見出し画像

#476 タイアップって締め上げることじゃないんだぜ

交渉して応じてもらったパターン。
交渉して落としどころを見つけたパターン。
交渉して決裂したパターン。

最近、たまたまこの3パターンが立て続けにありました。ちょうどいい機会なので、2輪ライター業界のためにちょっとだけ書いておきます。いわゆる、タイアップ案件に関してです。

ここで言うタイアップとは、企業がメディアを介し、製品のプロモーションを行う手法を指しています。広告スペースを買ったり、CMを流したりするのが一般的ですが、いつもそればっかりもねぇ。じゃ、どうしよう。そうだ、ライターに製品を使ってもらって、それをネタにしてもらえばいいんじゃね? メディア側は、それで記事が作れるし、企業側は製品の宣伝ができる。つまり、お互いWinWinでYeah! みたいな感じ。 

広告の代替手法なので、それ相応の予算が立てられることになります。企業側はお得に宣伝したいし、メディア側はできるだけ効率よく儲けたい。そのせめぎ合いの中、とある新製品の販売促進のために50万円の予算が捻出されたとしましょう。

企業側は50万円の広告宣伝費で2000万円ほどの売り上げが見込めるといいな、と考えます。一方、メディア側は50万円の内、10万円を記事制作費として使い、残りの40万円を利益として計上できるといいな、と考えます。

では、その10万円の内訳は? 3万円をライターに払う原稿料、3万円をカメラマンに対する撮影料、残りの4万円を食費や交通費、場所代に当てて、いっちょあがり。経費に多少余裕があれば昼食が海鮮丼になり、ぎりぎりならコンビニおにぎりか、自腹。大体こんな具合です。

企業側は比較的リーズナブルな予算で製品のPRができる。メディア側は記事の制作費用+αがまかなえる。やっぱり、お互いWinWinでYeah!なわけです。

いや、ちょっと待って。そのお互いってやつに、ライターとカメラマンは入ってないの? 入ってないんです。

百万歩譲って、ライターとカメラマンにまったく負担がないのなら、それでもいいですよ。よくないけど。いつもと同じように書いて、いつもと同じように撮って、それぞれ納品して一段落。でも、タイアップはそういうわけにいきません。

企業側は製品の魅力がどれだけ伝わり、どれだけいい感じに撮られ、どれだけ読者の購買意欲をくすぐれるか。そこに価値を求めますから、当然原稿の内容がそれにふさわしいものになっているかどうかをチェックします。メディア側はそれを見越し、企業側の期待を上回るクオリティをライターとカメラマンに要求します。

結果、原稿と写真素材の納品期日は前倒しされ、企業側が気に入らないとなれば、書き直しになり、撮り直しになり、場合によっては、たいして心にもないことを付け足したり、整形じみたレタッチを施すこともあるでしょう。

こうして出来上がるのがタイアップ記事と呼ばれるもので、ウェブの場合だと、その片隅に「PR」、「Sponsored」、「BRAND POST」などと記載されているのがそれ。昨今、記載のレギュレーションは厳格化されているものの、取材協力費や編集協力費の名の元、なんとなく溶け込まされているケースも見受けられますが。

自身の立場を明確にしておくと、僕はタイアップに否定的ではありません。編集者やライターの能力にもよりますが、きちんとした取材の機会が設けられ、その中身や意図を深堀りした上で文字化するという行為は、企業にとってもメディアにとってもライターにとっても読者にとってもプラスに働き、製品の売上、来場者数、販売部数、ページビュー、購買するかどうかの判断材料……といった様々な要件に応えられるからです。

ただし、これをなんでもかんでも受けるかといえば、そんなこともありません。製品の魅力をポジティブに伝えることが基本姿勢とはいえ、まずいものをおいしいとは言えないし、言っちゃいけない。したがって、経験則としてあきらかに褒めどころがあるブランドだったり、コンセプトに共感できたものを取捨選択して、受けるか否かを判断しています。

言い換えると、まったく初見のメーカーや、オカルトグッズ系はお断り。なんらかの事情があって仕事をしなきゃいけない場合は、タイアップではない通常記事としてこなし、個人の感想や見解は排除して対応します。

ある意味健全なのは、2輪業界のタイアップ案件において、目もくらむようなギャラが提示されることはないということでしょう。

そりゃ僕だってね、「伊丹さん、軽トラに乗ってますよね? そのエンジンとサスペンションとマフラーに、NASA方面の研究機関が開発したとかしないとかいうこのステッカー貼ってみませんか? そう貼るだけ。するとね、箱根の山坂道をグングン登ったり、ガタガタ道でもまるで曇のような乗り心地になったり、轟音つんざく車内が湖畔の別荘に感じられるほど静かになるとかならないとか。たしか米軍関係に近い人もそう言ってましたよ。あ、そうそう、知り合いの友人に彼女いない歴40年の男性がいるんですけどね。ステッカーと同成分のネックレスを付けた途端告白されて、試しに宝くじを10枚買ってみたら、なんとそのうちの1枚が当たって、喜び勇んで壺を頼んだら壺が届いたらしんですよ~ウフフ」みたいな話を聞かされた上で、1000万円のギャラが提示されたら3秒ほど考えて尻尾をふるでしょう。500万円だとしても、まだ娘が大学在学中なら3日ほど考えて受けるでしょう。嘘。3時間かもしれないし、3分かもしれません。

一体なんの話をしているのでしょう。要するに、いくらギャラの水準が低い2輪業界とはいえ、タイアップに対してはきちんとそれなりの対価を要求しましょうねってことを言っておきたいのだと思います、たぶん。

僕の場合、通常のギャラの3倍以上を応相談の入り口にしています。付き合いの深度、内容の手間暇を考慮して2倍程度で受けることもありますが、いずれにしてもきちんと差別化。既述の通り、納期や修正工数、クオリティに対する要求度が跳ね上がるのに、いつもと同じはあり得ません。

フリーランスになって以来、そういうスタンスでやってきたものの、どうやらこの考えは少数派のようです。条件が厳しくなるのに、受け手はなぜそのままのギャラで、あるいは数千円程度の上乗せでよしとするのか。発注主は条件を厳しくしておいて、なぜそのまま平然といられるのか。

『まずは3倍。最低2倍。話はそれから』

ライター同志諸君は、次の機会にどうかこれを主張してください。1000万円を3000万円にしろって話じゃないんです。2万円を6万円に、3万円を9万円に、元が10万円ならしゃーない。今回は20万円で手を打つか、という程度の規模です。これができないというなら、そもそも企業がメディアに持ち掛けた時点で、もしくはメディアが企業に企画書を提示した時点で、そこに記載されている価格が間違っていますし、タイアップの体をなしていません。

ところで、もしも2輪業界以外のメディア従事者がこれを読むと、記載されている2万円や50万円といった価格は、話を分かりやすくするために簡略化した数字だと思うかもしれません。つまり、そんな低コストで、ライターやカメラマンやメディアやメーカーが動くはずはないし、動かせるわけがないし、動かしていいはずがない。少なく見積もってもヒトケタは違うよね? そうだよね? そうだと言って……と。

でもまぁ、こんなもんです。そこの改善は一朝一夕にはいかないので、せめて頑張りましょうね、僕たちあなたたち。ロケ途中の昼食時、編集スタッフが抱える買い物かごに、塩にぎり1個を遠慮がちに入れていた日よ、さようなら。金しゃりおにぎりのいくら醤油漬と焼さけハラミとお茶とカフェラテとアメちゃんを堂々と放り込める程度には、底上げしませんか。しましょうよ。

大切なことなので、もう一度書いておきます。タイアップ案件は、

『まずは3倍。最低2倍。話はそれから』

これのベースになる、そもそもの原稿料に関しては、それぞれ個々人の努力で上乗せしていきましょう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?