リバーサルフィルム・みずうみ

「どうせ可愛く撮れないんだから、やめておいたら?」
ぃや。僕は、思う。
大概はかわいいんだからさ、ね、でも、K子さん。なんでカメラ向けると、表情がこわばるかな。
「そこを可愛く撮るのが上手ってもんでしょ?」
まぁ正論だよな。下手くそな何回かの試みを通じた結果、望遠盗撮風でないと自然な表情無理なことは学習したよ、でも500nm程度の希望にすがっているんだろうか、僕は?
「ぁあごめんごめん、わるかったよ」
そう答えて液晶モニター中のK子から、山の森へ目を移す。
…★
久しぶりの外出で疲れた、という彼女を起こさない様に、その隣の部屋で
今日のデータをバックアップしておく。ステータスバーが動く。1、2、…?
逆方向へ動くことなんてあったけ?故障かな。取説、なんてあったっけ?紙面の、そんなものあったかな?引き出しに?をあける。

「カタン」
床に落ちた白いマウントに入った35mmリバーサルフィルムが1つ。
ぇっと、イツのだよ。どんだけ前。
苦笑いして拾いあげる。
20世紀の終わりの頃なら、フィルムカメラってやつが普通にあった。
拾い上げたやつは、リバーサルフィルムってやつ。
世の中には、ネガフィルムってやつがあったんだけど、リバーサルフィルムの方が、色々な事情で偉いって、事になってた。

自分の化石。過去の真実。竜宮城の存在。確かめたくなって、白いマウントに入った35mmリバーサルフィルムの像を、蛍光灯型LEDに透かしてみる。

「だって、私、醜いから」
はい?僕は、思った。
君がだったとしたら、世の言葉の価値はどうしたってことになるの?
「そう言われてきたわ」
よくわからないな。横顔なら許してくれたりする?
「もぅ…」
彼女はハイヒールを脱いで海に向かって走り出した。
「きもちぃー!」
振り返って、カメラを手にもっている僕に照れながらOKのサインを出す。
ファインダーの中に、綺麗な彼女が笑う。

「カシャ」
20世紀の終わりが近い、初夏の日の1/1000秒。
彼女の唇から反射された光に反応した化学物質。
リバーサルフィルムはその時、あった。

「まだ寝ないの?」
扉の向こう側に笑顔の女がいる、K子という名の。

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