政策立案の評価(policy making evaluation)の評価軸
政策評価 policy evaluationというものは、まあそれはそれで一分野であるが、自治体職員向けに政策立案/政策形成研修みたいなものをやっていると、むしろ「政策立案の評価(policy making evaluation)」の観点が必要になる。以下は、「政策立案の評価」についての、1つの試案である。
前提として、政策とは「①市民の現状=問題を、②市民の理想=問題が解決された状態に近づける際に、③障害となるもの=課題を、④解決するための方法=解決策」である。たまに、現状認識や課題認識をまったくせずに「DXを進めれば何とかなる!」みたいなことをいう人もいるが、それは論外(評価の対象外)。
さて、政策っぽい外形を備えているものを評価するとき、評価軸として「市民=受益者視点」と「行政=実施者視点」の2つを導入することが重要である。ここで、これら2つの評価軸は等価ではなく、当然に「市民=受益者視点」の方が重要となる。多少面倒なことを言えば、昨今流行りのEBPMの観点からも、アウトカム志向=受益者志向が求められていることから「市民=受益者視点」を重要視した方がよい。
「市民=受益者視点」からの評価は、まあ一般的な観点である。例えば「学校におけるいじめの認知件数が増えている」という現状=問題があるとすれば、理想として「いじめの予防されている」だとか「いじめが起こった後のケア体制が整備されている」だとかを描き、それぞれの理想に近づく際に障害となるものを具体的に特定し、その解決策=政策を立案する。
「行政=実施者視点」からの評価は、主に「リソース(ヒト・モノ・カネ・情報)」と「合意形成」がポイントとなる。先の「いじめ」の解決策として「スクールカウンセラーを増員する」というものが出てきたとき、「スクールカウンセラーはどこから確保するのか?」「人件費はどのように確保するのか?」「教育委員会のどの所管が担当するのか?」といった点が考慮されているか否か、という点が該当する。つまり、実際にその解決策を実行すると仮定したときに発生する「実施上の課題」までも織り込んでいるか否かという点である。
政策立案研修なんかを運営していると、「行政=実施者視点」は、ほぼ無視される。マシな人でもお金に関する言及を少しだけする程度で、合意形成の難しさを考慮している人はほとんどいない。「課題」とは、往々にして「あるもの」ではなく「残っているもの」であって、「残っている」からにはそれなりの理由があり、その理由は実施上のものであることが少なくない。
ただし、「行政=実施者視点」があればよい、というものではない。こちらもよくある話であるが、「社会保障費が増えているから、高齢者の健康寿命を伸ばそう」とか「施設管理をするコストが重いから、民間委託しよう」とか、市民=受益者の視点が皆無の立案も存在する。結論として出てくる「健康寿命の延伸」とか「民間委託」とか、それ自体としては正しいこともある。しかし、政策立案を評価するという観点から言えば、市民=受益者の視点が欠けている時点で、行政=実施者視点が欠けた立案よりも評価は低くなる。
現状認識の技法、課題認識の技法、理想描写の技法、それぞれに様々なものがあり、それぞれに学ぶ必要はある。とはいえ、そのトータルとしての「政策立案 policy making」を評価する(≠ 政策 policy を評価する)ときには、だいたいこんな感じでやればいいのではないだろうか。
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