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ひきこもりおじいさん#54 臨時休業

「・・・それで結局、放送は?」
「予定通り大澤さんの尽力のお陰で、葉書はちゃんとコーナーで読まれて、ラジオ放送された」
「凄い!何かちょっと信じられないです」
驚きの声を隆史があげた。
「そう?俺は放送をこの耳で、実際に聴いたからさ、間違いないよ」
信之介が耳を触りながら、少しドヤ顔で言った。
「そりゃ、松田さんはそうでしょうけど・・・でも実際に放送された時って、どんな感じだったんですか?」
「ああ、その日はさ。あの花火大会から二ヶ月ぐらい後の土曜日だったと思う。そろそろランチタイムになる午前11時頃に、突然大澤さんから電話があったんだ。何事かと思って話を聞いたら、俺が葉書に書いた依頼が、朝のスタッフ会議で正式に決まって、今日の放送でやるからって告げられたんだ」
「また急ですね」
「本当にそうだよ。正直、あの日から結構、時間も経っていたからさ、やっぱりラジオ放送なんて無理かもって、内心諦めてたんだ。それがいきなり当日放送するだろ?そりゃ驚いたよ」
そう言って信之介が苦笑する。
「そして松田さんは、その日のお昼にラジオを聴いた」
確認するように隆史が言った。
「ああ、その時間だけは店も勝手に臨時休業して聴いたよ・・・ ただ本当はさ、隆史くんにも知らせたかったけど、なにせ急で手元に隆史くんの連絡先が無くて。今更だけど連絡出来なくてごめんね」
「いえ、そんな・・・」
そう謙遜しながら隆史は持っている葉書を信之介に返した。信之介はその葉書を受け取ると、もうすっかり暗闇に包まれて何処を走っているのか分からない車窓に、車内の蛍光灯が反射して映り込んだ自分の顔をちらりと見てから、葉書を内ポケットにゆっくりと戻し言葉を続けた。
「・・・それでここからがやっと『会って貰いたい人』の話なんだけど、大澤さんが言うには、そのラジオ放送後に何件も西雲閣に関する情報が寄せられたんだ。ただ信憑性がない情報や見当違いの情報ばかりで、正直これは調査結果として放送するには、ちょっと厳しいと思ってたらしい。そんな時にある一通の手紙が番組宛に届いた」
そう言ってから信之介は、前方の空間を疑視した。

#小説 #おじいさん #ラジオ放送 #スタッフ会議 #手紙 #連絡

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