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初窯を終えて ーはじまりの話ー

2024年1月28日、自身で建築したトレインキルンの初窯を終えました。この日を迎えられたことに深く感謝を申し上げます。

ありがとうございます。

8年前の冬、とあるぐい呑みを見ました。
それを見たとき、器に熱が残っているかのような錯覚を覚えました。それほどのエネルギーを一つのぐい呑みから感じたのです。

あのとき感じた熱がこの初窯の種火となっています。

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今日は、はじまりの話をします。

8年前、当時24歳だった僕は奈良にいて、ふらふらと生きていました。大学のサークルで陶芸をかじって卒業した後は就職もせず、かといって陶芸家になろうと弟子入りもせず、人生をこじらせていた僕にある転機が訪れました。

学生の頃から陶芸雑誌で見ていた篠原希さんの個展が、なんとバイト先の目と鼻の先で開催されていたのです。
雑誌で見ていた人の器がここにあるのが信じられなくて、通りかかったときには目を疑ったのを思い出します。

でもそのギャラリーには入ったことがないどころかお金もない。どう考えても買えない。しばらくお店の前をうろうろしながら迷っていました。でもどうしても見たい、勇気を出してビビりながら入って、

器を見た瞬間、緊張が吹き飛んで衝撃が勝ちました。

器に熱が残っているかのような錯覚。それほどのエネルギーを一つのぐい呑みから感じました。

本当のところあの頃は器を見ることすら怖かったです。自分は陶芸家にはなれないという現実が見えるような気がして、陶芸のことを忘れたいけど忘れられない気持ちで、前にも後ろにも進めなかったんだと思います。

でも、この日だけは見ないといけないと直感で感じました。このお店に入ったときの一歩が、自分と向き合う一歩だったと思います。

もともと奈良にいたのも妻が就職していたのでついていっただけで職場も成り行きで行っていたところだったのですが、偶然が重なって突然目の前に来たような、いま思うと複数の縁がつながっていたのかもしれません。

あの日から、感情のストッパーが取れて、自分が何者かどうかとか、どう評価されたいとかが、全くどうでもよくなりました。

いつか陶芸家になりたい、が
いま陶芸をやりたい、に変異して、

あの日僕は、別の人間になった気がします。


これがはじまりの話です。

肩書きではなくて、純粋な気持ちで陶芸をすると頭に焼き付けたときにすべてが始まりました。

もちろんその後は順風満帆とは言えなくて七転八倒の日々が続いたのですが、そういう日々がとにかく始まったのです。

マンションの一部屋にロクロを置いて制作をし始めて、どうにかこうにか出られるイベントに出て買ってもらって、そこで出会った窯元の方からロクロ成形の内職や、窯焚きの仕事をもらったりして少しずつ経験を積みました。陶芸の森も僕にとって大事なプラットフォームの一つで、なくてはならない窯場でした。気づけば妻も制作に駆り出され「つちこねる製陶所」というユニットもできました。

そして、一昨年の1月、信楽に来ないかと誘ってくれたのが篠原さんご夫妻です。それから2年が経ち、いまこうして自分の窯を建てることができ、初窯を迎えることができました。

8年前に一つの器から感じた熱が、いまこうして窯の種火となっています。

どんどん焼きます。ご期待ください。
これからもどうぞ宜しくお願いいたします。

2024.1.30  高橋燎 

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このとき個展を開催されていたギャラリーたちばなさんでは今年も篠原希さんの個展を開催されています。
『篠原希 作陶展』2024年1月27日~2月11日
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1200℃の窯の中
寒かった…


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