見出し画像

ホワイトノイズのない世界で

 近年、イヤホン(ヘッドフォン)に「ノイズキャンセリング」という機能が付くようになった。イヤホン自体が、耳の中に入ってくる「音」の波形と「逆向き」の形の音を発することによって、外界の音を「相殺」し、耳の中に音が入ってこないようにするのである。これによって、外界の音が大きくても、イヤホンで流す音楽の音量を大きくせずとも済むようになり、耳への負担が減る。

 SNSが発達し、誰もが意見を発信できるようになった今日。有益な情報を簡単に受信できるようになったのと同じように、「思考のノイズ」となるような情報もまた簡単に受信するようになった。人間は「ポジティブな情報」よりも「ネガティブな情報」に注意を向けてしまう性質があるため、一度「ノイズ」を聞かされると、それが頭に残ってしまう。私が聞きたかったのは「愛の歌」だったはずなのに、気がつけば誰かの悪口を聞かされている。そして、私の頭の中に残るのは「愛」ではなくて「悪口」だ。

 各種SNSを辞めるという「耳栓」をすることによって、一応「ノイズ」から耳を守ることができる。しかし「耳栓」をしていたのでは、音楽を聞くことはできない。なんともうまくいかないものだ。ホワイトノイズのないこの世界で、耳を、思考を守ることは、意外と難しいことなのかもしれない。

 そういえば、かつて人材採用AIが女性差別的傾向を持ってしまったため、そのAIの稼働を停止したというニュースがあった。かのAIは、どんな音楽を聞いていたのだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?