見出し画像

「コンヴィヴィアリティのための道具」を読んで

20年10月にEテレで放送されたズームバック×オチアイで、話題に挙がった「コンヴィヴィアリティ(自立共生)」。聞きなれない言葉だ。

この言葉は、イヴァン・イリイチの著書「コンヴィヴィアリティのための道具」から来ている。コンヴィヴィアリティは(自立共生)と訳されている。書籍の背表紙にはこうある。

人間の本来性を損なうことなく、他者や自然との関係性のなかでその自由を享受し、創造性を最大限発揮させていく社会、技術や制度に隷従するのではなく、人間にそれらを従わせる社会、それは決してユートピアではない。

読後の感想としては、イヴァン・イリイチがいう産業主義社会から自立共生社会への変化が本当に起こるのかワクワクした。

何でもネット通販で買えてしまう時代、人は自ら手を動かして「学ぶ」機会が乏しい。「教育」を受けて専門職につき、その業いで稼ぐ。より高い教育を受ければより稼げる職業につけるため、受けられる教育の差が経済格差につながるという。

著者によれば、産業主義社会が果てしない成長を求めた先は、地球規模での資源の食い尽くしである。では地球が持続可能な質素な社会で自立共生的な生活に満足するようになるにはどうするか。現在、製造・教育・医療・政治等が産業主義的な考え方に染まっているが、何かのきっかけで一夜のうちに幻想が崩壊し、諸制度が信頼を失うかもしれないと示唆する。

私が読みながら感じたのは、地球温暖化や気候変動、SDGsの関心の高り、デジタル化による産業構造の変化、そして新型コロナウイルス流行によってピースが揃ったのではということ。国際間移動、満員電車、量に頼るビジネス、副業規制緩和・終身雇用の崩壊など日本だけ見ても様々な変化の兆しが見えてくる。新しい動きとしてリモートを中心とした労働、テイクアウトやDIYなど新しい生活スタイル、これらに呼応して脱ハンコ主義やオフィスで時間で縛り付ける管理の限界など連鎖した現象が起きてきている。

しかし、人は時間と場所から自由になる傾向がある一方で、経済的には稼ぎが減ってしまいそうだ。そこで、著者の提唱する「新しい混合的な生産様式」として、グローバル産業と自立共生の組合せに期待する。SDGsやCO2排出量目標は、多くの企業に再生可能エネルギーの活用を促した。もしも資源再利用率や資源の在庫期間(資源を生産から使用まで短い期間ですますための縛り)などで制約を与えると、企業側はシンプルな製品設計で、かつ低在庫水準での生産供給へ幾分でもシフトするかもしれない。しかし、顧客ニーズは未だバラエティに富んでおり、そこは製品のパーソナライズはデジタルや3Dプリンターなども活用し市場側でのDIYで補完されたりしそうだ。また製品の再利用が前提になれば市場側での回収再生の仕事も広がりうる。

今までなかった労働のスタイルも出てくるかもしれない。地域では共同職場を設置してそこに集まりコミュニティが生まれ、同じ企業以外の人たちともそこで手仕事を行い、新たな人間関係が出来る。地域の生活サービスについての地産地消。ローカル商店街の活性化や、地域の公園の植栽や落ち葉拾いなどのワークを通じての集まり。自分達で出来ることを自分達でやる。i-phoneカバーの装飾や電子機器のアクセサリー類のDIYやカラーリングなど、デジタルツールを使って、地元のサービス業として試行錯誤で取り組む。手を動かして学んだり、新しいものを生み出す楽しさを分かち合う。地域らしいものを生み出す楽しさがある。そんな世界線を妄想した。

最後までお読みいただきありがとうございます!