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コロナ時代のリモートフォトグラフィー、始めます!

コロナ時代のカメラのあり方の一つとして、「リモートフォトグラフィー」が話題にあがりつつあります。最初にまず伝えておかなくてはいけないのは、これは既存の写真や撮影方法を否定するものでも置換するものでもありません。そこはまずご了解ください。

一方、これは「仕方なくやっていること」でもありません。制限された状況の中でできることを考えるのは、すべてのクリエイティブの原初的なエネルギー源だと思うのですが、我々は現在、知る限り最も苛烈な抑圧の中で生きることを余儀なくされています。そんな中で新たな方法を模索することは、未来へ繋がる道になるに違いないと思うのです。ぜひ、この記事の中の写真を見て面白いと思って頂いたら、挑戦してください。 Twitterで “#リモートフォトグラフィー” のタグで、ぜひ!

前置きが長くなりました。ここからは実践的に行きましょう。まず今回の写真の狙いについて。

(記事の真ん中あたりに今回撮影した写真あります。)

A.リモートフォトグラフィーを始めるにあたっての理由と問題点

今回リモートフォトグラフィーを真剣に考えた理由は、もはや明確ですね。緊急事態宣言下の日本において、なんとか撮影をする方法は無いかというのが根本的な動機です。株式会社CURBONの武井氏が、zoomグラフィーという形で先駆的な「コロナ下の写真/クリエイティブのあり方」を提示してくれました。

本撮影はそれを更に推し進めるように企図したものです。撮影にあたって特に注意したのは以下の3点

1. 三密を避けること
2. 三密ではなくても極力人を避けること。できれば移動距離は少なければ少ないほどよい
3. すべてオンラインで完結させること
4. プライバシーに配慮すること

1と2はこの撮影の基本的な理念に当たる部分なので説明は不要ですが、問題は3と4です。技術的な話題である3に関しては、この後順を追って説明しますが、4のプライバシーに関して先に説明しておきます。

こういうオンラインでの撮影に関しては、zoomによるオンラインミーティングの際に問題になって来ている「プライバシーの侵害」と同じ問題が、より深刻に起こる可能性があります。特に若い女性が、自分の部屋の情報が写真の形で残ることになるのは、望ましいこととは言えません。なので、「自宅での撮影」は可能な限り避けたい。一方、遠方に出向いて撮影というのでは、そもそもの「極力人に合わない」と「移動距離は少なくする」の条項に反します

今回、一番実は難しかったこのプライバシー問題の解決として撮影協力頂いたのが、西村邸さんです。ありがとうございます。

撮影開始から終了まで、一切人を排する形での撮影が可能になりました。ぜひ自粛が溶けて、日常が戻ってきた際には、訪れていただければと思います。みなさんもリモートグラフィーをされるときには、プライバシー問題への配慮は念頭に置いていただければ幸いです。

さてでは本題に。問題は3でした。これがきつかった

B. 必要機材とそこに至るまでの紆余曲折

まず必要な機材を書きますね。写真家側とモデル側に分けましょう

・写真家側
パソコン、固定回線、通話用ヘッドセット、ウェブブラウザGoogle Chrome
・モデル側
パソコン、Wi-Fi可能な通信回線(スマホのテザリングも可)、パソコンとリモート接続できるカメラ、テザー撮影できるソフト(公式のものがいいです)、ウェブブラウザGoogle Chrome

以上です。これを見てもわかるように、写真家側の負担が極めて少なく、モデルさん側の負担がすごく大きいです。今後これは改善の余地ありですね。今回はモデルを引き受けてくださったあやなさん @mesu_no_shika は、なんとソニーのα9を持っておられましたので、それで撮影しました。そんな女子、なかなかいませんぜ、、、

(モデルさん側の実際の撮影セットはこんな感じです)

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C. 実際の接続の流れ

まずモデルさんの側で、パソコンとカメラを繋いでもらいます。一般的なテザー撮影の形式を取ります。今回はMacbookとα9を、ソニーのテザー撮影用のソフトRemote(Imaging Edge Desktopというソフト内にあります)を使って接続しました。無料で使えますので、ソニーの人は以下からどうぞ。

この状態にしてもらって、ここから登場するのはGoogleです。予想外でした。ここでもさすがのGoogle。そしてこのやり方を発見してくれたのは、今回モデルをしてくれたあやなさん。すげえっすよ、普通そんなん思いつきませんやん。

で、実際Googleの何を使うかというと、GoogleのRemote Desktopの機能です。双方のパソコンでChromeを起動。そして以下のリンクに従って、リモートデスクトップ機能を使います。

この説明にはないけどやっておいたほうがいいのは、リモート撮影用のgoogleアカウントを作っちゃうことです。これもプライバシー配慮の一端です。普段使っているGoogleのアカウントではなく、撮影用のアカウントに区分けしちゃほうが絶対いいです。

モデルさん側が作るといいと思います。適当に作ったら、そのアカウント名とパスワードを写真家側に伝えてください。写真家側は、もらったアカウントでログインして待機します。

モデルさん側は、上のリンク先の中にある「他のユーザーとパソコンを共有する」の手続きに従って、一回限りのアクセスコードを発行します。これを写真家側に伝えます。

アクセスコードを受け取った写真家は、それに従って接続します。はい、これですべて状態は整いました。写真家側のパソコンに、モデルさんがテザーでつないだカメラ画面が共有されているはずです。こんな感じで。

スクリーンショット 2020-04-29 8.25.23

ここまで来たら大成功です。写真家は、適宜モデルさんに指示をだしてください。指示を出すのは、LINEやFacebookの音声通話で良いと思います。モデルさんにはスピーカーモードにしてもらいます。

あっち言ってほしいとか、こういうポーズとってほしいとか。で、モデルさんのいい感じのタイミングが来たら、テザー撮影のシャッターボタンをクリック。そうすると、わずかにラグはありますが、ほとんど瞬時にシャッターを押してくれます。回線を通じて、遠く離れた空間を超えて、モデルさんを撮影できます。まるでそこにいるみたいに

この後は、データはモデルさん側のカメラの中にあるので、どうするかはそれぞれのやり方です。我々の場合は、全データをギガファイル便で送ってもらいました。もちろんrawデータなので、後はいつもどおりの現像です。それで出来上がった写真が以下です。ぜひご覧になってください。

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えぐいでしょ?このボケ感!この階調!この色乗り!さすがα9やで、、、(レンズも24−70。さすがやで)。まだまだありますぜ!

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最高じゃないですか!?僕ら実は、まだ一度も会ったことさえないんです。でもなんとなく今回のアイデアにお互い意気投合して、一度撮影してみましょ!ってなったのが三日前。そして今日。この早さよ!これもリモートグラフィーのいいところです。予定が組みやすい。

zoomグラフィーが出たときも驚愕しましたが、今回自分でとったこの写真にも驚愕しました。やはり一眼レフの持っている表現力は別格です。でも問題点は多いです。それを以下に記します。

D.リモートフォトグラフィーの問題点

まず最初に、パケットめっちゃ食います。今回僕、仕事場にまだ光回線が通って無いのでスマホのテザリングでやったんですが、ガリッガリにパケットなくなってました。かなり緻密な通信を行うみたいなので、光回線などの固定回線でやるのが無難です。ただ、モデルさん側はスマホのパケットをテザリングで使うことになる場合が多いと思うので、その分の回線費用が発生する場合は写真家側が負担するのが良いと思いました。

次に、モデルさんの身体的負担が大きいこと。カメラの準備や接続の準備、現場でのカメラの移動や設置など、普段写真家がやるべきことが、現地にいけないので全部モデルさんにお願いすることになります。終わった後はぜひ菓子折りを送るべきです。

そして最大の問題はプライバシーです。離れているので、よくある「密室でモデルさんに手を出そうとするおっさん」みたいな問題は起きづらいでしょうから、この点に関してはむしろ利点ではあるのですが、自宅での撮影は避けたほうがいいかなと。個人情報に直結しない「撮影用の部屋」を準備するか、自宅に近い場所で、人のいない場所を準備する。これが実は大変な気がします。

E. ここに至るまでの紆余曲折

この一週間ほど、一眼レフのウェブカメラ化に勤しんでいました。

もともとはzoom等で使えるのが面白そうだと思ってやりはじめたんですが、やり始めてすぐに「そのままシャッター押せたら、最高の画質でリモート写真撮れるやん!」と思いついたんですね。

でも実現までの道のりが遠かった。これを話すと長くなるのでズバッと割愛しちゃいますが、めっちゃ端折っていうと、ウェブカメラ状態のままシャッターを切っても、SDカードに保存してくれなかったんです。そこから、Bluetoothリモコン使ってやろうと思ったら、リモート中にはBluetoothが切断することがわかりました。それじゃあ画面共有でやろうとMacのリモートデスクトップ使おうと思ったら、これまた全然接続できない。こりゃあ簡単なやり方は無いかもなあと諦めそうになってところ、上で書いたんですが、あやなさんがGoogleならリモートデスクトップ環境を簡単に実現できることを発見してくれて、今日の撮影に至りました。いやー、ほんとまじあやなさんすげえよ。α9もってるし(

F.この撮影の面白いところ

最初にも書いたんですが、このリモートフォトグラフィーは、既存の写真撮影方法を否定したり、代替したりするものではありません。というよりは、全然違う魅力があります。

こんなに大変なんだけど、何より良いのは、写真家はめっちゃモデルさんに頼らなければならないという、それが難しい部分でありながら、すごく良い側面もあるってことなんです。つまり「創作過程」に、モデルさんの参与する割合がぐっと増える

写真家が動けない分、モデルさんの表現力だったり発想だったりが、より作品に色濃く反映される。その結果、とった写真はこれまで以上に「モデルさんと写真家のコラボ」の色合いが濃くなります。これは、新しいクリエイティビティの出方だと思うんです。今回モデルさんはプロフェッショナルで、僕は人物写真家ではない門外漢の組み合わせでしたが、それでもあやなさんからもらうインスピレーションをシャッターに収めるのは、本当に楽しかった。それを受けて、僕のほうでもだんだんと「何をお願いすればいいか」もわかってきて、僅か1時間ちょっとでたくさんの素敵な写真ができあがりました。ぜひ人物写真の専門家に挑戦してほしいです

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G. まとめ

というわけで、リモートグラフィー、どうだったでしょう。可能性感じませんか?現状、「三密」を避けるためには、人と人が狭い空間で長い時間いることはできません。そんな状況下では人物撮影はかなり難しいのですが、この形ならば、新作も撮影できると思うんです。なにより、この「制限」こそが、僕らのクリエイティブをこれまでとは違う形で刺激し、爆発させてくれるんではないかと思っています。

自粛は確かに必要です。撮影よりも、人間の命が大事なのは当たり前です。その一方、もし安全に配慮した状況で、まったく人と会わずに撮影ができるならば、全てを完全に止めてしまうのではなく、できることから少しずつチャレンジしていくのが良いのではないかと思っているんです。

別の記事でも書いたのですが、コロナが収束した後の世界は、これまでとは同様の世界ではありません。僕らは今後、すでに世界中に拡散してしまった肺炎のウイルスとの付き合い方を学ばねばならず、その核には「距離」があります。おそらく、僕らは数年後には、「距離を取ること」が思考の基本になるのではないかと思っています。いわば「リモート時代」の到来です。

そうしたリモート時代は、もちろん、基本的には悲しいことではあります。これまでの人類がやってきたリソースの集約化の歴史とは完全に正反対の方向性だから、対応も大変です。でもだからこそ、その時代に必要な技術やモノや芸術やマインドセットは、まだほとんど見つけられていないんですね。つまり、新しい物事を始めるチャンスでもある、そんなふうに思うんです。

てことで、みなさんもぜひ。みんなで知恵を絞って、このしんどい状況に立ち向かいましょう。

あ、最後にもう一度。今回の撮影のほぼ全部は、あやなさんのおかげで成立したものです。最終的にはこれは我々ともに「お仕事」になりましたが、普通の仕事ではなくて、なにか新しいことをやってるワクワク感がありました。ありがとうねー!

みんなあやなさんのツイッターもぜひ!


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H. 追記(4月30日)

モデルをしてくれたあやなさんが気をつけていたことは、パソコンを共有することのリスクについてでした。確かに、モデルさんのパソコンを写真家側が共有して成り立つ撮影方法なので、事前にそれ専用のアカウントを作るなどしておいて、個人情報に繋がる情報にアクセス出来ないようにしておいた方が良いですね。

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