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百田夏菜子はイデアではない

「2021年10月16日,17日 百田夏菜子 初のソロコンサート開催」

その第一報を知った時、驚きとともに、不思議な納得感もあった。

これまで何度も、百田夏菜子という存在について言語化を試みてきた。
けれど、一度として成功した試しはない。
「推し」という存在はそういうものなのかもしれない。

今回こそ書かなければいけないし、書ける気もする。

初日に参戦して予感を持ち、2日目を終えて確信した。

彼女にとって初めてのソロコンサートは、ようやく僕に語るべき言葉をくれた。

※推してきた10年間を経て、今、彼女をどう呼べばいいのかわからない問題に直面しているところだが、本稿では最大級の愛情とリスペクトを込めて、「さん」も「ちゃん」も付けず、芸能人としての商品名たるフルネームでもなく、「夏菜子」と書かせていただくことにする。


■ 「ソロコンサートはやらない」

もともとアイドル志望でもなく、一歩引いてしまいがちの性格の女の子。
スポーツに自信があって、音楽や歌には自信のない女の子。
そんな夏菜子が、天性の笑顔とひたむきな努力で周りの大人たちを巻き込んでいく姿を、極楽門から追いかけてきた。

「インチキアイドル」を自称する全力少女たちが笑顔と歌声で世界を照らし出し、満月の下、国立競技場の聖火台で「笑顔の天下」を宣言する物語。その旗手を務めたのが夏菜子だった。


国立競技場という「夢」の向こうの物語として、名実ともに国民的アイドルグループとなったももクロは、本当に多くのモノノフ(ももクロファン)たちの期待を背負いながら、活動の幅を広げていく。

ももクロの活動と並行して高城れにや佐々木彩夏、有安杏果らがそれぞれの表現でソロコンサートを企画・開催するなど、主に音楽の領域で幅を広げていく中、夏菜子はどちらかと言うとテレビタレントや女優としてのキャリアを深めていった。

グループのリーダーであり顔である役割から、メディアに露出する仕事が増えたこともあるだろうし、夏菜子自身が様々なところで語ってきたように、音楽や歌唱にコンプレックスを感じてきたこともあるかもしれない。
もちろん、フォーク村を通じたギター演奏の習得や、日々のボーカルトレーニングによる発声技術の向上など、他のメンバーに引けを取らない努力をしてきていることは、ファンの目にしっかり映っていた。ももクロのライブを順番に見返してみると、ピッチ(音程)やロングトーンの安定、ファルセットやビブラートなどの歌唱技術は、毎回のライブで目に見えて上達していることが実感できる。

いずれにしても、夏菜子はソロコンサートの開催について「予定はない」と明言していたし、デコノフ(夏菜子推しのこと)の皆はそれを承知していた。期待はするけど、夏菜子が望まないことはデコノフたちも望まない。信頼関係に基づく暗黙の了解があったと思う。


■「音」に向き合い「音」を楽しむようになった夏菜子

2019年12月号のマンスリーAE(ファンクラブ限定のインタビュー記事)で、夏菜子はこんなことを言っていた。

昔は想いが強ければどんなに下手くそでも伝わると言われたりもしたけど、その気持ちをもっと伝えやすくするためには、やっぱり上手になった方が、余計な情報少なく歌を届けられるんじゃないかと思う。(原文を元に筆者が再構成)

ちょうどこのタイミングに「ももいろクリスマス2019〜冬空のミラーボール〜」が開催されている。
2018、2019のももクリは「音」「音楽」を大切にする想いが、演出のベースにあった。

後になってわかることだが、2021年3月に公開された映画『すくってごらん』の生駒吉乃役を演じるにあたり、おそらくこの少し前の時期にピアノへの挑戦を始めている。映画の公開に先だって、2020年大晦日の「ももいろ歌合戦」の大トリで、夏菜子は映画のメインテーマ曲である「この世界をうまく泳ぐなら」でピアノ生演奏を初披露している。


ピアノへの挑戦について、2021年2月のマンスリーAEで夏菜子はこんなことを語っている。

私、本当に「基礎から教えて欲しい」ってお願いをしたんです。
その曲だけを丸覚えっていう方法もあると思うんだけど、せっかくやるんだからこのチャンスを自分のものに何かできたらいいなって。
ピアノというものに出会ったことによって、自分がずっと戦っている“音”の正体というか、そういうものがもうちょっと見えるんじゃないかなって思ったから。(原文を元に筆者が再構成)


役作りとしてピアノが弾けているように見せる練習をするのではなく、これを機に楽器や音の仕組みを理解するところから始めた、というのだ。コンプレックスを感じてきたものに対して真正面から向き合う勇気と潔さ。そしてそれを実際にやり遂げる努力と意志の強さ。

百田夏菜子という人間は、こういう人なのだ。


■ 「シンデレラタイム」と1時間半の自問自答

夏菜子の笑顔や周囲の人たちに対する配慮、どれだけ売れても決して奢ることのない振る舞いは、あまりに自然で、持って生まれた「才能」のように見える。その天賦の才能が、多くの人から彼女を「太陽のような人」と言わしめているのだろうと思う。

僕は、その天賦の才能の上に彼女が積み上げてきたものに、すごみを感じる。

スターダストプロモーションに入所してから、ももクロとして大ブレイクを果たした後もしばらくの間、夏菜子は地元の浜松と東京を新幹線通勤していた。

「あ、ダメだな今日」っていう時は帰りの新幹線の中で自己解決するんです
(「Quick Japan vol.109」より)
「自分のことを話すのは好きじゃない」
「ダメなところを人に見せたところで問題が無くなるわけじゃないから」
「ほぼ自分との闘いですよね。自分の理想とか、自分の目指す私とか」

東京で仕事を終え、帰りの新幹線での1時間半の間で、夏菜子は数えきれない自問自答を繰り返しながら、周囲の期待に応えて人前で活動する自分と、ひとりの個人としての自分の気持ちと、向き合いながら、受け入れながら、百田夏菜子という人間を磨き上げてきたのだろう。

夏菜子が最終の新幹線に乗るために仕事場を離れる時間。それを皆「シンデレラタイム」と呼ぶ。

シンデレラから普通の女の子に戻る時間。
かぼちゃの馬車ではなく、新幹線に乗って地元に着くまでの1時間半。
この空間が、夏菜子にとってどれだけ貴重な時間だっただろうかと、今、改めて思う。


■ 「Talk With Me 〜シンデレラタイム〜」

今回のソロコンサートは「Talk With Me 〜シンデレラタイム〜」と冠された。
会場はさいたまスーパーアリーナ。中央に円形のステージと、両サイドに大画面のスクリーン。
開演時間を12時と見立て、時計の針が進んでいく。

ももクロと夏菜子をよく知る本広克行監督によるステージ演出。

12時の鐘が鳴り響くと、夏菜子はセンターステージに登場した。

円形ステージの周りに配置されたバンドメンバーたちとともに、一曲一曲丁寧に音を奏で、歌い上げていく。
その歌声は、国立へ向かう全力少女期の喉を締めながら感情に寄せた表現のそれでもなく、発声法やビブラートを習得している時期の少し演技がかった過渡期のそれでもなく、音に向き合い、自分の声に向き合い、音楽を愛し、歌うことの楽しさと喜びを十分に感じながら身体中で表現する歌唱だった。

バンドの構成上、音数は少なめで、夏菜子の息遣いまでとてもよく聴こえる。
アカペラでの歌唱も多く、夏菜子の「声」がこの空間の主役。

ももクロ楽曲、カバー曲に加え、自身のソロ曲を生バンドアレンジで、今の百田夏菜子として表現する。
ももクロの「ライブ」とは全く異なる、百田夏菜子のソロ「コンサート」。
ライブとコンサートの違いを細かく定義したいわけではないが、これは確かに「コンサート」なんだと理解した。

後半、Rolandの真っ白いピアノとともにステージに現れた夏菜子は「赤い幻夜」「タキシード・ミラージュ」を弾き語りしていく。

歌い終えた後の会場の拍手がこれまでよりも大きく、長い。

ピアノパートはまだ終わらない。

続いて、前述の1時間半のことをテーマとして当時のことを思い起こしながら作詞したという新曲「ひかり」。すでに発表済みで今回フルバージョンとして披露された「それぞれのミライ」もそうだが、夏菜子が自分の言葉で自分の気持ちを旋律に乗せて歌うというのは、他の楽曲には代え難い価値がある。しかも「ひかり」は夏菜子自身によるピアノ弾き語りだ。

新幹線、22時、1時間30分(1時間半と歌っていた)、のぞみ・こだま・かがやきなど、モチーフに縁のある言葉を紡ぎながら、当時の心模様を思い起こしながら歌う。その中でもタイトルの「ひかり」は、希望を表す光と、品川-浜松間の終電である「ひかり」号からとっているのだろう。ただ、素晴らしかった。

この「ひかり」が演奏された時刻が、開演からちょうど1時間半後だったのは、偶然だろうか。

本編ラスト曲は「白金の夜明け」。冒頭の歌詞「僕の心が今どんなに地獄でも」につながる、迫力あるイントロのピアノ演奏をする夏菜子。ピアノを後にし、ステージを歩きながらバンドとともに歌い、ラスサビで再度ピアノに座る。バンドに合わせてピアノを弾きながら歌う。初日は歌唱が多少不安定になったが、2日目は改善が見られた。音楽的に難度の上がることを一つずつ習得していく姿が、この2日間でも見られた。

会場の拍手に促され、バンマス宗本康兵がピアノ一台でアンコールOvertureを演奏する。夏菜子が再び現れ、ピアノに頬杖をつくような姿勢で笑っている。

2016年のドームツアーで夏菜子曲としてフィーチャーされた「イマジネーション」を宗本康平のピアノ一台で歌う。途中、単音で遊びを入れるようにピアノ連弾を楽しむ夏菜子。

アンコール2曲目は、ナオトインティライミから贈られた「わかってるのに」。石成正人のアコースティックギターに合わせて歌う夏菜子。

最後は「渚のラララ」をバンドメンバーとダンサーと全員でステージを練り歩きながら演奏し、後奏中にはけていくサポートメンバーを背に、夏菜子の声だけでコンサートを締めた。

夏菜子の声を主役とした「引き算」の音作り。

ごまかしの効かない正真正銘のコンサートを、夏菜子はやり遂げた。

音を愛し、音に愛されたアーティストの姿。

「ソロコンサートはやらない」と言っていた夏菜子が、なぜ今、開催を決意したのか、よくわかった気がした。

その時が来た、からだ。


(2日目の最後のあいさつで、この後ソロコンをやるのかどうかは完全に未定だと話した。この辺りが夏菜子らしい)


■ 百田夏菜子はイデアではない

みんながソロコンサートを期待してくれていたことも「私が望まないならやらなくていいよ」って思ってくれていることも、知ってるよ。

夏菜子は、客席のファンたちに向けて、まるで古くからの友達に向けて話すかのように、自然に言った。

あまりに自然で、あまりに心地良くて、ああこれが夏菜子なんだなと思った。

数えきれない自問自答を繰り返し、自分との闘いを乗り越え、周囲の期待をしっかり受け止めた上で、自分にできることを精一杯努力して習得し、応援してくれるファンに届けていく。
器用ではないけれど、ひとつひとつに対して丁寧に取り組む。時間をかけて、自分が納得するまで、しっかり準備をする。
ファンや周囲の人たちのことを心から信頼し、慮っているから、余計な心配をかけることも、背伸びをしたり盛ったりして期待を煽ることもしない。あらゆるものを、大切に扱う。

自分であることにブレない。
ファンに対しても媚びることなく自然体で向き合う。

そのままの百田夏菜子。



国立までの熱狂期、僕にとって夏菜子はイデアだった。

【イデア】
時空を超越した非物体的、絶対的な永遠の実在。理想。

そんなものを勝手に僕は、夏菜子に投影していた。

そこからの夏菜子の姿を追いかけながら、彼女の内面の進化にきちんと追いつけていなかった。

だからこそ、僕は今の今まで、百田夏菜子について語ることができなかったのかもしれない。

実在の夏菜子は、地に足をつけ、謙虚に、今ここにいる存在として、同じ目線でファンと向き合い続けてくれている。

夏菜子はイデアでもなければ、太陽でもない。

百田夏菜子という一人の素晴らしい人間だ。

それに向き合えていなかったのは、僕だった。

勝手にいつまでも見上げ続けていた。

今、やっと気づいた。



■ 「ももいろクローバーZの百田夏菜子」

「渚のラララ」のメンバー紹介の中で、夏菜子はファンに向けて「モノノフの皆さん」と言った。

そして「ももいろクローバーZの百田夏菜子でした!」と言った。

そういうことなのだ。

グループとソロで切り分ける必要もない。

ももクロのリーダーである、赤色担当の百田夏菜子。

そう自然に話す夏菜子を見て、この10年間がいかに幸せだったのかと、気づかされた気がした。

イデアではない、今、そこにいる「推し」として、ありのままの夏菜子とももクロを、これからも応援していきたい。







ようやく10年越しの想いを言葉にできたところで、来週10/24には、もう一人の「推し」である咲良菜緒が所属するTEAM SHACHIの歴史的な公演が控えている。


TEAM SHACHIについてはこれまでも何度か書いてきたけれど、咲良菜緒という「推し」については、百田夏菜子同様にこれまできちんと言葉にできたことがない。

TEAM SHACHIの未来を賭けたパシフィコ横浜公演がどうなるのか、そこで何が見えるのか。

咲良菜緒については、どのタイミングでしっかり語ることができるようになるのか。

わからないくらいがちょうどいいのかもしれない。


そして、推しのいる幸福な人生は続いてゆく。


※10/25追加「パシフィコ公演観戦記」



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■ バースデーイブワンマンライブ 〜Sing and Live2021〜
 日程 : 2021年12月26日(日)
 会場 : 下北沢LOFT
 開場 : 18:30 開演 : 19:00
 ticket : 2,800円(1ドリンク付) ※定員25名
 出演 ヤマカワタカヒロ、ヤマカワトリオ and more...

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〜すべての子どもたちへ「安心できる居場所」と「生きる力」を〜
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