#033 青春真っただ中
中学と高校時代の仲間でバイクに乗り続けているやつはただのひとりもいない。皆等しく歳をとり、老後の生活に気をもんでいる。漠然とした不安を抱えている。あの頃、大人が集まればなんで病院や病気の話題を繰り返しているのか全然分からなかった。けれど、今では誰もがその仲間入り。バイクの乗り方なんてすっかり忘れている。
先日、北海道で起こったとある事件のことがネットニュースになっていた。50代の女と60代の男が中学校で飲酒しているところを見つかり、警察に通報されて捕まったという。侵入した理由が痛快だった。ふたりともその中学の卒業生で、男が在校していた時、先生になにかを取り上げられたらしい。それを取り返すために忍び込んだというのだ。
50年ほども前に取り上げられたなにか。それが一体なんだったのかまでは触れられていない。だけれども、なんかいいなと思った。咄嗟に口から出た出鱈目だったとしても、ほんのひと時彼らは時間を巻き戻してそこにいたのだ。中学生だったのだ。
あるはずのないなにかを求める。追いかける。探す。人はそれを青春と呼ぶのだと思う。彼らはまだその真っただ中にいて、青春を続けていた。なんかちょっとうらやましい。バイクの音がする。
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