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ポンコツハケンとスーパーハッカー②

 今年から全国の小中学生にパソコンが配給されることになったらしい。配給パソコンなんて、どうせクソみたいに低スペックのタブレット型パソコンだと思っていたが、案の定そうだった。CPUは一世代前のスマホ用だし、メモリーは一桁ギガ、ストレージは32ギガしかない。せめてあのリンゴ製のタブレットだったら軽いゲーム位はできただろうに。しかしこのパソコンでは、ゲーム中にフリーズすること間違いなしだ、ゲームが立ち上がるかどうかも怪しい。

 しかも、これであの重い教科書から解放されると喜んでいたら、始業式にしっかり紙の教科書が配られた。ランドセルの重さは、小学校低学年でも10キロをゆうに超える。背負いベルトが肩に食込む、夏の暑い日などは地獄だ。大人は考えてみて欲しい、自分の体重の半分の荷を背負って通学するということがどれほどの苦痛かということを。

 電子教科書だったらそんな必要はないし、書き込みもできる。家のパソコンでそれを使えば、配給パソコンを持ち帰らずに家で予習復習だってできる。大人には紙にこだわる頭の悪い人が多いので、小学生はいつまでも行商のような大荷物を背負わされることになる。
 紙の本は場所をとる、つまりショバ代がかかる。不要になればゴミとして廃棄され、処理費用がかかる。データだったら、場所はとらない、データの消去は簡単にでき、空いたストレージに別のデータに入れられる。どちらが優れているかは一目瞭然なのに、未だに紙と電子とどっちが良いかなどと議論している。

 それはともかくとして、この配給パソコンはやはりクソだった。思ったより立上りは早いが、アプリを使うととたんにモッサリした動きになる。ゲームは試せなかったが、PDFを見るだけでも重かった。そんな中で会議アプリだけはしっかりと動いた。いつかまた起こるかも知れないパンデミックに備えているのだろう。


「このパソコンは自分専用になります。テプラで名前貼ってあるから、他の人のと間違えないでよ。テストもパソコンでするから、他人のを使うとその人の点数になっちゃうからね。」
コンピュータのことなど何も知らないような中年の女教師が叫んでいた。 

「先生、テストもパソコンでするんですかぁ?」

「全部じゃないけどね。授業中の小テストとかはこのパソコンでするわよ。」

誰かが教師とそんなやり取りをしているとき、僕はこのパソコンの設定を確認していた。

 インターネットはWiFi接続のみ、セキュリティはガチガチに設定されているだろう。悪い子が危ないサイトを閲覧できないような設定になっている筈だ。そんな想像していた僕は、パソコンの設定を見て思わず息を飲んだ。余りにも驚いて声が出そうになった。

 なんとファイヤーウォールの設定が無効化されていない。つまりそれは、こちらで好きなように設定できるということだ。

(出入り自由ですかぁ?)
僕は思わず声に出して言ってしまった。

そのつぶやきを聞いた教師は、こちらを見て

「授業中は出入り自由じゃないわよ。」
と言った。

ちょっとパソコンを見せてもらえる?

僕は隣の席の子のパソコンを触った。隣の子は、僕がパソコンの設定画面を開いても何も言わなかった。

 やはりファイヤーウォールの設定は無効化されている。きっとガチガチの設定になっているはずだ。このパソコンではどこにも行けない、僕のパソコンは世界中どこにでも飛べる。

 僕は最高の欠陥品を手に入れた。僕は心の中でガッツポーズをした。何というラッキー、超ラッキーだ。自分でファイヤーウォールの設定ができる。自由にどこにでも飛んでいける。

 でもここは落ち着くんだ、僕はそう自分に言い聞かせた。
 これを誰にも知られないまま維持するにはどうしたら良いか、考えるんだ。
 WiFi経由ではサーバーにログが残る、いつかはバレてしますだろう。家からSIMカードを持ってきて、WiFi接続しないようにすれば、P2Pでハッキング可能な環境になる。

 これで家と同じ環境でハッキングできるようになる。ハッキング環境が学校にあるなら、もう学校を休む必要はない。夜中ハッキングに夢中になって、朝起きられなくて学校を休んだことがあった。寝坊で学校を休めば、親には叱られた。

 親は世間体を気にする常識人であったし、僕は自分がタダメシを食わせてもらっている立場であることを重々承知している。少なくても今は親に愛された方が有利だ。戦略として学校にはできるだけ行こうと思う。

 僕にとってくだらない授業よりもハッキングの方が大事だ。しかしこのパソコンを手に入れた以上、もう休む必要はない。学校にいる間でも思いっ切りハッキングできるのだ。

 それにしても、どうして僕のパソコンだけがそうなっていたんだろうか?きっと日頃の行いが良かったのだ、だから神様がご褒美をくれたのだ。

 僕の未来は希望に満ち溢れていた。


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