遠く異郷の街 コトル
足もとにボールが転がってきた。
顔をあげると3、4歳の坊やがにこにこ笑っている。
カフェの椅子から立ちあがり、サッカーボールを蹴りかえした。
モンテネグロがほこる世界遺産の街コトル。
クロアチアのドブロブニクから
陸路バスで国境をこえモンテネグロに入ると、道はがたがた。
アドリア海をのぞむ断崖のガードレールは、赤錆がうかび心もとない。
2時間ほどで海沿いの小さな街コトルに着いた。
城壁にかこまれた旧市街に足をふみいれると、
中世の裏街に迷いこんだかのよう。
広場のカフェでエスプレッソをすすり、
首が痛くなるほどそっくり返ると、
糸杉と夕陽に映えた浅黒い岩山がそそり立っている。
モンテネグロとは、「黒い山」を意味するのだ。
紀元前1世紀
ローマ帝国のころ築いた城壁が山の中腹から上へつらなる。
銃眼も見える。
この城塞にこもり海賊やオスマン・トルコ軍と戦い、
自治を守りぬいてきた。
12世紀に創建されたロマネスクの聖トリプン大聖堂は、
カトリックの壁画・聖母被昇天と
ビザンチンのイコンが同居している。
ここコトルは東西ローマ帝国の境界線上にあり、
二つの文化が混じりあう場であった。
広場裏の路地は曲りくねっている。
ジャパン!と声をかけてきた学校がえりの男の子たち。
にこっと笑って人なつこい。
こちらもヤーヤーと応える。
カフェで井戸端会議のお母さんもにこにこ顔だ。
2006年
独立を問う国民投票により新しい国モンテネグロが生まれた。
ユーゴ解体の苦難をのりこえ、
人口66万、福島県ほどの広さの小さな国だ。
通りすがりの旅人は、たった一日でこの国に惚れてしまった。
いつの日にか山上の城塞からコトル湾の絶景を楽しみたい。
ちなみに、映画「007カジノ・ロワイヤル」でジェームス・ボンドが
敵役とポーカーの大勝負をしたのがモンテネグロのカジノであった。
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