週刊新潮に掲載された『日本のホロコースト』に対する私のコメント

 4月25日発売の『週刊新潮』5月2・9日ゴールデンウィーク特大号の、「中国のプロパガンダ⁉元米軍人が出版した『昭和天皇ヘイト本』」と題するワイド特集に、私のコメントが掲載されているので、以下、引用したい。

<内容の信憑性を巡って、「南京事件」の関連書籍「ザ・レイプ・オブ・南京」が国際的な議論を惹起してからおよそ30年。このほど米国で、昭和天皇や旧日本軍に関する”歴史書”が新たに発売された。が、その拙劣かつ悪趣味な内容が再び物議を醸しつつある。

 問題の書籍は今年3月19日に出版された『日本のホロコースト:第二次世界大戦中の大日本帝国による大量殺人と強姦の歴史』という一冊。著者はブライアン・マーク・リッグという人物で、かつてイスラエル国防軍や米海兵隊に勤務した元軍人とされる。
 「タイトルから想像できる通り、全編を通じてことごとく驚かされます」
 とは、読後に著者インタビューを行った国際ジャーナリストの山田敏弘氏だ。「昭和天皇に関する記述はとくに目を引きました。”裕仁は68キログラムと小柄で身長は167センチとチビだった””まるで極度の偏平足かのような歩き方が変””オタクのような丸メガネ”という具合。日本人なら誰もが、著者の悪意を感じるはずです」
 山田氏は、歴史的事実に関する記述にも不正確な点が少なくないと指摘する。「第二次大戦の際、旧日本軍がアジア・太平洋各国で殺害した数を3000万人としている。日本共産党の発表でさえ2000万人ですよ。提示している数字があまりにも大げさであるだけでなく、根拠が示されない率直な感想としては”トンデモ本”だと言いたいところですが…」
 何とも歯切れの悪い物言いにはこんな理由が。「執筆に際して、リッグ氏は何人もの超一流の歴史学者に取材をしている。世界的ベストセラー『大国の興亡』の著者で、イェール大学歴史学部のポール・ケネディ教授をはじめ、ペンシルベニア大学で歴史学を教えたジョナサン・スタインバーグ教授らですね」
 加えて本書の推薦者には、米軍の元幹部や著名な大学教授も名前を連ねている。「リッグ氏自身もイェール大学を卒業したインテリで、後に英国のケンブリッジ大学で博士号を取得しています。過去には7冊ほどの著書も出版しており、どれも一読に値するものでした」
 とは言え、同書が列挙する”歴史的事実”のほとんどは、中国や韓国の主張とほぼ同じ。南京事件に関すると思しき箇所には”少なくとも30万人の中国民間人が残忍な方法で殺され、8万人以上の女性がレイプされた”とある。
 「あまりにも偏りがある書き方なので、<中国政府から資金援助や何らかの協力を受けているのではないか、との疑義が呈されると思う>と指摘すると、リッグ氏は資料の整理を友人の中国人女性に手伝ってもらったこと、彼女の学友に南京市で公文書を扱う主任記録官がいたことを明かしました」
 もっとも、それ以外の援助や支援は強い口調で明確に否定したという。…
近現代史に詳しい麗澤大学の髙橋史朗特別教授は、リッグ氏と同書を厳しく批判する。

「本人は学術書だと主張しているそうですが、本文はもとより引用先も杜撰。総じて読むに堪えません。まず、慰安婦については”平均年齢がわずか15歳””日本は約25万人の女性を犯し、数百万の家族を破壊””推定20万人の慰安婦のうち、悲惨な試練を生き延びたのは、わずか10%”などと、根拠のない誤った内容が断定的に書かれています」
 それは南京事件も同様だ。「戦時中の日本の非道を訴える人々は、偽造文書や偽写真を用いることが多い。この本も、最近の研究によって別の場所で撮影されたことが証明されている写真を、米国国立公文書館所蔵のものと謳って掲載している」
 昭和天皇に関する描写についても眉を顰める。「”裕仁は兵士ごっこを楽しんだ””征服された人々や自国民の苦しみには無関心だった”など。当時の日本への理解が不足しているだけでなく、日本人への配慮のなさもうかがえます」
 先の山田氏も指摘した、日本軍による犠牲者の数も信憑性に欠けると一蹴する。「これはナチス・ドイツのホロコーストによる死者,600万人の5倍。先の慰安婦のケースと同じく、デタラメもいいところ」
 改めて、髙橋教授は同書が国際社会に与える影響を強く危惧していると訴える。「歴史家として、あの本は評価に値しないと考えます。ただし英語で出版されている以上、この内容が”世界の総論”として拡散し、各国で大きな誤解が定着する可能性がある。日本は早急に、官民が一体となって反論しなくてはなりません」
 日本での発売は未定ながら、識者がザワつく挑発的な中身。「販売部数の増加を狙った話題作りの筆致かも」(山田氏)との見方もあるが、単なる“ヘイト本”と見過ごすワケにはいくまい。>

 2015年7月9日、私は妻とパリのユネスコ日本代表部を訪れ、駐ユネスコ公使と参事官と面会し、中国がユネスコ「世界の記憶」に登録申請した「南京大虐殺」と「慰安婦の声」に対する英文の反論文書を手渡し、同資料の問題点について説明した。詳しくは、拙著『WGIPと「歴史戦」』(モラロジー研究所)を参照されたい。
 同年5月8日に中山外務副大臣に面会し、5月14日に自民党外交・経済連携本部・国際情報検討委員会において、外務省の「Q&A」に南京事件はホロコーストのようなジェノサイドではないことを明記しなければ、国際的な誤解を食い止めることができないと訴えた。
 中国はユネスコ関係者に積極的に働きかけ、猛烈な攻勢をかけたが、日本の外務省の対応は後手に回り、10月4日からアブダビで開催されたユネスコ「世界の記憶」国際諮問委員会において、激論の末、多数決が行われ、僅差で「南京大虐殺」文書が登録されてしまった。
 同委員会に外務省幹部と共に私も派遣され、将来に禍根を残す日本外交の大失態を目の当たりにし、帰国後安倍首相と面会して詳細な総括報告を行うとともに、外務省に外野席からヤジを飛ばしている場合ではない。「官民一体チーム」を作って、私たちも内野に降りて一緒に守備につかなければ日本の名誉を守ることはできないと訴えた。
 ユネスコに提出した私の意見書は、歴史認識問題研究会のホームページやnoteでも公開しているので参照してほしい。亡くなった妻は英語が達者でこの「歴史戦」においても強力な助っ人であり、かけがえのない頼もしい”戦友”であった。
 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?