2022年よかったマンガ7選 『ゴールデンラズベリー』『花四段といっしょ』『これ描いて死ね』他
遅くなりましたがあけましておめでとうございます。
2022年は仮面のリトルプレスづくりに追われてあんまし読めなかったけど、広まって欲しい作品もあれば、自分の心に刺さった理由をちょっとでも言語化しておきたかったので、この1年で好きだったマンガを備忘録として書き記しておきます。
●持田あき『ゴールデンラズベリー』(3巻、以下続刊)
りぼん作家としてヒット作を生み出してきた持田あき先生が、女性誌『フィールヤング』で連載している仕事×恋愛×芸能界マンガ。
高学歴高身長にもかかわらず転職24回目、恋愛履歴も純白という芸能マネージャーの男(32)が、つきあっては別れを繰り返し続けてきた下町のOL(21)をプロポーズに近いテンションでスカウトし、芸能界デビューを目指す物語です。
恥ずかしながら持田先生は全然通ってこなかったのですが、文化庁メディア芸術祭のマンガ部門大賞に選ばれたので読んでみたところ、ビジネスにおいても恋愛においても旧来の男女のジェンダーロールをぶち壊すストーリー、キャラクターの相関関係が描かれていて痛快でした。
キャラに親しみを抱いてしまうセリフにギャグも豊富で、マンガとして普通に読んでいて楽しい。日本社会のあるべき未来をコミカルにエデュケイトしてくれる作品で、つくづくメディア芸術祭の必要性を感じました(メディア芸術祭終了の問題と今後の提案について、美術手帖のこちらの記事がおすすめです)。
●増村十七『花四段といっしょ』(1巻、以下続刊)
『バクちゃん』の増村先生が描く、癖の強い若手プロ将棋棋士の雑念だらけの日常をテーマにしたギャグマンガ。
対局中に今日のお昼は何にしょうとか、相手が着けていた高級時計にいらぬ妄想が膨らんだりとか、主人公が雑念で盤面に集中できなくなってしまう様がおかしい。孤高にみえる棋士たちに親しみを抱いてしまう作品です。
『夢中さ、きみに』『女の園の星』の和山やまさんのようなインテリジェンスな笑いと、日常の切り取り方のセンスがあるので、もっともっと人気が広まっていいと思っています。
天才たちが天才である所以を紐解いて読者に提示することで、マジョリティとマイノリティの垣根をとっぱらう、ある種多様性を肯定した作品でもあるんじゃないでしょうか。特に女性初のプロ入りを目指す奨励会三段の朝顔さんのキャラクターが旧来のジェンダーロールを壊していくもので好きでした。
●とよ田みのる『これ描いて死ね』(2巻、以下続刊)
「そうか、漫画って、描けるのか。」
東京の離島で暮らす、漫画を読むのが大好きだった女子高校生が「作る側の世界」に興味を抱き、ペンを手に取りはじめる漫画家マンガ。
過激なタイトルとは裏腹に、『バクマン。』のような商業マンガの厳しい世界に挑んていくギラギラ感はありません。
「マンガって読むだけでなくつくることもできるんだ」という、創作の世界に触れたときの衝動と憧れ。そしてたった1話の読み切りを完成させることの難しさや苦悩を、朝ドラのような明るさで描いています。
漫画家マンガは「実はみんなが無料で読んでいるマンガって、こんなにつくるの大変なんだぜ」っていう生みの苦しみに焦点が当てられがちです。
でも本作は頭の中だけにあった世界をカタチにする創作の原動力、それが現実の人々にも届いたときの創作の歓びを、とてもピュアかつ踊るように描いているのがいい。大人になるにつれつい忘れがちになる、マンガってたのしい、創作ってたのしい、という根源的な芸術の快楽を呼び起こす作品になっています。
そうした物語を描くにあたって、マンガにしかできない演出がガンガン取り入れているのも素晴らしい。『金剛寺さんは面倒臭い』『FLIP-FLAP』など名作を生み出してきたとよ田先生の技術が遺憾なく発揮されており、1つの集大成になっているんじゃないでしょうか。
●高松美咲『スキップとローファー』(7巻、以下続刊)
TVアニメ化も決まってこれからますます人気が出るであろう、都会の高偏差値高校に通う青少年少女たちのスクールライフ群像劇。
入学を機に過疎地から上京してきた主人公・みつみちゃんが充実した学校生活を送ろうと奮闘するうちに、そのまっすぐかつまっしろな存在感から本人も気づかぬうちに周囲を笑顔にしていく物語です。
月刊アフタヌーンの連載で読んでいるのですが、2022年は主人公たちの学年が1つあがることで人間模様が少し複雑になり、そこでの衝突と和解が青くも素晴らしく、最新話のたびに涙していました。
読んでいてこんなに泣いている漫画、これまでなかったかもしれない。
もともと本作では学校社会におけるコンプレックスが実に多角的に描かれてきましたが、スクールカーストがもたらす闇のパターンもさらに豊富になってきた気がします。生徒たちがその苦しみのなか、関係を築きたい相手に素直な思いを打ち合けよう、対話していこうと殻を破る瞬間が実にエモーショナルでした。
高校を卒業しても、大学生になっても社会人になっても、世間のクソな常識やヒエラルキーはどこまでもつきまとう。しょうもないプライドにしがみついて自分の気持ちに正直に行動できないことって、本当に多い。
その苦悩を乗り越え、恥や失敗を恐れずにきちんと相手に向き合っていくことが人生ではとても大事ですが、『スキップとローファー』はそれを丹念なセリフと人間模様で教えてくれる青春劇だと思います。
生物学的な性別やジェンダー、性指向、スクールカーストを飛び越えて、本当に好きな人と相思相愛の関係を築いていくことの難しさ、失敗しながらも築き上げていくことの勇敢さ、美しさ。その魅力が連載中にさらに花開いた1年でした。きっと7・8巻あたりに収録されていると思うのでおすすめです。
●高妍『緑の歌』(上下巻)
台湾在住の作者が送る、初の連載作品。
台北に暮らす少女がはっぴいえんどやゆらゆら帝国、岩井俊二や村上春樹など日本の文化を通じて新しい世界と出会う姿を描いた、カルチャーライフストーリーです。サブカル勢には話題になりまくった作品ですね。
台湾が親日であることは知っていましたが、冒頭に出てくる主人公の本棚が吉本ばななやこうの史代、川上未映子とかもうヴィレバンみたいなラインナップになっていて、もちろん一部ではあるでしょうが台湾にここまで日本のサブカルが浸透しているんだって本当に驚きました。
日本人が愛聴愛読してきた作品が、海の向こうでも『花束みたいな恋をした』みたいな生活と変化をもたらしていると思うと、カルチャーのもつ可能性って自分が思っている以上に広くて深いんだなって胸が熱くなります。
写真のような背景とキャラクターとの対比、構図が浅野いにおを彷彿とさせながら、キャラ造形はウェットに富んでいるというか、端々に日本人作家にはないエッセンスが感じられます。この魅力を言語化するにはもっと台湾カルチャーに大量に触れる必要がありますが、可処分時間的にできるんだろうか。一応、音楽だけで透明雑誌以外にもっといろんな台湾インディーズバンドを聴いてみたいです。
この作者をフックアップして日本に流通させたエンターブレイン、さすがですね。国宝に認定すべきレーベルです。
以下、駆け足です。
●克・亜樹『ふたりエッチ』86巻
いやなんでだよって思うかもしれないが、自分にとって2022年の漫画体験として一番ぶちあがったのがこの『ふたりエッチ』86巻だったのだ。
ちょっとこれを書くとめちゃくちゃ長くなっちゃうので、別記事にまとめたいと思う。
●冬野梅子『まじめな会社員』(全4巻)
最終2話がすごくよかった。苦労せずともやりたい職を目指せる、周囲を気にせず付き合いたい人と恋愛できる特権階級と、属せなかった側両者の解像度を見事に上げてくれたし、ラストも「私は特権ないけどがんばるぞ!」とただ予定調和に終わらせせるのではなく、現実的なモデルケースを誠実に描ききった。作者の覚悟に感服した。
●そのほか気になっていること
・まんだらけが創刊した月刊Webコミックマガジン『ボヘミア』
連載陣、内容がオルタナティブすぎる。令和のガロというべき異彩を放っているので、スキを見つけては読んでおもしれー作家、作品を開拓したい
・マガジンハウス漫画準備室
リイド社のトーチWebの編集長を創刊時からつとめてきた名漫画編集者・関谷武裕さんがマガジンハウスにうつって漫画編集部を立ち上げた。しかも新進気鋭の劇画漫画家・川勝徳重さんも編集部に入ったらしい。これは注目せざる得ない。→マガジンハウス漫画準備室のTwitterアカウント
以上です。
まだまだ積読の作品あるから、1月ゆっくり読んでいきたいです。
●2021年のおすすめマンガはこちら→ 2021年推したいマンガ9作品 『三拍子の娘』『メダリスト』『奈良へ』等
●2022年の音楽ベストアルバムとベストライブはこちら →記事