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オンライン授業に寄せて① 教師が自分の言葉で語るということ

急遽始まったオンライン授業に、自分がどう考えどう大学での授業を実践しているかを発信することは、ともすればそれが、我先にと前のめりに自分の実践を披瀝し合うような状況に拍車を掛ける懸念があるため、ためらいがあったのだが、少し考えが変わって、できる範囲で、積極的に公開していくことにした。

それは、一つには、高等教育が専門領域ではないとはいえ、教育方法学者として、単に「このツールこんな使い方できます」という情報提供にとどまらない提起をできるはずだし、すべきではないかと考えたからだ。
またもう一つには、それによって救われる人(教員側も学生側も)がいる可能性があるのなら、力を尽くしておきたいと思ったからだ。「救う」などと自分で言うことの不遜さは承知しているつもりだが、この間見聞きしている状況からすると、自分も少しでも役に立っておかないと、と思うくらい、切迫した状況が起こりつつある。十分な準備期間や支援体制がないままに、オンライン授業(しかもそれは、以前の投稿でも書いたように、キャンパス使用不可&外出自粛下でのオンライン授業という、特殊かつハードモードのもの)が大学教員に求められることになって、教員が疲弊している。授業をちょっとでもよくしようと考える真面目で良心的な教員ほど、追いつめられている。このままだと過労死事例も出てくるのではないかと本気で心配するくらい、私は危機感をもっている。

そんなわけで、何回かに分けて、オンライン授業に自分がどんな考えで臨んで、何を行っているか、書こうと思う。
なお、直接的には大学授業を念頭に置いているが、おそらく、小中高でのオンライン授業にも通じる部分があるはずだ。

オンライン授業の実施が求められ、オンデマンド課題(学生がダウンロードして自分の都合がよいときに取り組む課題)の作成やら授業動画の作成やらに追われている先生方にまず何よりも言っておきたいこと。

それは、自分の言葉で学生に語りかけよう、ということだ。

「○○学入門」の授業動画を作成するとなると、頭に浮かぶもの(今までにあったもの)が、放送大学の教材であったりするため、ついそうした、汎用性があるもの、誰がどんな状況で視聴してもOKなものを作ろうとしてしまう。オンデマンド課題で解説や作業指示を準備する場合でも、自分が教えるべき内容(対面授業のときに扱ってきた内容)を正しく反映できているか、きちんと盛り込めているか、といったことにばかり意識が向いてしまう。

けれども、考えてみてほしい。
ただでさえ、予期せぬ事態で、新入生なら場合によっては一度も授業担当教員にも同級生にも会わないまま受けることになった授業。
そこで欲しいのは、汎用性のある語り、どこででも通用するような教員の言葉だろうか。

私だったら、おそらく、「それなら、わざわざその大学の授業じゃなくても、既製の通信教育コンテンツ(MOOCとか)でいいや」と思ってしまうだろう。
もっと、今の状況、今の自分たちへの、その先生ならではの言葉が聞きたい、と思うだろう。

もちろん、教える内容そのものが一般性をもっている以上、動画や学習コンテンツの大部分は、汎用性があるものになる。
けれども、そこに何かしら、その先生なりの、今の状況の学生たちにかける言葉を加えてほしいなと思う。
おそらく、それがあれば、凝った動画エフェクトやら、そのまま出版できるような文章の完成度・洗練度の高さは必要ない。人気YouTuberやベストセラー教科書の執筆者を目指す必要はない。

だから、私は、できるだけ学生に語りかけることを意識している。
例えば、私が他の先生方と共同運営(これについてはまた別途)している、授業研究に関する科目(全5クラス、受講生計200名弱)。5クラス分を一体化し、PDFファイルの「学習活動指示書」でもって内容解説や作業指示を行うオンデマンド型で展開(5月の連休明けから開始)しているのだが、例えば、第2回の「学習活動指示書」の冒頭はこんな感じだ。

 多くの方にとって(担当教員であるわれわれ自身もなのですが)初めてであろうオンライン授業、1週間ちょっとが経過しましたが、いかがですか? おそらく、授業のやり方に関しても、今はごった煮状態、みなさんにとって、「いいな」「よく学べるな」と思えるものから、「なんだかなあ」というものまでさまざまかと思います(担当教員としてはこの「授業実践研究」が前者に入っていることを願いますが)。
 これは、一方では、デメリット(「こんな年度に当たってしまって損した!」みたいな)として感じられるかもしれませんが、もう一方では、自身が教職にたずさわるみなさんにとっては、学習者の立場でさまざまなオンライン授業の形を体験できる、そしてそこからオンラインでの学びのあり方について考えられる、貴重な機会になり得るものだとも思います。
 同じ「動画配信」でも、「見させられる」という感じがしてしまうものと、自ら自律的に取り組めるものとでは何が違うのか。Zoomなどビデオ通話ツールを使う場合、どんな使い方があって、それによってどんな経験が可能になるのか。
 問いをもって臨むことで、今経験していることからさまざまな学びを引き出すことができます。それはきっと、おそらく今後、オンライン学習を活用することがより求められるようになる学校現場で自分が教師として教えるときにも、役立つことになります。この「授業実践研究」でも、後の回で、オンラインでの学びそのものを対象化して考える機会をもちたいと考えていますが、みなさんのほうでも、自分なりの「問い」をもって、今自分が経験している出来事そのものを、学習のリソースにしてください。

この回の本題は、ある資料をもとに、海外の教育実践の事例からの学び方について考えるというものだったので(それに関する解説や指示は、文書の後半に出てくる)、こうした「前置き」は、本来、なくてもよいものだ。
けれども、私はこうした語りを、大事にしたいと思っている(まあ、どうせならと、この「前書き」部分も授業内容へと結びつけてはいるが)。

自分の言葉で語りかける、という点では、教員自身が、今試行錯誤をしていることを率直に認める、オープンな態度をとる、というのもそうだ。
これも、第2回「学習活動指示書」の一部。

●Webclass「アンケート」機能での提出の仕方に関するお願い
 さて、われわれ担当教員のほうも、探り探り授業を行っています。webclassをこれだけ「使い倒す」ことを試みるのも初めてだったのですが、やはり、実際に授業を始めてみると、実験的に教員同士で小規模で行っていたときには見えていなかったものが見えてきます。
 例えば、小課題の提出に用いたwebclassの「アンケート」機能。
 これがまた、使いにくい!(泣)
 おそらく、みなさんのほうでも、「これ、本当に提出できた?」「あれっ、空のまま送信されちゃった?」「ちゃんと届いてる?」などいろいろ困りごとが生じたかと思います(掲示板やチャットでたくさん問い合わせが来ました)。
 結論的に言うと、ちゃんと届いています(記入後「終了」を押してさえいれば)。むしろ、届きまくっています。
 どういうことかというと、「終了」を押すたびに、データが送信されてしまうのです。とりあえず設問ページを見に行って、後でやろうと空欄のまま「終了」した場合にも、空欄の状態でデータが送られます。
 そのため、われわれ担当教員の手元でアンケート結果(回答)の一覧を出力しようとすると、大量の空データを含んだ一覧が表示されてしまうのです(なんでこんな仕様になっているのか…)。
 ですので、ひとまず、「アンケート」機能での小課題の提出に際しては、以下をお願いします。

話し言葉をそのまま文章にしたようなもので、文章としてよくできたものではない。
また、用件だけを伝えるのであれば、これに続く部分(次からは「小課題」をこのように提出してください、という部分)だけ示せばよいはずのものだ。それでも、その前にこうして、今何が起こっていて、それをどう受け止めていて、だから何を考えているのか、くどいほどに書く(なお、初回の「開講にあたって」では、なぜこの形態を用いて授業を行おうと考えているのかに関してしつこく書いた)。
それは、担当教員が自然体で自らの姿を示すこと、自分の言葉で語ることが大事だと考えているからだ。

その意味で、私にとって、「学習活動指示書」というのは、受講生らに宛てた手紙だ。
(私は、動画を作成するのではなく文書で出しているが、動画でもきっと同じことだ。)

多分、ここで書いたようなことは、一部の先生方にとっては当たり前で、「何を今さら」と思うようなことだと思う。
一方で、特に大人数授業の講義科目を担当の先生方のなかには、「ちゃんとした」文書や動画を作らないと、という思いが強すぎて、こうした要素が抜け落ち、それによって苦しんでいる(自分も学生も)例も一定数あるように思う。

さて、受講生らの受け止め方はどうか。
残念ながら、全体的な状況に関しては、現時点ではよく分からない。
毎週提出の「小課題」では、学生に必須で求めるものをまずは最小限にしておこうと考えたため、今のところ、「授業への感想何でもどうぞ」みたいな欄を設けていないからだ(そろそろ尋ねてみよう)。

ただ、昨日、この科目を受講している現職教員院生の一人と(別の授業で)zoomでしゃべっていたときに、この点に関して、「いやあ、いきなり内容ではなく、先生に語りかけてもらう部分があると、受講する側としては、安心しますね。自分も今、高校でオンライン授業をやることになって、生徒にいろいろ送っているので、意識しようと思いました」と言っておられた。
こんなふうに「手紙」を受け止めてもらえるのはうれしい。

なお、「学習活動指示書」、雰囲気を知りたいという方のために、第2回分、全7ページのうち、最初の3ページ分をつけておく(この後、「3.小課題第2回分」「4.大課題1『海外事例本紹介』」「5.次回(5月25日)の授業時間中の催し」という項目が続く)。


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