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「観光地のまちづくり」と「観光によるまちづくり」

はじめに

観光とまちづくり、元々は対立することも多かった二つの概念だが、近年は一緒に使われることも多い。観光とまちづくりが対立していたという点について、2010年代に入って観光やまちづくりを研究し、関わってきた筆者にとってそこまで実感はないが、「観光」と言う言葉に対して抵抗を持つ人にたまに会うのは、この対立の歴史も関係しているのだろう。

そんな、観光とまちづくりだが、その意味は曖昧である。観光もまちづくりもそれぞれ多種多様な意味合いを含んでいるため、その二つを一緒に使った際に、意味合いが曖昧になってしまうのは避けられない。曖昧だからこそ、様々な人が関わり合い、そこが面白いと思う一方、その言葉の曖昧さから、議論が進まないと感じることもある。以前の記事で書いた観光財源だったり、DMOといった実施主体の話になると、特にその点が顕著である。

本Noteでは、その課題意識から、観光とまちづくりという言葉を、簡単に整理していきたい。といっても、「観光とは何か?」「まちづくりとは何か?」という議論まで立ち入ると、到底本Noteで扱い切れるテーマではないので、観光地経営(具体的には上にあげた実施主体と観光財源)を考える上で有用な整理は何かという視点で考えていきたい。

二つの「観光とまちづくり」

観光とまちづくり。この言葉が使われる一つの類型が、昔からの観光地である。日本だと、ビーチリゾートや温泉地、スキー場エリア等が含まれる。特に温泉地だと、草津温泉や有馬温泉、由布院温泉等、様々な温泉地で、まちづくりが実践されている。また、近年は観光庁より「国際競争力の高いスノーリゾートの形成」関連の施策では、スキー場単体ではなく、エリア全体で競争力を高めることが目標とされているが、これもまさに典型的な観光地におけるまちづくりと言うことができるだろう。

一方で、典型的な観光地ではない文脈でも、観光とまちづくりという言葉が使われている。少し前だと、地方創生という文脈であり、ここ最近だと、「歴史的資源を活用した観光まちづくりの推進」関連施策が目立つ。かなり単純化していうと、地域の不動産(古民家や城等の文化資源が中心)を再生し、地域の魅力を際立たせ、観光サービスを生み出し、地域の活性化につなげるといった活動である(詳しくはこちら参照)。先日、閣議決定された観光立国推進基本計画では、本施策について以下のように記載されており、面的な展開というまちづくりの側面が強調されている。

関係省庁及び官民が連携して古民家等の歴史的資源を観光まちづくりの核と して再生・活用する取組について、令和7年までに 300 地域に拡大するととも に、取組地域の高付加価値化を目指す面的展開地域を 50 地域展開する。また、 地域の核となる歴史的資源である城や社寺等における宿泊・滞在型コンテンツを軸として、周辺の城や社寺、古民家、伝統文化等の歴史的資源を面的に活用した観光コンテンツの造成等を図り、インバウンドに魅力的な観光まちづくりを進める。

観光立国推進基本計画

Tourism Area Life Cycleによる整理

都市VS地方という人口規模、ビーチ・温泉・雪山・歴史文化等といった観光資源といった様々な類型化があるかと思うが、本NoteではTourism Area Life Cycle のモデルを使っていく。色々なところで紹介されている(例えばこちら参照)ため、詳しくはそちらをみてもらいたいが、時間経過とともに観光地が移り変わっていく様子をモデル化したものである。

本モデルは、製品等の発展と同様に観光地も発展し、そのそれぞれの段階で特徴が変化することを端的に示している。そのモデルに、上記で整理した二つの類型を当てはめた図が以下である。

観光地やスキーエリアといった昔ながらの観光地については、「観光地のまちづくり」と表現することがわかりやすい。文字通り、「観光地」の「まちづくり」である。インバウンドの増加や、観光客の成熟ともに、観光地の競争力を保つためにはエリア全体での競争力を考える必要があり、個々の施設ではなく、エリア全体の取り組み≒まちづくりが必要となったのである。

以前のNoteで紹介した長門湯本温泉での取り組みも、こちらに含まれるだろう。観光地経営というテーマで考えると、以下のような点がポイントとなる。
・地域のビジョンを共有し、ビジョンを実現するために地域全体で共同して取り組む
行政や事業者から独立した団体(DMO等)による官民連携が必要
・「何のためやるのか」ということに関する地域の理解・共通認識が重要
公的空間での活動が多くなるため、公的観光自主財源の必要性は高い

一方で、典型的な観光地ではない地域では、上の点は当てはまらない。ここでは、観光は地域活性化の一つの手段として捉えられており、少なくとも観光という文脈においては、スタートアップ的な立ち位置なのである。この取り組みは「観光によるまちづくり」ということが分かりやすいだろう。

最近、城泊等を中心に注目を集めている大洲市は、こちらに該当するのではないか。「観光地のまちづくり」との対比で考えると、以下のような点がポイントとなる。
・地域における前向きな方向性を見出して、エネルギーを結集し大きな事業を実現する段階
主体は、パブリックマインドを持った民間事業者
・合意形成よりも実行力が重要
個々の事業者による取組が最重要なため、公的観光自主財源の必要性はさほど高くない

まとめ

かなり単純化して比較したが、本Noteのポイントは、観光とまちづくりという枠で様々なことを議論する際に、上記のように地域によって特性が違うことを意識する必要があるということである。「観光地のまちづくり」を意識して観光財源を語る場合と、「観光によるまちづくり」を意識して観光財源を語る場合とでは、必要なことが大きく違うという点は当たり前である。なお、二項対立的に書いたが、おそらく多くの地域ではそのどこか中間に位置することが多いという点は留意が必要である。

観光という視点も、まちづくりという視点も、今後色々な地域でますます重要になってくると考えられる。その際、実施主体の話も、観光財源の話も、どの地域でも話題に上がる共通テーマだと考えられるが、建設的な議論を進めいくためにも、どの段階にある地域について議論しているのかを意識することが大切である。

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