青少年精神医学の権威が警告する「性自認」問題

 フィンランドで医師の診断なく法的性別変更を認める法律が成立し、未成年を含めるかどうかで議論が紛糾し、小児医師会、医師会、精神医学会が未成年の扱いについて慎重さを期すよう求める声明を出した。
 昨年12月、議会の社会保険委員会で、10年間未成年者の性自認問題に関する多くの研究論文を発表し国際的に評価の高い青少年精神医学の専門家であるタンペレ大学のリーッタケルトゥ・カルティアラ教授は、未成年の性的自己決定権を強調する人権団体の主張に反対し、年齢制限を引き下げるべきではないと主張した。
 その根拠は、思春期にはアイデンティティの構築が始まったばかりで、その発達の最終的な結果は若者自身にもわからないからだ。思春期のアイデンティティは形成途上にあり、断片的で状況に依存する。一部の子供は性別違和を表明するが、5人のうち4人は自然に解消するという。

政治家・団体・メディアが誤った考え方を広めた

 北欧最大の発行部数を誇る有料購読新聞『ヘルシンキ・サノマット』(1月27日付)のインタビューで、同教授は次のような注目すべき見解を明らかにしている。
 子供の性別違和を承認し、法的性別変更をすることは中立的な行為ではなく、子供の発達に干渉する強力な心理的・社会的介入であり、性別変更が「正しい道」だという誤まったメッセージを送ることになる。
 特に思春期になって性別違和を訴え始める少女たちは新しい現象であり、その性別違和が永続的なものかどうかという長期的な研究に基づくエビデンスは存在しない。
 「ジェンダーに関するアイデンティティ実験を強化すること=ジェンダー肯定ケア」が望ましく、当事者のためになるという誤った考え方が広まったのは、青少年精神医学主導ではなく、政治家や団体の意志によるものだった。
 以前は幼い男児が他の性別を自認することがほとんどだったが、2015年以降、患者数が10倍に増加し、そのほとんどが生物学上の少女に変化し、4人に3人は深刻なメンタルヘルスの問題を抱えているという。
 多くの当事者の若者たちが、併存するメンタルヘルスの問題も性別不一致から生じていると考え、「正しい性別」で扱われることで問題が解決するというメディアやSNSなどで提供される誤った考え方にしがみついている。

性別適合治療で心理的幸福度が悪化し、自殺が増加

 ホルモン治療と法的な性別確認を要求するLGBT関係団体や活動家が繰り返す「トランスジェンダーの若者が自殺の危険性が高く、従って緊急に治療と支援が必要」という主張は誤情報(Disinformation)であり、それを拡散するのは無責任な行為である。
 自殺念慮・行動は、併発する精神疾患とも関連しており、性別不一致の当事者であっても精神的に健康な若者はめったに自殺しない。むしろ性別適合治療でメンタルヘルスが悪化したり、自殺率が増加する研究もある。
 性同一性研究を申請した若者に関する10年間の調査では、自殺は非常にまれな出来事で、「生物学的な身体とは異なる方法で自分の性別を経験していても、精神的に健康な若者が、自動的に自殺するわけではない」と同教授は強調する。
 スウェーデンの大規模な登録調査によれば、性別適合治療を受けた成人の自殺死亡率が明らかに増加している。「従って、トランスジェンダーを経験している若者の親に対して、その若者には適合治療がなければ自殺の危険があり、その危険は性別適合治療で対処できると伝えるのは正当化されない」という。
 フィンランドの研究では、ホルモン治療を受けた多くの未成年者の心理的幸福度(ウェルビーイング)は改善されず、むしろ悪化したことが判明し、18歳未満に対し、ホルモン治療・外科手術よりも心理的療法を優先する方針を同政府は明らかにした。

政策の根本転換を図るヨーロッパ

 ヨーロッパでは性別違和をめぐる政策が再検討されており、フランスでは国立医学アカデミーが、未成年の性転換ホルモン治療、外科手術の危険性について警告し、子供と親ができるだけ長期の心理的な支援を受けることを推奨している。
 スウェーデンも18歳未満に対する思春期抑制剤投与を含むホルモン治療を原則的に停止し、心理カウンセリング優先に切り替えた。スウェーデンの大学病院の精神科医であるアンジェラ・センフィヨルド博士は、証拠が不足しているのに性別適合治療に同意することが期待され、「私の良心は食い物にされ、医師としてこれらの患者に危害を及ぼす危険性があり、ホルモン治療と外科的治療の証拠不足への恐れ」を理由に辞任した。
 子供の性自認による性別変更を推進する人々は善意かもしれないが、「子供は小さな大人ではなく、アイデンティティ形成の途上で影響を受けやすい」ことへの理解が欠落している。
 大人たちの仕事は、若者の感情を冷静に受け止め思いやることであり、たとえ助けがなくても、若者に伴うすべての痛みを取り除くための迅速な解決策を模索することではない。
 イギリスでは「包括的性教育」によって、性転換手術をした18歳以下の子供が10年間で77人から2590人に急増し、「性自認」をめぐるトラブルが急増し、英唯一の児童ジェンダー医療機関が今春閉鎖され、ホルモン治療・外科手術等を中止した。
 我が国のLGBT理解増進法と「包括的性教育推進法」制定の動きは明らかにこの欧米の最新動向とは逆行している。欧米で起きている弊害と混乱の検証をまず行い、我が国でかつて起きた「過激な性教育・ジェンダーフリ―教育」による混乱の再来とならないように十分に慎重審議を尽くすべきだ。


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