酒肴セット 丸南本店
函館駅前の蕎麦屋、丸南本店。
甘く香ばしいそば味噌と
冷酒で一杯やれば
憂さも暑さも何処へやら。
どんどん盃はすすむ。
初代大山マキが
東京・神田の店を
たたんで北へ向かい、
港町の函館で
1891(明治24)年開業して
130年あまりとなる。
大波小波をのりこえ、
いま五代目の若き大山紘生が、
のれんを守る。
時を重ねてきた
このそば屋には、
さまざまな書が
所蔵されている。
架け替えられるたびに、
何と読み何と解釈するのか、
頭をひねる楽しさ、
否、難儀がある。
いっとき、
山岡鉄舟の書
『一日無事』が
掲げられていた。
幕末の幕臣、
山岡鉄舟は、
勝海舟と西郷隆盛の
会談にさきがけ、
東海道を急ぎ
東上する敵陣に
薩摩人ひとり連れて
乗りこんだ。
隆盛と直談判し
江戸城の無血開城の
条件をつめ、
隆盛に
「無我無私で肝っ玉が太い」
といわしめた。
この書は、
鉄舟の
明日をも知れぬ日々
の思いを
現わしたのか。
いつも小上がりに座って、
まずは酒肴セット。
最北の酒蔵・国稀の
冷酒を
蕎麦前に、
さらに焼き海苔、
出し巻き玉子焼きなど……
〆に蕎麦せいろを
たぐる。
蕎麦屋で一杯やる、
これぞ粋
と思っている。
『一日無事』を
酔眼でながめて、
鉄舟から
天下泰平かと
一喝された気分
になったことがある。
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