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ラブアンドヘイトの社会を生きる。 2

ここまで急激な変更が重なると事前準備が強みの僕はさすがに困ったが、
とりあえず数少ないNord に入っているシンセの音を弾いてみる。 

あまり思った感じにならない。
細かい設定もできないし表現にも限界がある。

しょうがないのでピアノの音でキーボーディストが作るハーモニーにぶつからないように弾いてみる。

結構いい感じになりそうだ。

しばらく弾いているとリーダーがこちらをみて何かを言っている。

『ピアノの音を弾くな』
と叫んでいるようだ。

なるほど、今日はそんな感じか。

ピアノ、ローズ、クラビネット、オルガン、そしてシンセ。

音楽のスタイルや年代によってキーボーディストの楽器とアプローチは変わるが、正直この辺の音色選びの基準はいまだによくわからない。

人種による感覚の違いもあるのかもしれない。

正直、一度
『その音じゃない』
と言われるとその日一日音選びは噛み合わない気がする。

まぁメンバーが
”今日はこいつの音選びについて文句を言う”
という流れとマインドセットが出来てしまうだけな気もするが。

そんなことでリーダーはシンセ中心のエレクトリックなスタイルで行きたい気分だったようだが、
前述の理由でProphetは持ってきていない。

やれることをことごとく潰され、自分の居場所を探っているうちに2、3曲進み、

ピアノがハマりそうな曲が来たのでピアノを少し弾くと

『次ピアノの音を弾いたらケーブルをひっこ抜くぞ!』
と怒鳴られる。

ここでようやく全体を通してエレクトリックで行きたいことがわかったので、どうしようかと悩んでいると
リーダーが自分のオリジナルをコール。

残り二人は有名なミュージシャンなのでもちろんそんなに準備はしてきていない。

この状況では僕がいつも曲のコード進行や進み方などをフォローするのだが、ピアノの音を禁止されているのでフォローの仕様がない。

リーダーがこっちをみてまた睨んできているが流石にもうやれることはない。
事前準備からステージ上まで僕がやれることは全てやった。

フォームもクオリティもぐちゃぐちゃのままなんとなく演奏が終わる。

リーダーやミュージシャン、お客さんがどう思ったかわからないが、一定の割合で
『せっかく豪華なメンバーなのに一人わけわからんアジア人が入っているから微妙なステージになった』
という評価をしている人はいるだろう。

もちろんNYは世界でもっとも正しく評価が下される場所の一つだし、

そもそも正しく評価がされなければ、謎の外国人で全くみんなの仲の良い輪に入っていないネームバリューのない僕がこのステージに定期的に立ち続けることは起こり得ないだろう。

しかし、やはり他人の評価を目的やモチベーションの支えにするのはかなり危険だ。

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