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真夜中の砕氷船のように行く一瞬みえた愛に向かって/鹿ヶ谷街庵

2022年11月12日(土)のうたの日7時部屋の「愛」で次席となった短歌。

上句の直喩の持つ壮大な物語に圧倒された。「砕氷船」には、小型の河川・港湾用と、大型の海洋航行用がある。また、後続の輸送船団などを誘導する誘導型砕氷船と、自船のみの航行を目的とした独航型砕氷船に大別される。外洋砕氷船では、海洋観測、極地基地などの支援、氷海での救難などを目的とする船が多い。観光目的のものもある。「真夜中」に航行しているということは、観光船ではないだろう。「愛」を求めて走るということは、孤独な独航型砕氷船が想像しやすい。

その「愛」は「一瞬みえた」程度なので、見通しのよくない海洋を航行する船だろうか。なぜ「砕氷」する船なのだろうか。偶然の一致かもしれないが、「砕氷船」は英語で 'icebreaker' である。氷 'ice' を砕き、「愛に向かって」進む船。 'ice' と「愛」のみならず、「砕(sai)」も音が似ている。冷たい氷と温かい「愛」。氷は、艱難辛苦の象徴か。

「砕氷船」が作中主体の比喩と取れば、「愛」とは他の誰かによりもたらされるものだろう。「一瞬みえた」だけなので、まだそれが本当の「愛」かどうかもわからない。それでも「愛」だと信じて目の前の氷を砕いて前進してゆく。倒置法により強調される従属節に題である「愛」を入れたことで、魅力的な一首となっている。

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