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タイ料理にサムンプライはやっぱり欠かせないんだなあ

 近年のタイの和食ブームはすごい。同時に2013年からタイ人の短期査証(主に観光に必要だったビザ)が免除になっているので、2週間程度ならビザなしで日本に来られる。そのため、もうずっとタイでは日本旅行ブームが続いている(今はこんな状態で小康状態になっているけど)。

 これによって、タイ人の和食好きが加速していて、日本酒は飲むし、刺身も食べるしですごい。十数年前までは「刺身は気持ち悪い」「和食は味が薄い」とか言ってたのがウソのようだ。

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 タイ人が和食の味が薄いと感じるのは、おそらくタイ料理の味つけが濃いからだと思う。和食は素材の味を重視するが、タイ料理は調味料の味がベースになる。味つけが濃すぎて、素材の味に勝ってしまうのだ。だから、濃い味に慣れていることで、和食が薄いと感じるのではないか。

 とはいえ、その調味料も多種多様にあって、それはそれで複雑である。基本はナンプラーだ。カタクチイワシなどを塩漬けにして発酵させた魚醤なので、魚の発酵臭が苦手な人には合わないかもしれないが。しかし、ナンプラーはタイ料理の基本で、ほぼすべての料理で使用していると言っても過言ではない。塩分を加える場合、タイでは塩ではなくナンプラーを使うほどなのだ。だからこそ、どの料理にも魚の旨味が加味され、魚介類で出汁を取る料理に慣れた日本人にタイ料理はマッチする。

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 タイ料理というのはおもしろいもので、宮廷料理は別として、日本人が思い浮かべる一般的なタイ料理はいつでもどこでも食べるという点が和食と違う。屋台から高級料理店、そして一般家庭において食されるタイ料理は、基本的にどこでも同じようなメニューであるのだ。日本なら職人が作る専門店があって、家庭では食べないメニューというのがある。タイにもいくつかそういった料理はあるが、ほとんどは一般家庭でも作って食される。

 日本でブームというか、20年前に「タイ料理と言えば?」で絶対で挙げられたトムヤムクンのように、今はガパオライスが定番だろう。パットガパオ(バジル炒め)という炒め物メニューをご飯に載せたものだが、これも高級料理店にもあるし、屋台でも家庭でも食べられる。

 こういったタイ料理を作るには、先のナンプラーを始め、各種調味料が必要になる。市場でもコンビニでもスーパーでも、どこでも売っていて、小さい容器から業務用のサイズまで様々な品揃えがある。

 調味料はタイ料理の味つけの中で欠かせないもののひとつであるが、そのほかには「緑色」のものもタイ料理の味の決め手になるので欠かせない。日本なら緑黄色野菜などがそれにあたるかもしれないが、タイではちょっと違ったものが使われる。

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 それが「サムンプライ」だ。ハーブあるいは香草とも訳されるし、薬草と訳すケースもある。日本なら各メニューに必ずと言っていいほど野菜もふんだんに使うわけだが、たとえばガパオライスなら野菜が入っていない店も少なくない。その代わり、決め手となるバジルは入っている。このバジルもまたサムンプライのひとつとなる。正確な分類はわからないけれども、トウガラシだって考え方によってはサムンプライと言ってもいい。

 ガパオライスでもわかるように、調味料のほか、このサムンプライがなければ成立しないタイ料理がほとんどで、場合によっては野菜よりも大切な存在なのだ。

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 タイ料理は東南アジア各地の影響だけでなく、中華料理からの影響も多大にある。たとえば広東省潮州県の辺りで食べられる潮州料理とタイ料理には多くの共通点がある。しかし、一方で潮州料理との大きな違いはやっぱりサムンプライになることも多い。

 サムンプライは昔からタイで食されてきたものなので、一年中、どこでも手に入るし、家庭によっては庭で栽培していたり、山の方では自生しているものを使ったりする。パクチーひとつをとってみても、鮮度が違うし、土と水、気候が違うからか日本で栽培されるものと味も香りも違う。タイのサムンプライはタイでしか採れないと言ってもいいくらいだ。

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 サムンプライは薬草と訳されるケースがあると先述したが、それはタイの伝統医学においてだ。サムンプライは料理だけでなく、昔ながらのタイの医療にも使われてきた。女性向けのスパなどでハーバルボールなるものを使うことがあるかと思うが、あれもサムンプライを湿った布で包んで使う、タイ伝統医学の一種だ。タイ古式マッサージでもサムンプライは使われる。サムンプライを通してタイを見てみると、タイにはタイ伝統医学がそこかしこに当たり前にある。

 余談だが、タイで初めての大学と言われるのが涅槃像で有名なワット・ポーだ。今でも学問として残っているのがタイ古式マッサージのスクールである。ほかにもタイの医療系の大学にはタイ伝統医学の学科がある。むしろ歴史の長い中国伝統医学の方がタイ政府に認可されたのがここ最近の話で、タイではやはりタイ伝統医学が認められてきた。

 そんな薬草がタイ料理にも使われているのだ。しかしおもしろいのは、タイ料理でも伝統医学でも同じサムンプライを使っていながら、タイ伝統医学の医師によれば、中国伝統医学にある「医食同源」の考え方はないのだとか。これだからタイはおもしろいのだと、その医師の話を聞いて思った。

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