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アコースティック・ドラム、その佇まいは美しい

ドラムという楽器は、いわゆるポップ・ロックバンド編成の他の楽器(ギター、ベース、鍵盤楽器等)と比べて、アコースティック比率が高い楽器かと思う。ギターやベースは、すでにエレクトリック・ギター、エレクトリック・ベースがポピュラーになっており、鍵盤楽器にしても、エレピやシンセサイザーがごく普通に使われている。

しかし、ドラムセットだけは、基本、アコースティックがまだ主流なのである。もちろん、電子ドラムや、電子パーカッションも使うケースも少なからずあるかとは思うが、やはりライブ会場でのドラムといえば、今となってもアコースティック・ドラムが、そのステージの中央奥に鎮座しているのである。

理由は多々あるかと思うが、やはり「見た目」なんだろうと思う。要するに、アコースティック・ドラムは生楽器なので、バスドラムにしても、シンバルにしても、それ相応の物理的形状が必要となる。つまり、バスドラムは基本22インチ径程度の大きな胴の「太鼓」が必要であり、シンバルも「黄金色に輝く金属の円盤」でなければならない。それが「見た目」にも美しいのである。

電子ドラムの場合、音源は電子回路で合成されるため、そのような「太鼓」とか、「黄金食に輝く金属の円盤」は必ずしも必要でない。少なくともバスドラムであれば、右足で踏まれたペダルの強弱信号を、またシンバル等であればスティックで叩かれた強弱信号を音源に送ればよいだけなので、それらセンサー部分は基本的に物理的な形状の制約をうけない。しかしそれは「見た目」にはさほど美しくはないだろう。

もちろん、ドラマーの打感という観点からすると、電子ドラムのパッドセンサー形状は、基本的にできるだけアコースティック・ドラムに近づけるようにするのが理想ではある。しかし、コストや技術的な制約で難しく、代替的な形状とすることが多い。

それでも最近の電子ドラムセットをみると、少なくとも一番目立つバスドラムについては、一部のハイエンド機種において20インチ程度の大口径の胴を採用していて、これは「見た目」にもアコースティック・ドラムに近い。ただ、シンバルだけは、まだ黒いラバーをまとった円盤のようなので、これは「見た目」としてはイマイチなのである。

ドラムに限らず、演奏者の演奏表現手段として最も重要なものは、ベロシティ・センシティビティ(音の強さの感度)かと思う。弱打をどこまで拾ってくれるか、反対に目いっぱい叩いたときに、どこまで大きな音が出せるか、ということである。加えて、音の強さに応じた音色変化や、打面を叩く位置の違いによる音色変化など、アコースティックにあるようなアナログ的なレスポンスを、どう電子ドラムで表現するかというのが長年の課題となっているように思える。

難しいことを書いたが、要は、人間がアコースティック・ドラムを叩いたときと同じフィーリングを、電子ドラムでも再現できないと、「見た目」も含め、なかなかライブでは主流になれないような気がする。なので、電子ドラムの今後としては、アコースティック・ドラムを主軸に据えつつ、電子ドラムならではの利点を付加するような、ハイブリッド的なアプローチが当面はよいのではないかと思う。

ドラムセット製造会社の老舗に、Ludwig(ラディック)社があります。世界中の著名なドラマーが愛用している、ドラムのトップメーカーです。その Ludwig の往年のドラムセット Black Oyster は、初期のビートルズで、リンゴ・スターが愛用していたドラムセットです。死ぬまでに一度は叩いてみたいドラムセットですが、まだ一度たりとも触ったことがない、私にとっては雲の上のようなドラムセットなのです。

写真は、私が Roland 在職中、電子ドラムの設計部署にいたときに、2009年1月に出張で訪れた NAMM WINTER 2009 の様子です。NAMM WINTER は、毎年ロサンゼルス南部のアナハイムで開催されている楽器業界のディーラー向け見本市です。当時は、ヨーロッパのフランクフルト・ムジーク・メッセとならんで、NAMM WINTER は北米における最大の楽器ショウでした。

Ludwig のブースには、バスドラヘッドに "Liverpool 4" と書かれたドラムセット Black Oyster の展示をはじめ、リンゴ・スター、ジョン・ボーナム、ロジャー・テイラーなど、名ドラマーの名前入りヘッドも展示されていました。

それにしても、やはりアコーステック・ドラムの佇まいは、本当に美しいですね。

Ludwig "The Liverpool 4" at NAMM WINTER 2009
Ludwig ドラマー
Ludwig ブース全景

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