「選択的共同親権」民法改正案の問題点

 政府が3月8日に閣議決定した「共同親権」導入を柱とする民法等の改正案は、共同親権とは名ばかりの「選択的共同親権」という実に巧妙な骨抜き法案である。その問題点については、翌日の産経新聞1面で櫻井よしこ氏が、3月24日付同紙1面の「日曜コラム」で北村晴男弁護士が痛烈に批判している。

●北村晴男弁護士の批判の論点
 北村弁護士によれば、政府案の骨抜きの一例は、「例えば、共同親権を嫌う母親が、『元夫から自身がDVを受けるおそれがある』と裁判所に訴えることで、単独親権を勝ち取れる」という抜け道である。子に暴力を振るう親は親権を失って当然であるが、母親に対する父親からのDVの「おそれ」を理由とするのはナンセンスである。
 北村弁護士に協力して、「原則共同親権」こそが家族の絆を守り、子供の最善の利益につながると信じ、海外の専門家らと民間法制審議会を新設して、制度案と条文案を示して国会議員を説得してきたが、その過程で明確になったのは。自民党議員たちの体たらくの惨状であった。
 特に以前から「共同親権」を推進してきたはずの共同養育議員連盟の中心メンバーが、「原則共同親権は理想であるがハードルが高い。まずは法務省案で一歩を踏み出すべきだ」と述べ、法務省に恩を売るために奔走。官僚のイエスマンとなって、国益をまったく考えない有様である。安倍元総理はこの中心メンバーを呼んで厳しく叱責したことがあるが、キックバック問題と同様に、安倍元総理の死後、豹変した。
 親権を争う者は互いにDVを捏造してまで誹謗中傷を行い、「長期間子の面倒を見た」との実績を作るため、突然子を連れて家を出る。それが当たり前と考える日本人は、国際結婚でも突然子を連れて帰国し、拉致誘拐犯として指名手配を受ける。
 ハーグ条約に加盟しながら、子を本国に返さない日本は「拉致を助長する国」として国際的非難を浴びた。これではまずいと考えた政府は法務省の法制審議会に、共同親権の検討を促した。
 ところが、法務省に出向する裁判官は、共同親権を骨抜きにすべく企んだ。欧米型の共同親権導入には裁判官の大幅増員が必要になると考える彼らは、少数の超エリートというステータスを失う恐怖感からか、複数の左派活動家を法制審議会の委員に送り込んだ。
 離婚を「男性支配の組織である家族からの女性の解放運動」と定義する活動家は「父親と子の絆など不要」「家族は悪」と考え、「DV被害から女性救済」を過度に強調することで、共同親権反対の論陣を張った。超保守的な裁判所が、活動家を利用して共同親権を骨抜きにするという前代未聞の事態となったのである。

●櫻井よしこ氏が批判する3つの問題点
 櫻井よしこ氏も政府の民法改正案は、「共同親権とは名ばかりの実質単独親権制(離婚時に父母の一方のみを親権者とする制度)を温存するものだ」と批判し、次の3つの問題点があると指摘しているが、その通りであろう。
 第一の問題点は、選択制共同親権制(父母の合意によって父母の一方が親権を放棄できる仕組み)を採用したことである。親権は父母の権利でもあるが、子供への養育の義務、責任でもある。子供を産んだ以上、その子が成人するまで養育の責任は父と母にある。しかし、政府案は父母の責務を定めているものの、父母の合意で一方の親に親権放棄を認めている。
 子供にとってこれがどれほど残酷か。選択的共同親権は父母の一方が「子を捨てる」選択になるからである。自分が親から捨てられたとした子供の悲しみは察するに余りある。「親とは何か」が分かっていない血の通っていない法案と言える。
 第二の問題点は、一方または双方の親を監護者に指定でき、子の監護権(子を養育する権利)と居所指定権(子をどこに住まわせるかを決める権利)を付与する点である。この2つの権利が親権の中核的要素であるが、離婚時に親権者となったとしても、監護者に指定されなければ、その親は子育てから排除されたり突然子を連れ去られたりしても、抵抗できない。監護者になれなかった親は親権を奪われたに等しい。
 第三の問題点は、「子の利益のため、父母が共同して親権を行うことが困難」だと裁判所が判断すれば、一方の親から親権を剥奪してもよいとしている点である。離婚する夫婦の間には強い葛藤があり制度で強制しない限り、力を合わせて親権を全うすることができない事例が多く、裁判になりがちである。
 政府の民法改正案に従えば、これら大半の事例に関して裁判官の裁量で父母の一方から親権を剥奪できることになる。単独親権制を取っている今の裁判所の運用と何も変わらない。
 政府案は先進国の全てが採用している共同親権制度を表向き導入するかのように装い、事実上単独親権制度の維持を図る結果になる。狡猾な騙しに他ならない。
 共同親権制度の大前提は「夫婦の縁の切れ目にしてはならない」ということである。児童虐待などがある場合を除き、親は離婚中であろうとなかろうと、子供との絆を断つことは認められない。
 子供は両親の愛と保護を受ける権利があり、共同親権は子供にとっての権利であることを忘れてはならない。子供から親の一人を奪う政府案は子供、親、祖父母など家族全員にとっての悲劇であるとともに、日本を国際社会の異常な国に据え置くものである。
 たとえ両親が離婚しても、子供は両親の愛を受けて育つことが望ましい。両親は自分が親権を取ろうが取るまいが、子供に愛を注ぎ養育に責任を持つ義務がある。教育基本法第10条は、「父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする」と明記している。
 何が子供の最善の利益になるのかという原点に立ち戻って、考えなければならない。なお、この問題について論じてきたnote拙稿及び『歴史認識問題研究』第7号の拙稿「実子誘拐・共同養育・共同親権問題に関する一考察」も参照してほしい。
 
 
 

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