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ひきこもりおじいさん#2 ギラギラ輝いていたポスター

その日から四日前におじいさんは亡くなった。死因は肺炎をこじらせた事による老衰で、詳しいことは十四歳だった隆史にはわからなかったが、あまり知ろうとは思わなかった。
おじいさんが亡くなったのは、外が少しずつ暗くなり、昼から夜へと変わっていく、そんなある種の意識と意識の交差する狭間の時間帯だった。その日は一歳上の兄の紀之も隆史も中学校は休みで、朝から二人とも二階にある相部屋で、本や漫画を読んで時間を潰していた。ここ二週間程、おじいさんは風邪をこじらせて長引き、容態が芳しくなかったので、もしかしたらという嫌な予感が隆史を含む家族を包んでいた。
そんな中、突然、一階から父の伸一があがってきて、
「 今、おじいさんが亡くなったから」
それだけを伝え、また一階へ降りていった。普段から口数が多くない伸一だか、この時も普段と変わらない様子で淡々と話す姿が隆史にはかえって印象的に映った。
残された二人は、何とも言えない雰囲気の中でお互いに一瞬目を合わせたが、すぐに視線を外して、お互い何も喋らなかった。隆史は時間が止まったような感覚になって、部屋の蛍光灯に照らし出される本棚の中の本の背表紙や部屋の壁に貼ってあるサッカー選手のポスターが、やけにギラギラ輝いて見えたけれど、それは悲しみという感情からくるものではなく、恐らく何かが終わったことを知った時の単純な喪失感によるものだった。

#小説 #おじいさん #老衰 #部屋のポスター #ギラギラ

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