野良犬の値段(下)(ネタバレします)


 百田尚樹著「野良犬の値段(下)」を読みました。

 下巻から第二部に入りましたが、いきなり人質とされる登場人物の会話から始まりました。上巻で人質になった6人のホームレスが、実は犯人ではないかという結末も想像できましたが、下巻の始まりにいきなりそれを突きつけられるとは思いませんでした。ここから時間をさかのぼり、人質となったホームレスについて、それぞれのホームレスになった理由が描写されていきます。それぞれにそれぞれの事情があり、また、6人の内、3人は新聞やテレビによるメディアリンチによって人生を狂わされていました。1人はホームレスになったのは自分の責任でしたが、ホームレス仲間と共に暴行事件に巻き込まれ、その暴行事件の首謀者が新聞社副社長の息子であり、何らかの影響で報道もされず、不起訴になったとのことでした。もう1人は4人に共感したホームレス、そして上巻でハチ公像脇に置かれた首の主です。これで5人、6人目がまだ出てこないのですが、この後、6人目についても言及されました。ちょっと6人目の設定は、冷静に考えると強引な気もしますが、一連の流れの中に上手く収まっていたように思います。5人は仲間で6人目は本当の意味での人質となりますが、5人が、マスコミ以外の自分の人生を狂わされた相手に対して復習してく描写がとても痛快でした。

5人の内、1名の首がハチ公像脇にさらされた後、4人は誘拐サイトでテレビ局と新聞社に身代金を要求する一方で、同じテレビ局と新聞社に裏取引を持ちかけます。どちらも、警察に相談することなく裏取引に応じてしまいます。これはもう、裏取引で身代金をせしめた上で、裏取引についても暴露してしまうなんていう結末かなと思いましたが、そこまでではありませんでした。そんな結末を期待するなんて、ちょっと私の性格も歪んでいるようです。

警察もさるもので、「デス・ノート」を彷彿とさせる手法で、犯人グループのアジトを絞り込んでいきます。「これは結構ヤバいぞ」と思いましたが、結果としてこの絞り込みは失敗に終わりました。しかしながら、これは犯人グループが警察の意図を読んでいたわけではなく、偶然が重なっての結果でした。そんな感じで、警察と犯人グループのギリギリの攻防にハラハラさせられました。

結末は、私の想像したものとは違い非常に落ち着いた雰囲気でした。事件発生から2年後、捜査の中で存在感を示したベテラン刑事と、犯人グループ4人が最後に会話をするのですが、おそらく刑事は全てを分かっているのですが、検挙するには証拠もなく、しかし、それでも納得しているという雰囲気で終了です。

続きが気になって仕方がなく一気読みしてしまいました。著者の作品の振れ幅には驚かされることが多いのですが、更に振れ幅が広がったと思わされる作品でした。

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