シェア
留萌で乗客がどっと降り 列車のなかは4~5人となった 白波がたつ日本海沿いの停車場ごとに ひとり、ふたりと客が消える 夕暮れどき、雪がはげしく舞いあがる 無人の終着駅・増毛にたどりつく 降りたのは おばあちゃんと僕のふたりであった 今から10年まえであった 氷点下12度 2月の町は雪に埋もれていた いつもの倍も積もったという 昭和8年築の観光案内所は閉まっていたが 雑貨、寿司屋の明かりがぽつりぽつり 雪道に足をとられ歩きつづけると 凍えた手先と足の指の血のめぐりが良
パリ、シャンゼリゼ通り 両側にずらりと並んだ 現代彫刻作家の作品のなかで 安田侃の彫刻が ひときわオーラを放っていた 道ゆくひとびとが 作品の窪みをのぞきこみ 吸いこまれていく 北イタリア 古代ローマ時代からの 石切り場カッラーラの大理石に かのミケランジェロはノミを打ちこみ とても大理石の塊から彫ったと思えない キリストをいだく聖母マリア・ピエタを生んだ 安田も同じ産の純白な大理石をつかい 近くのピエトラサンタにアトリエを構える 安田は炭鉱の町・美唄で生まれ育った
「8月16日、開陽台で満月を見よう」 バイク仲間がたむろする喫茶店に張り紙があった 「東の空に月が浮かんでいた 全くの真円 満月だった 約束の夜の、フルムーンだった 満月の照り輝く空の下に、根釧台地がひろがっていた・・・ 息をひそめた大平原があった・・・ フェリーで知り合った男2人と女1人が 北海道をツーリングする青春バイク小説 『振り返れば地平線』 作者は舞台となった道東の中標津に仕事場をかまえる 直木賞作家・佐々木譲 10年ほどまえの晩秋 小高い丘にたつ中標津・
北海道で最も高いところにある温泉と聞き、 北海道のど真んなか、富良野から足をのばした。 そこは、十勝岳温泉・凌雲閣。 標高1280m、活火山・十勝岳の8合目にある。 馬鹿と煙は高いところに登りたがる、とはいうが、すばらしい。 露天風呂に体をしずめると眼前に大パノラマが展開している。 晩秋、わずかに冠雪の十勝岳連峰。 ここは、別世界。 アイヌ語で、 カムイミンタラと呼ぶー神々のあそぶ庭。 源泉かけ流しの茶色の濁り湯。 鉄分が含まれているのだろう。 長風呂にはころあいの湯
北海道の端っこに行こうと 冬の増毛、離島の焼尻の次に 道東のいちばん端 野付半島に足を踏みいれた 国後島をわずか16キロほどで 望むことができる 鳥の嘴のような あるいは海老のような形の 全長26キロの細長い 野付半島のなかほど なにやら異様な木々の群がみえた 足元が水に浸かりそうになって 冷や冷や歩いていくと 立ち枯れた木々のナラワラが 眼前に現れた しかも、倒れて湿地に没した大木もある 自然に戻っていくのだろう 樹齢100年ほどのミズナラの原生林が 地盤の低
昔、東京・銀座7丁目にあった立飲みバー「クール」。 え! これってヨードチンキの匂い? まさに病院くさい。 アイラ島のシングルモルト・ウィスキー、ラフロイグ。 バーテンダーの神様といわれた古川緑郎さんのおすすめで出会った 強烈な初体験であった。 アイラ島のシングルモルトにほれ、日本で酒を造ろうとロマンをいだいたひとりの男がいる。樋田恵一。 アイラと同じような風土を日本中探し求めてたどり着いたのが、 厚岸であった。 冷涼で海の霧がでる気候、ピート(泥炭)、清い水と三
初秋、道北の離島、焼尻 横なぐりの雨と風が荒れ狂う 羊をさがしまわるがその姿ははるか彼方だ 雨がパンツにしみこんできた 駐在のおまわりさんに教えられてとびこんだCafé 別世界がひろがっていた 天井までぎっしり本がつまっている ムンクとかピカソの画集、文学、建築、デザインの本がずらり モーツァルトがひびき、おまけにスパイシーな香りがただよう 鼻とお腹をしげきしたカレーは美味かった 女主人が淹れてくれたコーヒーも抜群 ねばること2時間半、すっかりパンツもかわき身
突風で駅舎がぐらっと揺れ、 それまでのぽかぽか陽気が一転、 気温が急降下した。 ぶるっと体が犬みたいに震えた。 根室ちかくの花咲駅。 最果ての無人駅であった。 まわりに家もない、人っ子ひとりいない。 冷たい雨が額にぽつり、空模様がくるくる変わる。 元車掌車の駅に潜むこと3時間。 上りも下りも列車1本来ない。 牛が草を食み、何さまかと、じっとこっちを見つめている。 馬に話しかけたニーチェのごとく牛に話しかける気もおきない。 狂ってもいないし、哲学者でもないから思索にふ