私立恵比寿中学のオケラディスコに感じた可能性
エビ中がオーケストラとバンドを含め48人での演奏で行われたオケラディスコ。10月7日にパシフィコ横浜、10月22日に東京国際フォーラムで開催されました。オーケストラだけでなくディスコの要素も絡めたたライブ。日本のポップミュージックの中で考えても新たな試みが行われることに期待値が高まりながら22日の公演を観に行きました。
1.22日のセトリ
ebiture
ディスコのはじまりと言わんばかりのリミックスは「SPY×FAMILY」の動画に楽曲提供もしているNew Kの制作です。ヒャダインによるおなじみのエビ中登場曲もここまでチルくなるんですね。エビ中の楽曲が引用されている点も良きですね。すっかり国際フォーラムの空間を音楽を浴びるぞって空間に染め上げました。
ポンパラ ペコルナ パピヨッタ
自分にとっては、エビ中の音楽の面白さを知った曲。作曲編曲はアニメ劇伴等で知られる菅野よう子。合唱シーンがあり壮大なロックオペラ。オケとバンドの入ったライブにおいていきなり、バンドとオケの融合によって一番映える楽曲が披露されました。
リリース当時もそれに見合ったレベルに歌唱スキルを上げてきたから歌えた曲。新メンバーが入りメンバーも当時の8人から10人に増え、さらに歌唱レベルを上げてきた事で、生のオケとバンドを入れても全然負けていない。歌詞のコミカルさも表現しきるエビ中。歌唱レベルとコミカルさを両立できる人たちってなかなかいない。バイオリンやギターはじめ、原曲音源よりもさらに音に深みがでたアレンジでした。
参枚目のタフガキ
ヒャダイン作詞作曲、コミカルさと当時のエビ中の状況も反映した感動的な歌詞に、CMJKによってエレクトロなダンスチューンになった曲。エレクトロオケラだけじゃなくてディスコが含まれたタイトルやコンセプトはこういう曲を選んでくるあたりにあるのではないかと自分は思ってます。
どこか不穏さもあるサウンド、その点をオーケストラが膨らました点が良いです。
でかどんでん
6人体制初のシングルで、メッセージ性を排した楽曲。ここまでのコミカルなアゲ曲をオーケストラがさらに盛り上げた曲が続いています。これぞエビ中。
Bメロやアウトロの盛り上げ方が非常に豪華。バンドマスターである橋本しんのキーボードでおしゃれさを増していた点、「でかどんでん」のポテンシャルの高さも感じた。
MC
あいさつからのメンバー自己紹介。ニュージーランドの話をしたりしつつ、バンドも盛り上げてくれたし、オーケストラの人も楽しそうに見てくれているのいい空間。
歌え!踊れ!エビーダダ!
当時日本の音楽番組にも多く出演していたレディーガガをもじったタイトル。中学生のアイドルの夢が描かれつつも、ガガの音楽も意識しつつの低音が印象的なダンスナンバー。この低音部分がオケの存在によって壮大なアレンジに仕上がっていた。特にアウトロにオケラディスコのポテンシャルが出ていた。
中人DANCE MUSIC
橋本しんのキーボードからバンドが演奏、メンバーがダンスしながらのつなぎ、オケの演奏から始まったのは石井竜也によるファンクナンバー。現役学生で構成されていた当時のメンバーにピッタリな成長している自分たちを歌った曲。
元々、石井の所属する米米CLUB「浪漫飛行」を感じる曲ではありましたが、オーケストラとバンドの存在により、空を駆けるような壮大なアレンジでした。
PLAYBACK
元々ダンスナンバーの印象が強いJazzin’Park・久保田真悟と栗原暁による楽曲をオケとバンドで歌を聴かせる曲としたアレンジとパフォーマンス。とはいえ劇的に曲調やテンポを変えたわけではない。その点にも楽曲を全体で盛り上げるオケのポテンシャルを感じました。
Summer Glitter
2023年エビ中夏のライブファミえんのテーマ曲となり、ライムスター宇多丸が今夏ナンバーワンソングと絶賛し、界隈外でも注目されたブラジリアンナンバー。
イントロのギター、サビへ導入するホイッスル、場面場面で音に厚みをもたらすストリングスや金管楽器と、元々高い楽曲のポテンシャルをさらに引き上げ、K-POPやRIP SLYMEの様だと言われた楽曲ではありますが、本来のブラジリアン要素を格段に引き出したアレンジでした。
MC
オケラディスコの1公演目と2公演目の間にニュージーランド遠征したエビ中。イケメンしりとりはののかがうまいし、小林の「雑巾みたいな顔してんな」はパワーワード。意外とニュージーランドに演奏に行ったことのなかったバンドオケメンバーに、マウント取ったりするエビ中。楽器の飛行機への持ち運びの話もしたり。
ジブンアップデート
現代的なダンスナンバーをダンスナンバーのまま、バンドとオケで表現するのに最も成功したのは「ジブンアップデート」かもしれない。メンバーもバチバチに踊りながら歌唱し、全編にわたり、バンドもオーケストラも躍動していた。そういう意味では最もオケラディスコを体現した曲かもしれないです。安本だけでなく、桜井もフェイクしていました。
シンガロン・シンガソン
ミセス大森元貴によるエビ中にエールを送るような提供楽曲。出だしは原曲に近いアレンジという印象。
バンドがメーンに活動し、メンバーも楽しく歌とダンスでパフォーマンス。オーケストラは時折入りながらの演奏でしたが、間奏以降ではオーケストラが一気に楽曲を牽引しながら、ラスサビへ盛り上げていき、普段のアレンジとオケによる特別感が絶妙な塩梅で成り立ったパフォーマンスでした。
日進月歩
こちらも原曲に近いアレンジながら、オケの存在により音が豊かになりました。元々、オーケストラとの相性が高い楽曲です。その中でサビ前などのドラムのリズムが原曲よりも複雑にたたかれ、それが楽曲の盛り上げに大きく貢献していました。メンバー一人ひとりが力強く歌い踊りました。
MC
ここで、オケのメンバーに振りました。安本のMCから、レポーター小林が話に向かったのは、コンサートマスターの吉田将平(よっぴっぴ)。吉田のチームがレコーディングに参加した「ジャンプ」が好きな曲とのことです。
さらには、安本が「葉加瀬太郎さん」と振ったのは、某番組で「葉加瀬太郎のそっくりさん」と紹介された、オーボエの最上峰行。このときの裏話を最上はYouTubeで話しており、オケラディスコの演奏側の感想やエビ中メンバーについても話しているのでチェックお願いします。
宇宙は砂時計
キタニタツヤが提供した楽曲。メンバーが着席での歌唱をした「宇宙は砂時計」は、ドラムよりもティンパニのリズムを中心に全体の演奏が成立しており、オーケストラのポテンシャルを活かしたアレンジの1曲でした。
メンバーの歌唱も演奏がオケアレンジが構築した雰囲気にしっかりハマっていました。そんなアレンジがタイトルにある「宇宙」の大きさと深みを表現していたと思います。
星の数え方
宇宙からの星という流れも素晴らしいですが、こちらも歌声を魅せる曲。付け足されたイントロではオーケストラが楽曲の雰囲気を作り上げてからの安本の歌入り。
バンドとオーケストラで楽曲を支えつつ、やはりオーケストラ全体のポテンシャルが生きたアレンジだったと思います。その中で、ハモリも心地よくエビ中全体の歌唱レベルの平均的な高さが存分に表れていました。
まっすぐ
ティンパニからオーケストラとバンドの融合によるサウンドに、安本のフェイクから始まる。ここまでの3曲が着席で聴かせるパート。
そしてメンバーの歌唱レベルの高さが表れた演奏。「宇宙は砂時計」からの3曲がオーケストラをしっかり生かしていた流れでした。これまでもオーケストラの音圧に負けていない歌唱がずっと続いていましたが、最後の風見の歌声から彼女の成長が伺えました。
MC
ディスコとはなんぞやという話。バンドマスターでアレンジした橋本しんの説明によると飲み食いする社交場・ダンスホールがディスコとなりそこからクラブ等分類していったとのこと。ディスコの時代70年代あたりをテーマにしんはアレンジしたとのこと。
One More Time(Daft Punkのカバー)
DJブースに立った安本を中心に手を挙げてパフォーマンス。
エビ中の楽曲ではないため、決められたフリが存在しないこともあり、ペンライトを禁止した意味が一番出ていたのかもしれない。ディスコによった曲、オケによった曲も多かったが、ディスコとオケの双方を押さえていたのが「One More Time」で、オケラディスコに必要だった楽曲だと思う。
ハイタテキ!
楽曲に引用されているベートーヴェンの『交響曲第九番』が引用された元ジュリマリTAKUYA提供。
指揮を振るような振付、MVでのバイオリンの演奏するフリの場面がありますが、本物の指揮者による、本物のバイオリン演奏、オケによる第九からの歌唱。星名によるハイジャンプや中山の「惚れた」といつも通りのパフォーマンス。ラスサビ前の部分ではオケが普段と大きく異なるアレンジで歌唱。そこにオケ入ることで、あるべき形になったのではないかと思います。
感情電車
たむらぱん提供による楽曲。アレンジも原曲から大きくオーケストラに寄せたアレンジに仕上がっていました。
感情の起伏のようなオーケストラの音の複雑化により繊細に表現されていたように思いました。アウトロは原曲よりも長くなり、その分ダンスも増えていました。フィーチャーメンバー小林による「その空」は、オーケストラの音圧の中伸びやかな歌声でした。
なないろ
「感情電車」の感動のまま歌い始めたのはレキシ・池田貴史による「なないろ」。「感情電車」と同じアルバム『エビクラシー』の楽曲であり、リリースされた2017年の春ツアーファイナルの7月16日に国際フォーラムで披露するという事に大きな意味があった曲。
天まで届くようなオケアレンジであり、原曲でも印象的なチャイム音がチューブラーベルが良い。感動的な大団円でした。
MC
オケラディスコに関するメンバーの感想。桜木が「一生分踊りました」→脱退?という流れは面白かったです。
なないろ~inst~(チェイサー)
メンバーの退場シーンでも「なないろ」のインストアレンジが演奏され、その後バンドとオーケストラへの惜しみない拍手で幕を閉じました。
2.感想と今後への期待
エビ中の楽曲たちをオーケストラの豪華な演奏によるアレンジで披露されたというだけでも単純に魅力的なライブでした。オーケストラの存在により、音楽の空間に包まれて音楽を受容する貴重な経験ができました。(レーザービームもその空間を構築する要素になっていました。)オーボエ奏者最上のYouTubeチャンネルでも発言されていましたが、オーケストラのメンバーをしっかりそろえ、バンドも含めて48人の演奏で臨んだ点も演奏した本人たちも含めた満足度の高さにつながったと思われます。
エビ中がオーケストラの音圧の中で歌う難しさが見えた場面もありましたが、そんな中でも全体的にしっかり歌いこなしていた点も素晴らしかったです。これには歌のみで勝負するライブ・ちゅうおんをやってきたことにより、メンバーの歌唱レベルも向上し、低学年メンバーも加入から努力してきたここゆののか、即戦力として加入1年で大活躍するえまゆな。メンバー全員が高いレベルを獲得したからこそ今回のオケラディスコが実現したのだと思います。
一方で、「オケラなのかディスコなのか」という点で苦労した印象もあります。前半にはディスコの要素が強く、オーケストラの参加は一部にとどまった場面あり、後半にはオーケストラの要素が強くなりました。人によってはディスコの要素が少ない(ない)という想いを抱いた人もいるようです。「オケラディスコ」という二つのものを融合したコンセプトであり、ディスコ自体のその解釈の違いもあり、万人が満足するのは中々困難であったと思います。今後も実施していくことで洗練されたり、年ごとにコンセプトを微妙に変更することで、年々変化していくイベントにもしうるポテンシャルを秘めていることの裏返しかもしれません。
それでも、オーケストラのみでなくディスコの要素を入れたことで、実験性の高いライブになったと思います。オケ+バンド+エレクトロ楽曲+照明+アイドルだからできる多彩な楽曲たち、そして何より中心にいて歌って踊るアイドル。中々できない体験でしたし、エビ中やアイドルだけでなく、J-POPや日本の音楽業界全体で考えても新たなライブのあり方を提示するライブになるのではないかと期待しています。メンバーには、今後も沢山オケラディスコの経験を積んでいってほしいです。