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体感型ミュージカルFumiko #2

Scene4船着場
夕刻。

正一
失礼、君が・・・?

鐵三
そうです。鐵三です。正一さんですか?

正一
そうだ、遅くなってすまなかった。

鐵三
いえ。着いてから検査や何やらでだいぶ時間がかかりましたから。やっと出られたところです。

正一
そうか。こっちもちょうど祭りの準備があってね。

鐵三
お祭りですか。

正一
ああ。年に一度の楽しみだ。町内会で準備をしてる。日本式のかなり本格的な祭りだよ。

鐵三
それはすごい。

正一
君、盆踊りは得意?是非参加してくれ。

鐵三
ええ。数あわせでよければ。

正一
大丈夫?

鐵三
船旅のせいかまだ地面が揺れている感覚です。

正一
そうらしいね。長い船旅になると。覚えてないんだ。私は幼かったから。

鐵三
その方がいいです。

正一
そうかもな。

鐵三
ええ。

正一
陸を歩けばそのうち落ち着くよ。家に寄る前に少し街を見ていこう。

鐵三
いいですね。賛成です。

正一、鐵三、観客をかき分けながら歩いていく。

正一
これが目抜通りだ。この辺り一帯は移民してきた日本人が多い。日本の品物も手に入る、少し値は張るが。こちらが食料品。あちらが衣料品。日本語の新聞も発行されている。一世は英語がからきしのものも多いが、さして困ることはない。食堂に、医者。奥には寺もあって住職もいる。柔術の道場もある。興味があれば行ってみるといい。

鐵三
この辺りは日本人ばかりですね。

正一
まあ、そうだね。その方が暮らしやすいからね、実際。イタリア系はイタリア系でまとまるし、チャイナタウンなんか完全に支那らしい。本当の支那に行ったことがないからどこまで本当かわからんが。

鐵三
そうなんですね。

正一
全くの別世界へ行けるようなものさ。歓迎されるかどうかはまた別の話だが。

鐵三
なるほど。

正一
ついでに面白いものを見せよう。

鐵三
面白いもの。なんです?

正一
アマチュアナイト。

照明変化。高見移動。

Scene5日本人街近くの劇場
高見がシアターの電飾付き看板を乗せて移動。別の2台の高見が中央に集まりAmateur Nightの横断幕を持った二人を乗せたまま横に移動し、横断幕を広げ、そのまま縦に移動し横断幕が観客の頭上を通過する。

M2 あなたのせいよ

私は 夢見る 女の子で
いつかは 失くして しまうのかな?

全ては 儚い 幻なの?
それなら なくなる その時まで

楽しいこと全部
詰め込んで生きたい
全部 全部 溢れ出すまで

誰もが 夢見る 女の子で
いつかは 失くして しまうのかな?

全てが 幼い わがままでも
まるごと 包んで 抱きしめてよ

つらいことも全部
受け止めて生きたい

私が 選んだ あなただから
笑顔も 涙も 見逃さない

初めは 些細な 偶然でも
あの時 あなたが 私を 変えてしまった

ラーラーララララー ララララ ララララー
あなたのせいね

昨日は 夢見る 女の子で
あの時 あなたが 私を 変えてしまった
あなたのせいよ あなたのせいよ

鐵三、じっとFumikoを見つめる。
Fumiko、鐵三と正一に近づく。

正一
今日も絶好調だな?

Fumiko
いつも通りよ。

鐵三
・・・。

Fumiko
あなたが例のお客さん?

正一
ああそうだ。

Fumiko
そうなんだ。

鐵三
え?

正一
二人ともちょっとここで待っててくれ。

Fumiko
ちょっとお兄ちゃん。

正一
すぐ戻る。

正一、去る。Fumiko、鐵三並んで立っている。
沈黙。
鐵三、様子を伺う。目が合いそうになって視線をそらす。もう一度様子を伺う。

鐵三
・・・あの。

Fumiko
はい。

鐵三
素晴らしかったです。歌も踊りも。

Fumiko
ありがとうございます。

鐵三
いえ、はい。

Fumiko
・・・。

鐵三
・・・いつも踊ってるんですか?

Fumiko
まあ、はい。

鐵三
女優になるんですか?

Fumiko
いや、そういうわけじゃ。

鐵三
どうして?

Fumiko
この街を出るつもりもないから。

鐵三
もったいないですよ。すごく素敵でした。

正一、拡声器を手に戻る。
戻ってきた正一と目があう。鐵三、目をそらす。

Fumiko
・・・。

鐵三
・・・すみません。

正一
お前ら目を離した隙に・・・。

Fumiko
ちょっとやめてよ、お兄ちゃん。

正一
わかった。お前ら二人で先に帰ってろ。俺はこれ持っていかないといけないから。

鐵三
はい。

正一
Fumiko、頼むぞ。危ない路地は危ないから。

Fumiko
知らない。

Fumiko、去る。
鐵三、ついていく。

Fumiko
少し離れてくださいます?

鐵三、少し離れてついていく。

Scene6自宅兼クリーニング店
食卓を囲むFumiko、そして父、母、正一、鐵三。

正一
いやあ、しかし傑作だったな。こいつったらポカーンと眺めてるんだぜ。

鐵三
つい珍しかったので。


あらまあ。

正一
来て早々いいもん見れただろ。気をつけろよ、中には拳銃を持ってるやつもいるからな。

鐵三
拳銃!

正一
そうだ。もし何かあった時は手を上げろ。

鐵三、挙手する。

正一
それじゃ学校だよ。両手をこうだ。

鐵三
勉強になります。


正一、あんたもほどほどにしときなさいよ。

正一
わかってるよ。

鐵三
はあ。

Fumiko
よかったね。入国早々、金髪美人に出会えて。

鐵三
いや、そういう目で見たわけでは。

鐵三、醤油入れを倒す。


あら。

鐵三
あ、すみません。


大丈夫?

鐵三
大丈夫です。すみません。


気をつけなさい。醤油もこの国では貴重品だ。

鐵三
はい。気をつけます。


明日から早速働いてもらう。そのシャツのシミ抜きからだな。甥とは言っても従業員には違いない。いつまでも観光気分じゃ困るんだ。

鐵三
はい。

Fumiko
お父さん、お祭りの準備なんだけど。


ああ、八百屋に話は通してある。

Fumiko
ありがとう。


大丈夫なの?かなりの量だよ。

Fumiko
もちろん、きちんと算盤はじきました。


失敗しても穴埋めはしないからな。

Fumiko
大丈夫よ。

正一
本当か?

Fumiko
任せなさい。お金ならある。


張り切るのは構わないが、ほどほどにしておきなさい。

Fumiko
はあい。

正一
祭りで屋台を出すんだとさ。

鐵三
屋台?

Fumiko
そう、レモネードを作って売るの。

鐵三
レモネード?

Fumiko
飲んだことない?今度作ってあげる。

鐵三
ありがとう。

Fumiko
うん。3セント。

正一
おい、金取るのかよ。

Fumiko
当たり前でしょ。商売なんだから。材料だってただじゃないのよ。

正一
がめついなあ。

Fumiko
お兄ちゃんは人がよすぎなの。

正一
立派な商売人だ。

鐵三
意外です。僕はてっきり踊りの方で身を立てるのかと。

正一
ちょっと。

鐵三
なんです?


Fumiko、お前また言いつけを破ったのか?

Fumiko
・・・。


お父さん。


そうなんだな。

Fumiko
はい。


いつも言っているだろう。


お父さん。何も今でなくても。お客さんの前で。


鐵三君は商売の勉強に来ているんだ。この際だからはっきりさせておいた方がいいだろう。いいか、私も、お前たちもこの国ではよそ者だ。だから目立つことは避けて。ひっそり暮らすんだ。


ふみちゃん。お父さんに謝ったら。

Fumiko
・・・ごめんなさい。


気をつけなさい。

正一
おかしいよ、そんなこと。


何がおかしいんだ。またお前がそそのかしたのか?どうなんだ。

正一
ステージを一度だって見たこともないくせに。


何だと。


正一、よしなさい。

正一
踊るくらいなんだよ。一生隠れて暮らすつもりかよ。


そうだ。私たちは日本人だ。この国の人間じゃない。


お父さん。


忘れるな。お前も日本人だ。

正一、席を立つ。


正一。

正一
ごちそうさま。

正一、食器を洗い場に持って行く。


ごめんね、着いた早々こんな話で。

鐵三
いえ。こちらこそ、すみません。(Fumikoにも頭をさげる)


さあ、食べて。

鐵三
はい。


Fumikoもほら笑って。そんな顔してたらご飯もおいしくないよ。

正一、通り過ぎながら。

正一
敵を作らないためにな。

父、立ち上がる。
正一と父、二人はお互いを見る。
沈黙。

つづく 6月3日から7月29日まで毎週月曜に3シーンくらいずつ公開予定


劇作家。演劇、ミュージカル、オペラの台本作家です。