安倍昭恵講演の反響と「トラトラトラ」座談会

   1月21日の靖国神社崇敬奉賛会主催第24回公開シンポジウム「生きるということ一志を未来へ」が靖国会館で開催され、第1部基調講演で安倍昭恵さんが基調講演され、第2部では私がコーディネーター役を務め、山谷えり子参議院議員が加わって座談会を行った。YouTube動画が配信されており、既に1万回近く再生されており、大きな反響を呼んでいることが分かる。
 同配信に対するコメントも寄せられており、次のコメントが心に残った。

<安倍総理の生前の、行動、思い、総理であるからしての苦悩、したくてもできない境遇、しかし、先祖、先人に対する誓い、強い志、責任感などを、身近にいた妻としての感想を語られていて、涙ながらにお聞きしました。そして、命を懸けて、日本、日本人、家族を守るために、散っていった、英霊を祭る靖国参拝、参拝できない総理に代わり、何回も靖国参拝されていたなどをお聞きして、初めて知る事もあり、大変感動する講演でした。>

 安倍元首相とは平成16年に九段会館大ホールで開催された第6回公開シンポジウムで対談させていただいたが、お父様の安倍晋太郎元外相の葬儀の葬送の言葉として、吉田松陰が獄中で書き残した『留魂録』の「死を決するの安心は四時の循環に於いて得るところあり」という言葉を引用され、人生にも春夏秋冬があり、松陰先生は、四季の中で付けた実がもみ殻だったかどうかは、私の志を受け継ぐ人がいるかにかかっている、とおっしゃった。私も、父が何を遺したのかは、一番近くにいた自分が志を受け継いでいけるかにかかっとおっしゃったことについて質問させていただいた。
 安倍元首相亡き後、今度は私たちが安倍元首相の「美しい国・日本」の実現という志を受け継ぐことができるかが問われているのだ。靖国神社の遊就館で「安倍元首相を偲んで」と題する追悼展示が行われた際に、みたままつりに安倍晋三的首相が奉納揮毫された「寂然不動」と書かれた書が展示されていた。「覚悟を持ち、忍耐強く、何事にも動じない、という意味である。
 安倍昭恵さんからは、プーチン大統領やトランプ大統領との外交エピソード(ゴルフ場での一回転エピソードなど)や東日本大震災の復興支援ソング「花は咲く」のピアノ演奏されるに至った経緯、曽野綾子さんに頼み込んでアフリカの子供たちの貧困状況視察が、やがて昭恵さんがミャンマーに学校を3校作る契機になったことなどに関する興味深いエピソードが紹介された。
 また山谷さんからは、安倍元首相は「アジアの子供たちに学校をつくる議員の会」会長として、アジア各国に小学校の校舎19校立てる活動をされていたが、タイの贈呈式に参列された折に、像に乗った安倍会長が無邪気に「シンゾウがゾウに乗っているゾー」を言われたというエピソードが紹介された。
 私と山谷さんは同じ昭和25年生まれの「五黄の寅」、明恵さんは1回り下の寅年なので、「トラ、トラ、トラ」の三人組ですね、などと冗談が飛び交う和やかな舞台裏の控室の延長戦上で座談会が行われたので、打ち解けた座談会となった。
 「トラトラトラ」は、大東輪戦争の始まりである日本軍の真珠湾攻撃が奇襲により開始されることを伝えた電信の暗号略号であるが、何よりも安倍昭恵さんの深く心に染み入る切々たるお話は参加者一人一人の胸に響く感動的なものであった。まだ見ていない方は、是非YouTube動画を見てほしい。

●「常若」に基づく「日本的ウェルビーイング」の「日本的世界性」

 ところで、令和5年度から5年間の教育振興基本計画が策定され、「持続可能な社会の創り手の育成」と「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」が二大基本コンセプトとして掲げられた。ウェルビーイングについては「骨太の方針」にも明記され、こども家庭庁の教育政策でも重視されている。
 縦軸の「不易」な価値観と横軸の「流行」の価値観を統合する教育振興基本計画が求められるが、ウェルビーイングについても、伊勢神宮の式年遷宮に象徴される「常若(とこわか)」思想に基づく「日本的ウェルビーイング」という縦軸の価値観と国連やWHOなどで議論されている横軸の流行の価値観を統合する視座が求められる。
 日本私立大学協会は「日本社会に定着したとは言い難い外来語の使用については抑制的であることが望ましい」、保守系の教職員団体である全日本教職員連盟は「教育基本法第1条の理念、特に『我が国の伝統と文化を基盤として国際社会を生きる日本人の育成』について、「グローバル人材の育成」と併せて記述すべきだという意見書を文科省に提出した。
 これらの意見書に応えるためには、「日本社会に根差したウェルビーイング」とは何か、グローバルと日本的な価値観の関係を明らかにする必要がある。このような問題意識から、私は「ウェルビーイング教育研究会」(事務局はモラロジー道徳教育財団道徳科学研究所)を立ち上げ、「日本的ウェルビーイング」の「日本的世界性」について共同研究を進めてきた。
 京都学派の西田哲学を継承する京都大学哲学科に新たに設置される「哲理数学」、東京大学大学院で「四則和算」によってウェルビーイングを数式化し、「ロボットに最高道徳を搭載する」研究に取り組む「道徳感情数理工学」講座などは、道徳の科学的研究の視点から、日本的ウェルビーイングの「日本的世界性」の解明に役立つであろう。
 詳細については、拙稿「日本発のSDGs・ウェルビーイング教育についての一考察⑶一日本的ウェルビーイングと道徳を中心に一」(『歴史認識問題研究』第14号、令和6年3月)と毎朝連載しているnote拙稿を参照してほしいが、第一次安倍政権下の政務官会議「あったかハッピーPT」が指摘したように、「経済の物差しから。幸福の物差しを取り戻す」必要がある。
 4期8年務めた男女共同参画会議有識者議員として、首相官邸で開催された同会議で、菅官房長官を含む全大臣に向かって、経済優先策を厳しく糾弾したことがあるが、少子化対策や子育て支援策、高等教育無償化などの施策についても、この「幸福」「ウェルビーイング」の視点から根本的に見直す必要がある。

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