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善良な個人が集まってるだけなんだ。


TRPに初めて行ってみた。これまでは開催告知や行った人たちの投稿をSNSで見ては「そんな大袈裟にイベントにしなくても…」「マイノリティってだけで一つの括りにされても…」とどこか冷ややかに静観していた。あーだこーだ理由をつけて行かないことを正当化していたが、まあ、度胸がなかったのだ。静観というより、冷笑だ。我ながらめちゃくちゃダサい。

「マイノリティ」であることを忘れてしまうくらい自分の交友関係にはLGBTQが多い。友人や同僚、家族にカミングアウトをしても拒絶されたり生活に支障をきたしたことがないので、セクシュアリティにまつわる社会への問題意識を大して抱えずに生きてきた。そんな自分はかなりラッキーだとわかっていたし、当事者意識や問題意識の低さはコンプレックスでもあった。

昔から、コトを起こす自発的なエネルギーや、周りを巻き込んで盛り上げていくパワーにみなぎっている場や人を見ると、めちゃくちゃ距離を置きたくなった。その感情の正体がなんなのか考えてみるが、シンプルに「食わず嫌い」と「自分の主体性の無さを痛感したくない」ってだけだ。中島みゆきの「ファイト!」の「闘う
君の唄を 闘わない奴らが笑うだろう」という歌詞に励まされた人は多いだろうが、闘わない奴等の一人として生きてきた自分には、己のあさましさを抉られる歌だった。そんな闘わない奴等マインドと問題意識コンプレックスが相まって、TRPは随分バツの悪いイベントという印象だけが固まってしまったわけだ。

今年は友人の「無料で大物のパフォーマンスを見よう」という誘い文句をきっかけに行くことにしたのだが、結局行ってみるととても楽しかった。普段からゲイやレズビアンの友人と接する機会はたくさんあるが、全方位にLGBTQと思しき人たちがいる光景は圧巻で、すれ違う見知らぬ人たちに静かな絆を感じた。会場にたくさんいるドラァグクイーンや筋肉隆々なGOGOボーイに対して、以前はゲイの偏見を助長するようで一緒にしないでほしいと思っていたが、舞台で輝き観客を魅了する彼らは列記としたプロフェッショナルで、同じゲイでありながらつまらない縄張り意識で冷笑していた自分を恥じた。19日のライブステージでドラァグクイーンたちに囲まれながら大黒摩季が「ら・ら・ら」を歌う光景は、もう神々の集まりみたいでただただ圧倒され続けた。

企業の出展ブースは年々大PR大会になっていると揶揄されていたが、実際行ってみても大PR大会だなと思った。まあしかし、多くの参加者は「この企業、TRPに出展していてとても先進的!この企業の商品を買おう!」なんてことは思わないわけで、可愛いノベルティをもらってラッキーくらいに捉えるのが多数派だろう。あの場において企業ブースが参加者にもたらす影響はそんなもんだと思うので、PRの場に活用してても自分は気にならなかった。会場を歩きながらマッチングアプリを開いてめぼしい相手を探しているゲイを沢山見かけたし、参加側も各々私欲を引っ提げて来てるのだ。それは至って健全で、善良な光景だと思った。

今年はピンクウォッシュ反対の波でTRPへの風当たりは強く、不参加を表明する投稿や、運営団体の声明への激しい批判をSNSで数多く目にした。会場でもピンクウォッシュ反対のTシャツや、ガザ地区への攻撃に抗議する意思を黒い服装で示す人たちを沢山見た。複雑な思いであの場にいる人たちは大勢いたのだろうが、自分は実際に足を運んでみて「みんな普通に純粋に楽しんでるよな」と感じた。イベントという大きな括りで見れば、今年の開催には両手を挙げて喜べないかもしれない。しかし、実際にイベントを動かし、足を運ぶのは至って善良な個人だ。手を繋いで歩く同性カップルや、車椅子に乗った全身タトゥーの女性と、その友達。SNSでしか見たことがないようなマッチョと一緒に写真を撮る素朴な男性。仲良しメンバーと思しきゲイのグループ。一人で参加し、誰と話すでもなく会場の空気を味わう人。彼らは誰も殺していないし、ただこの場を楽しんでいるだけだ。TRPは年に一度同士や仲間と集えるお祭りではあるが、普段とは違う界隈の人とも同じ時間を共有できる場所なのだろう。いつもの生活では自然と作られてしまっているセクシュアリティや文化圏の垣根を「せっかくだしね」と壊してくれる。

会場で知人の女性とばったり会った。彼女はレズビアンで女性のパートナーと一緒に参加していて、「彼女」としてパートナーと談笑する様子はとても愛らしかった。そういう姿でいられる場なんだ、ここは。大きな主語で括れば賛否が飛び交う議論の的になってしまうが、中身は善良な個人が集まっているだけなんだと実感した。今まで外から揶揄していた自分をとても恥ずかしく情けなく思い、このことに気づけただけでも参加した意義があった。来年も行こう。



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