「大怪獣のあとしまつ」感想 〜何がかの映画を燃やしたのか〜
山田涼介という俳優がいる。
Hey!Say!JUMPのメンバーなので本業はアイドルだけど、ここでは俳優としての話をする。
顔だけではなく俳優としてのポテンシャルは高く、どんな役柄が来ても自分に引き寄せてものにしてしまう。
映画「燃えよ剣」の沖田総司は、これまでの集大成といえるだろう。司馬遼太郎の描く沖田のイメージを体現していると、新選組のファンにも好評だった。
ただ、顔の良さが仇になりかえって俳優業を制限している傾向があるので、残念に思う。
さて、彼にはひとつ致命的な弱点がある。
それは、
びっくりするほどの作品運の悪さ
だ。
正直、純粋な映像作品として勧められるものはあまりない。無条件で勧められるのは、彼がセミ役を演じたドラマ「セミオトコ」くらいだと思う。(このくらい突き抜けた作品はかえって勧めやすい。タイトルではわかりにくいが、薄幸な主人公をセミが助けるハートウォーミングな物語だ。)
そんな彼だが、「大怪獣のあとしまつ」なる映画で主役の現場部隊のキャラを演じると知り、「おっ」となったのである。
もともとこの映画は気になっていた。コアじゃないけど怪獣の出る作品が好きなヲタクなんで。
この作品が面白ければ、山田君の俳優としてのターニングポイントになるかもしれない。この報を聞いたとき、そういう楽しみが増えた。
怪獣の死体をどう処分するかを巡るコメディ、ということは最初から了解している。きっと三谷幸喜的な作品になると考えていた。
そんな期待を胸に、前売り券を買い、公開2日目の土曜日に観に行くことにしたのだけれど、
公開日に大炎上していた。
というわけで、このnoteでは、私が観た感想を書いていく。
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ここで、私のスペックを書いておく。
・基本的に邦画ばかり観ている(年10〜20本)
・ライトな特撮ヲタク(ライトなので観てないのもけっこうある)
・クドカン監督映画を美味しくいただける(脚本だけなら一般受けするんだけど…)
・福田雄一監督作品もまあまあイケる
・出演者ファンしか得しない映画への耐性あり
(私がこれを得た作品の名をとって「ふ・し・ぎ・なBABY抗体」と呼んでいる。なお「出演者ファンが嘆き怒る作品」への耐性があるわけではないので、今回はこの耐性は役にたっていない。)
また、この記事に先立ち、こういうことも書いているので、よろしければ。
※ネタバレに立ち入るのでふせったー使ってます。また、こちらで書いてない文句や考察、そして改変案を書いています。https://twitter.com/takacchie/status/1489920645635141634?t=NdLkYEdnCcMzZfBdZEmOGA&s=19
以下、ネタバレ注意。
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長編コメディ、になってない
まず、この作品はコメディなのを前提として話をする。
(そこに文句言ってるのはさすがにおかしい。調べろ。)
特撮に定評のある東映と松竹がタッグを組んでいるだけあって、
怪獣の造形や特撮絡みは本当に出来が良かった。
怪獣のいる場所について等細かいところにおいては思うところはあるが、怪獣の巨大さや、腐れる怪獣のヤバいあれやこれや、東映特撮の本気が感じられるものだった。
また、俳優陣の演技力それ自体にはひっかかるものはなかった。ここは松竹のパワーなのだろう。
また、自衛隊が軍隊になる力が働くほど怪獣災害が凄まじい、という世界設定も良いと思う。
この時点で、いくらなんでもかのデビルマソと比較するのはあまりに失礼だ。
それでも、なぜ叩かれるのか。
全ては脚本と演出のせいだ。
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あるシチュエーションを用意して、人々のドタバタを描く。これは三谷幸喜氏が得意な手法だ。
でも、その中でも凄まじい駄作がある。
その名は「ギャラクシー街道」。
三谷作品は普通、物語のゴールが决めてあり、ドタバタもいずれそこに収斂していく。大小様々な伏線回収も伴い、最後に盛り上がってきれいに終わるのだ。
一方、ギャラクシー街道にはそんな明確なゴールがおかれてない。ただただ気分の悪いネタが続き、最後になんとなくいい話みたいなまとめ方をして終わるだけだ。だからつまらない。
逆に、きちんとラストを意識した作品の出来は良い。超長編である大河ドラマであっても、終盤に怒涛の伏線回収を行いクライマックスにつなげていく。「真田丸」では、度重なるナレ死(ナレーションで登場人物が死んだことを説明すること)までもが最終回の伏線だったのだ。
「大怪獣のあとしまつ」は、物語の起承転結がはっきり存在しているのに、「展」まで来てもつまらない小ネタの連発が終わらないのだ。
私はストーリーの大枠については批判するほどではないと思う。(「ぼくのかんがえた『大怪獣のあとしまつ』」ツイートを最低限の変更にしたのは、そのせいだ。)
でも、それがあまりに悪印象を持たれ、劇中ちゃんと存在が示されているデウス・エクス・マキナの登場が唐突に感じられるのは、やはりそこまでに至る描き方があまりに下手なことに起因する。
これだけで、2時間の作品として失格だと思う。
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小ネタがおもしろくない
スペックのところで書いた通り、私はクドカンの悪ふざけも福田監督の悪ふざけも許容できる。(というか福田監督はシリアスの方がひど…ゲフンゲフン)
なので、多少下品でイカれてても許容はできる。もちろん、福田監督作品でブチ切れる観客の気持ちもよくわかる。あれだけ癖と無駄が強ければ、好き嫌いは真っ二つになって当然だ。
今作は、彼らの作品ほどの突き抜けた悪ふざけが期待できない。
小ネタがとにかくダラダラ続くパターンなのだ。
しかも、たまにニヤッとなることはあるけれど、つまらない時はとことんつまらない、とはいえ福田監督みたいにキレたくなるほどの刺激もない。
小ネタが伏線になるわけでもない。
こういったものばかり重ね続けると、観客がダレていってしまう。
連ドラの1回分までは耐えられても、2時間超の長編には向かないのだ。
個人的にはダム水洗作戦の失敗のシーン(動物だもの、筒型だよな…)ではちゃんと笑えた。そのくらいだった。
別なキノコも嫌いじゃないが、あれは天丼して面白いネタではないし、何よりあそこは「展」なので、そんなネタを挟んでる場合じゃないのだ。あそこで別な作品にみえるほどガツンと引き締めていたら評価は変わったと思う。
また、これみよがしにデモやら新興宗教やら、特務隊の駐屯地でドローン飛ばして撃ち落とされる奴やらを出してくるものの、これらが本筋に影響することは一切ない。
某国っぽい映像(これ自体は実際にありうる話だが)も含め、ただ適当にこういうことを入れ込めば風刺になると思っているなら、それは勘違いだ。
(「シン・ゴジラ」のデモ隊の描き方が、いかにスマートだったことか。)
キノコの被害に遭ったのは迷惑系YouTuberだったけれど、これがもし最初にドローン撃ち落とされていた奴で、こいつが「希望」を隠れて撮ろうとする流れだったら、まだ面白かったと思う。
あと、日本語が不自由な奴(喩えが意味をなさない奴)はさすがに閣僚にはなれないぞ。見事に邪魔なキャラだった。
その他、
無意味に変な衣装(町工場の人々に謝れ)
読めないキャラ名
クソ過ぎる真ラストシーン
…などなど、あまりにノイズだらけなことも、本筋の邪魔になっている。
もちろん面白さに繋がっていたなら文句はいわないよ。
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主人公は誰か
今作はきっと「ぼくのかんがえたさいきょうの『大怪獣のあとしまつ』」をたくさん世に生んでいると思う。
今まさに自分が陥っているのだけれど、改善案がこんなにボロボロ思いつく作品もなかなかない。
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そもそも、自衛隊を軍にしたうえ、それと別の兵隊組織が活動するほどの災害で戦ってきた国で、怪獣の死体片付けの体制くらいできてないわけがない。
ごく単純に、「片付け班が今まで経験したことのないビッグ(物理)なミッションに挑む」お仕事ムービーで良かったのだ。
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特務隊を国軍と別に置く意味はあるのか。首相直属の諜報部隊なら意味があると思うが。
国軍のエリートくらいの存在でいいと思うんだよ。それでも他の部隊との対立のシーンは描ける。
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最近まで行方不明だった奴を現場のリーダーにする特務隊は正気か。
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と、こんな感じだ。
その中にはもちろん、アラタの正体についての考察もある。
帯刀アラタはどうして変身せずに悪戦苦闘していたのか?
正体が知れると帰らなければならないタイプのヒーローと思われるけれど、劇中にそれが示されることもないし、あのEDなら「正体明かさなくてもさっさと怪獣墓場に持っていけばいいだけだろ」というしかない。
(というか、これを「展」にして最後の内閣のドタバタを描く「結」でも面白かったよね?「なんなんだあいつはー!?」とか大騒ぎしてる間に、雨音夫妻のエピソードでピリオドを打つとか。)
それを抜きにして考えると、やはり他に死体を運べない理由は、きっとある。
きっとあるんだけど、そのヒントがなさ過ぎる。だから観客にブーイングされるのだ。
例えば、こういうのはどうか。
・怪獣が重過ぎて「光」でも持ち上げられない
・次の変身までに時間がかかる
・次に変身するとアラタの人格が消滅する
このうち時間がかかる、のパターンは無理があるので、却下。
そんな設定が許容される範囲はせいぜい48時間くらいだろうから、これだけ日数をかけている今作には向かない。時間がかかってるから腐敗が進む、という点は守るべきだと思う。
人格の消滅ならば、アラタ1人称視点でない限り、わかりにくいことこの上ない。あるいはゾフィーとかセブン上司みたいな人に来て話してもらう必要がある。
怪獣が持ち運べない、なら3人称でいけると思う。そうなった時のアラタの行動原理は「怪獣を持ち運べるサイズまで小さく刻む」であり、アラタが人間として悪戦苦闘する理由はできる。
こうなると敵はできるだけ保存をしたい政治家達となり、首相につく正彦が三角関係抜きでもライバルとなり得る。
もちろん、これもアラタ自身が「保存を考えずに破壊させて欲しい」と、明確に意思表示しなければならない。
こういったアラタの意思はあまりはっきり示されていない。謎めいた主人公キャラというのはすべてが謎に包まれていると感情移入を妨げてしまう。内閣の邪魔でブチ切れる、くらいのことをやれば、彼が何か重大なものを抱えていることがわかりやすかったろう。
また、内閣と現場の2つにかかわり、常に物語の中枢にいるのは雨音正彦だ。立ち位置だけならこっちの方が主人公だ。
でも、監督は彼にダーティーな役回りを演じさせる。今作最大の無駄シーンは、彼が不倫関係を使って菌糸の情報をつかむところだ。
実は菌糸に関して、彼は何もしていない。せいぜい当人に口止めをしつつ、危険に近付くその他大勢を止めないくらいのものだ。研究者から上がってきた報告書を読んで握りつぶすくらいで終わるエピソードなのに、無駄な尺を費やし彼は観客のヘイトを稼いでいる。
メカ義足のようなおいしい設定も、今更出されても、というタイミングで出てくる(こういうものは先に出しておいて観客を驚かせ、その後回想シーンで理由を見せるのがセオリーだ)。もったいない。
個人的にはこれに加え、濱田岳さんが「麒麟がくる」で「軍師官兵衛」風黒田官兵衛を演じてくださったのを知るだけに、「いっそ普通の義足で、いかにもな歩き方にしてもらえば良かっただろ…」とすら思った。もったいない。
こんな美味しいキャラなのにあくまで利己で動く男として描いているのは、完全に監督の意思だと思う。彼を主人公にする気は、監督にはない。
と、ここまで整理すると、
真の主人公は雨音ユキノ
ではないか、という疑念がわいてきた。
三角関係の核であり、閣僚にも顔が利き、元特務隊でもある。
夫との複雑な関係を保ちながら、戻ってきた元カレの謎を追いつつ、怪獣の始末のアイデアを練り、手はずを整える。
そして、作戦の中で命の危機に瀕する兄…。
人間関係での物語の核は、彼女にある。
そういう意味では、アラタを「主人公」ということにしたのは「変身するのは主人公」というパロディ的な理由だけかもしれない。
(そこ、ウルトラマンネクサスって言わない。)
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結びに
この作品、ストーリーの大枠までなら何をどうやっても失敗しそうにない。
光の巨人が唐突なのも、スベらなければアリなのよ。スベらなければ。
チョイ役にすら演技力の高い俳優さんを用い、いつもの東映ではこうはいかない予算がついただろう特撮パート、かっこいいガジェットや血の臭いが漂う設定。
監督のこだわりも、カッコイイ画作りに限ってはよくできているのだ。(明朝体はもうちょっとセンスよく使えよ、とは思うけど。)
なので、
脚本と監督を入れ替えてリファインすれば(ラストシーンの改変などはもちろんアリアリで)、きっと面白い「大怪獣のあとしまつ」は作れる。
これこそ、若い脚本家や監督が「俺ならこれ以上のものが作れる」と発奮できる良い燃料となる作品だと思う。
ところで、山田涼介氏の類稀なる作品運のなさについて、誰かまとめてくれないだろうか。
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