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読書22 『トリニティ』

   窪美澄著 

 昭和二十年生まれの鈴子は、高校を卒業して潮汐出版に事務員として勤めていた。芸能週刊誌やファッション誌、女性誌を主に作っていた会社である。結婚を機に仕事を辞めて、家庭での生活を選んだ。
 鈴子の孫の奈帆は、出版社で働くことを希望したが、何社受けてもうまくいかず、ようやく入った出版社はブラックと言われるところだった。やがて会社に行くことができなくなり、心療内科に通っていた。

 潮汐出版の雑誌ライズの表紙を手がけた、イラストレーターの早川朔が亡くなったと、鈴子に連絡が入った。朔は昭和十六年生まれ。ライズで華々しくデビューをし、六〇年代、七〇年代、八〇年代、九〇年代と、常に一線にいたひとだった。
 鈴子は、朔の葬式に奈帆に「一緒に行って欲しい」と声をかけた。そこで、朔と同年代に活躍をしていた佐竹登起子に会った。登紀子は昭和十三年生まれ。祖母の代から三代に渡って有名な物書きだった。奈帆もその名前は知っていて、本を読んだこともあったという。

 奈帆は思わず登紀子に、朔や登紀子の話を聞かせて欲しいと懇願した。鈴子は驚き、奈帆自身も驚いていた。
 登紀子に家の住所を書いたメモをもらい、週に一度登紀子の家を訪問することになる。登紀子の母の話。父の話。登紀子の話。朔の生い立ち。その時代の背景と一緒に、それぞれが歩んだ道のりが語られる。

 あれこれ奮闘し、わずかなチャンスを掴んで時代の流れに乗り、夢を掴んだ朔と登紀子でしたが、自分のやりたかったことと、求められるものとのギャップを感じて、その都度悩みます。時代の移り変わりと共に、世間が求めるものも変わって行きます。時代を先駆けたひとたちの、それぞれの生き方、その都度の葛藤が繰り返されます。

 登紀子宅へは、最初の二度ほどは鈴子と一緒の訪問でしたが、それ以降は奈帆がひとりで通いました。
 登紀子の話を聞くうちに、奈帆にも変化が見られます。

 華やかで成功しているように見えても、内面は本人にしかわからないということ。また、そういう事情や心の奥がたくさん見られました。
 この本を読んで「そこで自分が役に立てている」ことは、勇気にも希望にもつながるのだと思いました。

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