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年金が実質目減りするワケ

今日の日経には、年金の改定ルールの変更について解説された記事がありました。

記事の冒頭は、以下のような文章ではじまります。

「物価は上がっているのに年金額がほとんど増えないのはなぜ?」。社会保険労務士の望月厚子氏は年金暮らしの人からこんな質問を受けることが増えた。少子高齢化に応じて年金を抑制する仕組みが働いているなどと説明しているが、中には「生活費をもっと減らせということか」と眉をひそめる人もいるという。

このような年金生活者からの不満の声に対して、記事では、なぜ年金額が物価と比べて上がらないのか、年金改定の仕組みを丁寧に説明していると思います。

この前は、日経の年金に関する記事やツイートが酷いと批判する投稿をしました。今回の記事に関しては文句はありませんが、いくつか私なりの説明を加えさせて頂きたいと思います。

下の図は、年金額の改定ルールを表したものです。賃金と物価の変動パターンによって、①~⑥の6つに分類されていて、それぞれにおいて、年金を受け取り始める時(新規裁定:新裁)と年金を既に受けている時(既裁定:既裁)の年金額の改定方法が示されています。

④と⑤の点線の矢印で示されているのは、2021年度から始まる新ルールのことです。現行制度と比べて、減額の幅が大きくなるので、「年金カット法案」と野党が騒いでいたものですが、記事でも解説されている通り、保険料を負担する現役世代の賃金に合わせて年金も改定することは、年金財政的に重要です。

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2015年度以降の年金改定が、上の①~⑥のどれに当てはまったのか見てみると、以下のようになります。
2015年度:⑥
2016年度:⑤
2017年度:④
2018年度:⑤
2019年度:⑥
2020年度:⑥

過去6年度分については、④~⑥のいずれか、すなわち、賃金変動率が物価変動率を下回っていたということになります。

記事では、年金の改定率と物価変動率を比較したグラフが載っていましたが、それに賃金変動率を加えると以下のようになります。

賃金物価年金

この期間を通算した改定率・変動率は以下の通りです。

年金改定率:+1.1%
賃金変動率:+1.5%
物価変動率:+5.4%

2015年度の年金改定率は、賃金・物価の上昇率を大きく下回っていますが、これは、それ以前の年にマイナス改定すべきものを先送りにしていた分(マイナス0.5%)を、この年に含めて改定したためです。それを除くと、6年度分を通算した年金改定率は +1.6%となり、賃金変動率とほぼ同じ水準になります。

現役世代の賃金の伸びが物価を下回っている状況で、年金だけを物価に合わせるわけにはいかないですよね。なので、記事の冒頭で紹介されていた「生活費をもっと減らせということか」という年金生活者の方には、

「年金生活者だけでなく、現役世代の皆さんも生活費を切り詰めているのですよ」

と説明してあげるのが良いのではないでしょうか。

そして、これは年金制度の問題と言うより、実質賃金が下がっている社会経済の問題として考える必要があるのではないでしょうか。

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