“星月夜“を目にした時に思い描いたのは、澄んだ星空を見上げながら暖かな感情で描くフィンセント・ファン・ゴッホの姿でしたが、本作ではフィンセントの“孤独“が一貫したテーマとなっています。

表紙絵になっている以上、当然“星月夜“が完成するシーンがあるのですが、そこに至るまでの葛藤や苦悩を通してフィンセント・ファン・ゴッホという画家への理解と共感が深まると共に、より深く“星月夜“という絵のことを捉えられた気がします。

これも、事実とフィクションを巧みに織り交ぜながら登場人物達の人柄を際立たせていく原田マハさんが描いた世界観の成せる技ですね。

原田マハさん自身MOMAへの派遣を経て独立されている方なので、他の作品にも美術的な背景や知見が常に色濃く散りばめられています。
レビューを読んで、少しでも興味が湧いた方はぜひ読んでみてください!





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