教育基本法改正をしたリードした「民間教育臨調」

 平成15年1月26日、文科省の中央教育審議会において論議されていた教育基本法改正問題について、日本の歴史・伝統・文化を踏まえ、内外の教育課題に対応した新しいグランドデザインを描き、民間の有識者・研究者の側から対案を示して、教育基本改正の意義を明らかにするために、「日本の教育改革」有識者懇談会(「民間教育臨調」)が設立された。
 会長には首都大学東京の西澤潤一学長、運営委員長には私が就任し、教育理念・学校教育・家庭教育・教育制度の4分科会で2年間にわたる審議を行い、その成果を「提言シリーズ」全4巻にまとめ、学事出版から刊行した。
副会長5人の内、4人は日本会議の役員が就任した。
 各巻のタイトルは次の通りである。

⑴ 『教育理念の再生』(金井肇編)
⑵ 『学校教育の再生』(村田昇編)
⑶ 『家庭教育の再生』(林道義編)
⑷ 『教育制度の再生』(小林正編)

民間教育臨調「提言シリーズ」4巻のポイント

 まず⑴『教育理念の再生』は、教育理念の哲学の明確化、「教」と「育」、学校・家庭・社会の役割と相互関係、国家・社会と教育の関係、公教育の意義と役割:行政と教育の関係、教養教育の必要性、人間の完成と古典・国民教育、宗教的情操の涵養と人権教育、国際化と公教育の見直し、国家と愛国心、人類文明の危機と教育理念の総括、教職の専門性の確立の課題の明確化、等について論じている。
 ⑵『学校教育の再生』は、学校教育の問題点と背景、学校における自由と規律、不登校・問題行動への対応、ゆとり教育と学力低下、不適格・指導力不足教員の問題、学校教育とりわけ義務教育の教育力をいかに回復するか、教員の示す範教育の役割、公民教育と郷土理解、環境教育の重点、宗教的情操を育む教育の強化、教育基本法に欠けているもの、愛国心は歴史への愛情を育むことから、教育界に責任の実力を、等について論じている。
 ⑶『家庭教育の再生』は、家庭教育を支えるための社会的支援、家庭教育の環境を整えるための施策と立法,子供の心身の発達における母性・父性の重要性、心理的母子結合、構成力の発達と父性の関係、社会規範成立・継承と父性、父親の権威の必要性、家庭における情操教育・宗教教育・性教育、学力低下問題と家庭教育、日本人のアイデンティティと歴史教育、家庭と保育所・幼稚園・学校の連携、健全な家庭を支援する体制、健全な家庭教育を支える労働・福祉政策、家庭科教科書の問題点、家庭教育と法律、等について論じている。
 ⑷『教育制度の再生』は、「戦後教育60年」の検証(戦後教育史の論争史、教育勅語排除・失効決議と国民道徳の解体、教科書問題、児童の権利条約、国旗・国歌問題、自由保育と学級崩壊、過激性教育・ジェンダーフリー教育、占領政策の集大成としての教育基本法、など)、教員の身分と待遇、人材育成を目指す教員養成制度の改革、教師論の問題点、研修の在り方、日本をダメにした4つの原因、日教組の現状と問題点、教科書検定制度・採択制度.教育基本法第10条について、米仏英の教育改革の取り組み、等について論じている

今日の「教育再生」運動を切り拓く先駆的役割

 平成18年12月15日、新しい教育基本法が国会で成立し、国会における安倍首相、伊吹文科相の答弁によって、①国を愛する「態度」と「心」は一体として養われること、②自然や人知を超えたものに対する畏敬の念など「宗教的情操の涵養」は必要であること、➂法令に基づく教育行政は「不当な支配」に当たらないことが明確に打ち出された。
 「民間教育臨調」の設立に伴い、超党派国会議員約380名が参加する「教育基本法改正促進委員会」が設立され、民間教育臨調と国会議員有志とのイギリス教育視察活動によって、サッチャー首相の教育改革に学ぶ総合的な教育改革プランを提示するなど政策提言活動にも取り組み、国会議員との共同作業によって、独自の「新教育基本法案」を作成し、政府の教育基本法改正案に大きな影響を与えた。
 この超党派国会議員連盟と連携した「民間教育臨調」の取り組みが、後の安倍政権における「教育再生会議」の土台となって、戦後教育を根本的に見直す今日の「教育再生」運動を切り拓く先駆的役割を果たしたのである。
 サッチャー首相は1988年に238条に及ぶ教育改革法(教育基本法改正に相当する)を成立させ、学力向上カリキュラムに基づいた全国共通試験を実施し、結果を公表した。そして、成績の悪い学校は責任を追及し、親には学校選択権を与えた。
 さらに財務や管理権を学校に与え、親や地元産業界の人も加わる理事会で教師の給料や設備も決めるなど、消費者の声を取り入れることで、偏向歴史教育等の是正に成功した。このイギリスのサッチャー教育改革に学び、我が国の教育正常化に活かされたのである。
 詳しくは、中西輝政監修・英国教育調査団編『サッチャー改革に学ぶ教育正常化への道一英国教育調査報告』(PHP研究所)を参照されたい。著者は、安倍晋三・古屋圭司・下村博文・中川昭一・平沼赳夫・衛藤晟一・亀井郁夫・松原仁・笠ひろふみ・山谷えり子・椛島有三で、10人の超党派国会議員が参画していることが注目される。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?