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虚空






6年程前の


あの時と似た苦しさが


訪れている




好きな事は沢山あるが


その裏にある虚しさ


八方塞がりのような感覚




自分だけが切り離されたような


孤独感




あの時のように逃げれば


余計に自分を苦しめる事だけは


分かっている




……




先日お寺に行って


長老と話しをした時に教えてもらった


「いい場所」に行ってきた




そこは


100メートル程の高さの崖


「霧石渓谷」と呼ばれる所




お寺から歩き始めた…







お寺の上にある小さな山を越える


何年も人が歩いていない山道


道を見失い道無き道を歩いていく







道路から行った方がいいと言われたが


こんな時は


道無き道が僕を引き寄せる




この気持ちが


誰かに分かるだろうか?




……




しかし峠を越え下って行くと


呆気なく道路に出て


そのまま道路を歩いた







道路沿いに


山水を引いている所が


何ヶ所もあった




この地域の人が


何かの思いを込めて造ったに違いない




……




途中でおばちゃんに遭遇


「どちらへおいでですか?」

と話しかけられ


「霧石渓谷です」

「たまには喝を入れないと駄目なんです」と


冗談混じりで軽く答える


「私も喝を入れにゃあかんね」と

おばちゃんが答える…







ひたすら歩き続ける


今は丁度

柚子の収穫時期で


色々な所で


皆が楽しそうに話しながら

収穫してる様子が伺えた




僕も毎年

頼まれているが


今年は出来そうにない




理由としては色々あるが


とにかく今は

もっと大切な事があるらしい







「なんで地上に来たんだろう…」と


独り言をこぼしながら歩く





脳裏に浮かぶ


かつての巡礼の旅




旅に呼ばれてるのか


結局は放浪癖のある


父親の血のせいか?…







途中で道を間違えながら


約四時間程で到着




長老の言う通りの断崖絶壁


先端に行けないように柵があり


「岩が崩れる危険があるため

立ち入り禁止」の看板




それを乗り越え先端へ







落ちれば一瞬で空へ帰れる







目を閉じて瞑想に入ろうとする


手のひらに

じわじわと冷や汗が出てくる


もしもこの命が不要なら

この岩は崩れ




全ては終わるだろう






「まだ死にたくない」










降ってきたのは


そんな言葉だった




僕はまだ死ねない…




まだ


何かが残っている











この虚空の世界で…


何があると言うのだろう




それでも

生かされているからには


歩いて行くしかない









……