見出し画像

作るときに考えてること

どうもこんにちは。陶芸家の高橋燎です。
今日はイベントの応募のお話です。

ご存じの方も多いと思いますが、ほとんどのクラフトイベントには選考があるんですね。出展したいイベントに通るために避けては通れないのがエントリーです。作品の写真を貼り付けられる項目や、思いの丈を自由に書けるような、それぞれのイベントの工夫や思いが詰まった応募用紙を用意してくれています。それに沿って書いていけばよいのですが・・・

「作品のこだわり」が書けない

応募用紙には「作品のこだわり」という項目があったりして、僕はいつも頭を抱えて悩んでしまうのです。なぜかというと、僕にとって「作品のこだわり」というのは言語化するのがとても難しい。あんまり言葉にすることがないからです。ちゃんと普段から考えていないといけませんね。何も考えないで生きてきました。

書けるスペースや文字数には限りがあるし、応募数が多いと選考にも大変な時間がかかると思います。だからなるべくスマートに、すぱっと書くように心がけるのだけど、たいてい一言にはまとめられません。応募の度に妻に急かされて泣いています。

こういうとき、すぱっと書けるようになりたいな〜

そろそろ書けるようにならなあかんわ・・・ということでこれを書いています。

作るときに考えていること

僕は好奇心だけで器を作ってきました。
「これをこうして、こうしたらどうなるんやろう?」という素朴な疑問から始まって、色々と試行錯誤して出来たものを買ってもらって生きています。小学生の頃に泥団子を冷蔵庫に入れたときから変わらず、好奇心が生きる、作るモチベーションです。

そんな好奇心を追い求め続けている陶芸家に惹かれます。常に自分の枠組みを破壊しようとしている彼らは驚くべき器を世に送り出し、満足することがありません。僕もそんな陶芸家を目指すようになりました。

何を作っているのか

作りたいのは「意図が見える器」です。
何を表現したいのか、作家の意図(感情)が見えるような器を作りたい。表現したいものによってこだわる工程は毎回変わります。

そう思うようになったのは、全国各地のクラフトイベントや個展で様々な作家の作品に触れたことがきっかけです。絵付けに専念する作家、釉薬を育てた果樹の灰から作る作家、自分で土を掘って粘土を作る作家・・・

それぞれが特化している工程やこだわりを作品にして、その作品からはこうしたい、ここを見てほしい、という作家の意図が見えました。僕もそんな意図の伝わる器を作りたいと思うようになりました。

例えば、僕の場合は皿に溝を作っているものがあります。これは灰が溜まるようにしたかったからです。

溝を作った皿

横に倒して焼いたカップがあります。これは歪ませたかったからです。

横に倒して焼いたカップ

そういった意図を汲み取って共感してくれる人がいたらとても嬉しい。「こんなの作ったから見て・・・」という子どもの気持ちに似ているかもしれません。そんな意図、感情に共感してもらえたらと思いながら制作しています。

それで具体的に何を作っているかと言うと、自然の中にある青の景色を再現するために、トルコブルーの釉薬を掛けた器を薪窯に入れて焼いています。

自然の中にある青の景色のイメージはきっと人それぞれですが、移り変わる海の色や、鍾乳洞の奥底でしか見ることができない地底湖、明け方の紺色の空、宝石や鉱物の碧色、遠くに臨む山並みなど、誰かの記憶にある青い風景を器に表現したいという思いで制作しています。

トルコブルー釉を薪窯で焼いている人は比較的珍しいと思います。薪窯といえば焼き締めの(釉薬をかけない)イメージが強いでしょう。僕が薪窯でトルコブルー釉を使うのには理由があります。

トルコブルー釉は銅を入れることで青く発色する釉薬です。釉薬はガラスの主成分である長石を灰で融かすことで釉薬になるのですが、そこに金属を入れる事で様々な色に発色します。たとえば長石に灰を足して銅を加えて酸化で焼くと緑色に発色します。トルコブルー釉は、その配合のうち灰の代わりにリチウムとバリウムを入れると青く発色する釉薬です。

酸化寄りの場所で焼いたトルコブルー

このトルコブルー釉を酸化ではなく還元で焼くと、このように赤く発色します。

還元寄りの場所で焼いたトルコブルー

酸化と還元で焼き色を変えることは電気窯やガス窯でも可能です。しかし薪窯は電気窯やガス窯と違って火の流れが一定ではないため、一つの器に酸化の部分と還元の部分が同時にあらわれるように焼くことができるのです。

酸化と還元の境目で焼いたトルコブルー

さらに、燃料である薪の灰が器に付くことで、その部分は自然釉といってガラス化します。

灰が集まってガラス化した部分

僕はトルコブルーの釉薬をかけた器を薪窯に入れることで酸化と還元のグラデーションと自然釉が組み合わさるように焼いています。まさに、窯の中の雰囲気や炎の流れをそのまま映し出すフィルムのような役割をしてくれるのがトルコブルー釉です。

この色の変化が面白くてトルコブルー釉を使い続けています。

窯の中の場所によって多様な青色に発色するトルコブルー

制作の背景

僕がトルコブルー釉を使った器を焼き始めたのは今から6年前、まだ趣味で陶芸をやっていて、器の販売をはじめる前のことです。色のある釉薬を探していたときに目に止まったのが鮮やかな青い釉薬でした。

トルコブルー釉は気泡やムラが出やすく、均一な色に発色させるのが難しい、初心者には難易度の高い釉薬です。自宅の小型電気窯で失敗を重ねながらどうにかできたマグカップをSNSに投稿したところ、うつわ店から制作の依頼がありました。初めて請け負った陶芸の仕事です。当時はアルバイトをしながら自宅で陶芸をしていて、どうにか陶芸で食べていく方法はないかと悩んでいたときにやってきたチャンスでした。

ひたすら作っていたトルコブルーのマグカップ(2018年頃)

それからは色ムラのないように、均一に焼けるように、必死でした。年間300点近く、食べていくためとはいえ、なかなか頑張っていたと思います。

中には返品されるものもあって、やりがいはあるものの仕上がりに対する強いプレッシャーが常にありました。しかし、トルコブルー釉をお手本通りに均一な青色に焼けないのは自分の技術が足りていないからであって、決して釉薬のせいにはできませんでした。陶芸が好きなら何でもできるはずだと自分に言い聞かせていました。

しかし、元々やりたかった陶芸と何か違う、と気付いたときにはすでに3年が経っていて、これ以上続けたら陶芸が嫌いになってしまうという閉塞感が日に日に増して、ついには思うようにトルコブルーの器の制作ができなくなっていきました。

そんなある日、いつかやりたかった薪窯に誘われる機会がありました。その窯に「トルコブルーの器を入れたらどうなるんだろう?」とふと思いついて入れてみたのが現在の器の第一号です。窯出しの瞬間はワクワクして仕方ありませんでした。本当に久しぶりのワクワク感でした。

はじめて薪窯で焼いたトルコブルー(2020年)

焼けた器を見て「面白いのが焼けたな」と嬉しく思ったのもつかの間、この器は果たして受け入れられるのだろうか、これからお金も体力も必要な薪窯をやっていけるのか、と色々と考えて込んでしまいました。

それから半年もの時間が経った頃、この器をぼんやり見ていたときにふと思い出したのは、子どもの頃に家の近くでよく覗き込んでいた水路の奥深くの色、親に連れて行ってもらった火口湖の色。幼い頃からいつも自然の中にある青色の景色に憧れていたことを思い出して、もっと様々な青色にも焼いてみたくなりました。

このとき焼けた器のおかげで僕の好奇心は息を吹き返したように思います。

そして2021年、個展を開催していただいたのがfutouさんです。

「mutation -突然変異- 」と名付けてもらったトルコブルー

このときの個展を期に、徐々に制作の自信をつけることができました。

それからありがたいご縁をいただいて2022年に信楽に移住し、2023年に自身の薪窯を建てることができ、現在に至ります。

窯ができるまでの経緯はこちら から。よかったら読んでみてください。

まとめ

こんな感じでしょうか。頭が溶けそうです。

イベントの応募は大変ですが、頭の奥深くで考えていることを引っ張り出すことができるいい機会になります。へ~こんなこと考えてたんか~と気がつくことも多いのです。本当はいつも考えておくのがいいと分かっているのですが、日々の作業を優先してついつい後回しにしがち・・・

実はこのマガジンは妻に質問してもらって、口述筆記をしてもらいました。僕は自分の考えを文字にするのが本当に苦手で全く仕事が進まなくなるので、文章を書くときにはいつも手伝ってもらっています。ありがとうね。

最後まで読んでくださってありがとうございます。

もしかして選考の方ですか?

何卒よろしくお願いします。

高橋 燎


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?