トヨタとNTTの新戦略が「日の丸半導体」の再生を大きく後押しする
個人的には、この10年のうちに日本の半導体産業を再生できるか否かが日本の行く末を決めると強く思っている。再生できなければ20年後の日本の子どもたちは飢えるかもしれないという最悪の未来だってあり得る。
もしトヨタを始めとする国内自動車産業がこの10年で競争力をなくしたらと想像してみてほしい。外貨を獲得する手立てを失い石油も半導体も食料さえも買えない日本、そんな現実が目の前に姿を現す。
ただ、半導体を「つくる」という観点から今の状況を見ると、去年からの日本の動きは悪くない。まず昨年、政府・与党が動いた。行政も過去を反省した。これからはまだ十分ではないが予算も付くだろうし政策的にも手は尽くされるだろう。メーカーもファブレスも装置・材料メーカーもそれに間違いなく呼応する。このまま政府から民間まで関係する全員が打つ手を間違えなければ、「つくる側」の再生はギリギリ間に合うかもしれない。
心配だったのが「使う側」。つまり国内市場の再生だったが、ここに来て二つの希望の星が見えてみた。トヨタのEVシフトとNTTのIOWN構想だ。
昨年12月14日に行われたトヨタのEVシフトの発表は、自動車向け半導体の市場を一気に拡大する未来を見せてくれた。発表の場で豊田章男社長が2030年には年間350万台のEVを生産すると宣言した。車載半導体市場が大きく膨らんでくる。トヨタとしても地政学リスクを考えて国内生産拠点を確保しなければならない。熊本のTSMC誘致にデンソーが資本参加しているのもその現れだ国内に残る半導体メーカーも当然ここに照準を合わせてくる。
後者は、少し専門的で難しいが「光電融合」がキーワードだ。今まで電気信号だけに頼ってきた半導体・コンピューター・ネットワークの世界を、光信号を入れパラダイムシフトさせようという話だ。2年ほど前にNTTが実現した光で信号をやり取りできるトランジスタ技術が元となる。最近のNTTのリソースの投入具合を見るとその本気度がわかる。旧電電ファミリーで半導体メーカーの雄だったNECや富士通と資本的な連携を強めている。直感だがこの連携は強い。消費電力面から考えれば光電融合は本筋だろう。
この10年は国内半導体メーカーの敗戦の10年であり、同時に半導体ユーザー敗戦の10年でもあった。家電もPCもスマホも、半導体を「使う側」の国内産業はほぼ壊滅状態。半導体産業以上に惨憺たる状況になっている。
半導体産業の再生は「つくる側」と「使う側」両方を同時に蘇生させないと実現しない。国内にある程度の規模の市場があり強い「使い手」がいることで「つくる側」も鍛えられ、連動して半導体産業が強くなっていく。強靱なエコシステムはそういう条件でないと成立しない。
そんな半導体エコシステム再生を大きく後押しするトヨタとNTTの二つの構想。ここからは当分目が離せない。