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わたしを作った本

好きな本はたくさんある。けれど好きであるということはその本は「好き」の対象でしかない。今回は好きを通り越して自分を作った本―自分の一部みたいな本たちを紹介したいと思います。

木で例えるなら枝や葉っぱ

ジョン・キングダン『アジェンダ・選択肢・公共政策』笠京子訳、勁草書房、2017年。(Kingdon, John W. Agendas, Alternatives, and Public Policies, updated 2nd edition.)

「どうしたら政策は変わるの?」→「政策の窓が開いたら変わるよ(ニッコリ)」という本です(雑)。…真面目に説明すると何か政策を実現するにはアイデアとして未実現の政策それだけが整備されているだけでは足らず、その政策を俎上にのせるイシューや政治的状況(政策担当者とか、選挙結果とか)などが揃うと政策変更が生じます、と論じた本でした。諸々の条件が揃ったときのことを「政策の窓が開いた」と呼んでいます。「policy entrepreneur」(直訳すると「政策起業家」だけどちょっと日本語ではニュアンスが違うかも…?ある政策の実現のために邁進する人、的な意味)の概念も読んでいてすごくしっくりきた本でした。

岡崎久彦『戦略的思考とは何か』中公新書、1983年。

国際政治についての本を一冊教えて、と言われたらとりあえず分量的にもすすめる本です。「戦略的思考」と銘打っていますがここでいう「戦略」はビジネスや経営における戦略ではなく外交や軍事における戦略のことをいいます。出版年が冷戦中なので記述が古いのは否めませんが、今も通じる考え方ではないかなと思っています。

木で例えるなら幹

サミュエル・ハンチントン『文明の衝突』鈴木主税訳、集英社、1998年。

ハンチントン御大。この一冊がなかったら大学で政治学に進んでいても「国際」とはついていなかったはず。確か高校生のときに手にした本だったと思います。買ったときは若気の至りかもしれませんが、今となってはあの時買っておいてよかったです。アジアやイスラムについての認識が少しガバいのは確かですが、国際関係の捉え方としてはなるほどな、と思わされる本です。今もたまーに見返します。

梅棹忠夫『文明の生態史観』中公文庫、1974年。

こちらは浪人時代に読んだ本。世界史を西洋・東洋・周辺…と捉えるのではなくむしろ周辺と位置付けられてきたユーラシア大陸中央部を中心にみると、という本です。まあ今日においては洋の東西&周辺の捉え方が陳腐化しているのである意味目新しさはないのかもしれませんが、これも国際関係や歴史の見方として面白いなぁと思っていました。梅棹の視点は地政学におけるハートランドやリムランドの考え方にもどこか通じるような気もするんですが…寡聞にして比べて論じられているのを見たことないので見当はずれですかね…。

福沢諭吉『文明論之概略』松沢弘陽校注、岩波文庫

これは大学で比較文明論という面白そうなタイトルの授業中に中江兆民の三酔人経綸問答とかと併せて読んでみる機会がありました。幕末明治期の知識人が書いた政論って訳わからないくらい頭いいのがビンビン感じられて刺激になります。そんなこんなで実は近代文語文や漢籍を読むの好きなんですよ…

土山實男『安全保障の国際政治学 第二版』有斐閣、2014年。

師匠。以上。

木で例えるなら根っこ

『孫子』金谷治訳注、岩波文庫

孫子の兵法の孫子です。「戦わずして勝つ」「彼れを知りて己を知れば百戦して危うからず」といったフレーズは有名ですが自分は「道とは民をして上と意を同じくせしむる者なり」という箇所がお気に入りです。荻生徂徠いわく兵家の肝は「令(漢文の助動詞、使役)」らしいですが、これは政治学のパワーの概念※と通じるなぁと思いました。(※Aがしたくないことをさせる、もしくはAがしたいことをさせない)

マキアヴェリ『君主論/ディスコルシ』

色々翻訳はありますが自分的に読みやすかったものを。権謀術数のお手本みたいな感じで何かと君主論のほうは世に出回ることが多いみたいですが、マキアヴェリの人文主義的な側面が欠けているとどうにも誤解が起こりがち。わかりやすさ(?)は君主論ですが読み物として含蓄が多いのはディスコルシ・ローマ史ではないかなと思います。隠れたおすすめ。

マックス・ヴェーバー『職業としての政治』脇圭平訳、岩波文庫、1980年。

最後のワンパラグラフはいつ読んでも背筋が伸びる気持ちになる、そんな本です。1919年、WWⅠ敗戦後のドイツの学生・知識人たちに向けた檄―諫言というべきか―は100年を経た今でも心に留めておきたいです。

飯田洋介『ビスマルク』中公新書、2015年。

世界史で必ず耳にするビスマルク。一政治家、一人の人間としてみるとこんなにアンビバレントな側面を同居させていたことに驚きを感じます。保守的な面と改革的な面、貴族/上流階級的な面と大衆迎合的な面…世にいう「鉄血宰相」は数あるうちの一面でしかなく、こんなに相反する要素を併せ持つ人物だったというのがとても印象深い本です