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ZINEフェスと選挙演説で、個人と社会の皮膜を思う。


天気が悪くて出かけるのは気が引けたが、エッセイを寄稿させてもらったZINEの献本を受け取るべく、浅草で開かれたZINEフェスに行った。会場はなんかキラキラしていた。大きな会場であるほど出展者もお客も多様化し、それ自体はいいことだと思う。以前自分が出展した際は90ブース以上が参加する大規模な会で、吉祥寺PARCOという場所柄もあり色々な人に作品を手に取ってもらうことができた。出展する側としては嬉しいことだけど、作家と客の中間のような中途半端な立ち位置であの場に行くと、その大規模さに少し気圧される。出展者は皆均一なスペースを割り当てられ思い思いに作品を陳列する。条件が同じなのでアピール力というか、ああいう場での出展者の社交力の差はハッキリと分かれ、その差は会場の規模に比例すると思う。

入り口付近で賑わっているブースがあった。20代後半くらいの男性がグラフィックポスターを出品していて、彼の友人と思しき人たちがブースの周りをガヤガヤと囲み「一元様お断り」のような連帯感を発揮していた。自分のうがった偏見による空耳かもしれないが、「今日一番売れるブースになる」という言葉も聞こえてきた気がする。一番売れるブース。自分の作品を沢山の人に買ってもらえることが励みになるのはわかるが、内容や装丁も異なる多様なZINEが集まる場で、「一番」であることに何の意味があるのだろう。売れるというのは即ち多くの人に好まれる最大公約数を狙った作品を作るということで、自由で静かな自己表現が叶うZINEとは相反する考え方だと思う。制作費を回収できる程度に売り上げを考慮することは大切だと思うが、多くの人に好まれることよりも「好きで好きで作っちゃいました」という自由さが先行している作品の方が面白いと思う。

献本を受け取った後会場を一人でプラプラ歩き、いくつかのZINEやポストカードを買った。前回のZINEフェスで知り合った漫画家のオグリさんのブースに行った。オグリさんは自分のZINEを買ってくれた人で、以前はZINE制作に向けて情報収集しているとのことだった。あれから漫画を描きため印刷や装丁の研究を重ねて作られた念願のZINE、ありがたく買わせてもらった。自分も最近手が止まっているZINE創作を進めねばという気持ちになる。

引込計基盤キャビネットというものの写真を撮り続けている男性の作品が目に留まった。「引込計基盤キャビネット」という言葉はその時初めて知ったが、建物の外にくっついてる電気系統の設備が収まったキャビネットのことらしい。そのニッチな着眼点がとても静かでユニークで、大きなものに巻き込まれない自由さが感じられて惹き込まれた。普段から目にしているものだが、単体で切り取られると造形の美しさが際立つ。ポストカードを買った。今回のお気に入り作品になりそうだ。

会場を出ると雨足が強まっていて傘がないとずぶ濡れになる悪天候だったが、電車を乗り継いで池袋まで向かった。選挙演説を聞くために。休職して社会保障を受ける立場になってから、自分の納めた税金がどのように使われるのか、自分が住んでいる自治体の長はどんなモラルを持った人なのか強く気にするようになった。見たところで何も分からないのだが、住んでいる地区の役所のホームページで決算書を見たり、国会中継をネットで見るようになった。会社員として真っ当に働き「社会の一部である」とか思っていた時よりも、自分個人と社会という大きなものの皮膜は随分薄くなったように感じる。そんな自分の関心の高まりにちょうどいいタイミングで都知事選が行われるので選挙演説は一度は聞きに行ってみたかった。

気になっている候補者が池袋で演説をするというので行ってみると、雨にもかかわらず駅前にはものすごい人だかりが出来ていた。選挙演説でこんなに人が集まっているのを初めて見た気がするが、今まで興味がなかっただけなのか、本当に人々の選挙への関心が高まっているのかはわからない。池袋という場所もあってか若い人も多い。興味本位で人だかりに紛れていただけの人もいただろうが、自分の隣にいた大学生らしき男子二人は、会話の流れから明確に意思を持ってこの場にいるようだった。

もう終わらせてほしい。少子化対策と言いながら、多様な家族観やセクシュアリティの人が集まる大都市で税金でマッチングアプリを作るクソみたいな計画を。生活困窮者に向けた食糧配布が行われる場所の真上で、莫大な税金を注ぎ込んで悪趣味なプロジェクションマッピングが煌々と照らされていることを。よその国の戦争や虐殺には遺憾と示しながら、関東大震災後の朝鮮人虐殺という自国の負の歴史には沈黙を貫いていることを。個人と社会の皮膜が限りなく薄く感じるようになってから、この大都市で政治に対して意見を持たずに生きることはとても危険なことにすら感じる。引込計基盤キャビネットのポストカードを手に持ちながら、雨の中で力強く語る政治家をじっと見続けた。


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