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旭川中2女子凍死事件の衝撃

週刊文春の報道をきっかけに

北海道旭川市の公園で今年3月、中学2年の女子生徒が凍死しているのが見つかった事件。

週刊文春の報道をきっかけに、旭川市が動き出したようですが、このたび、旭川市教育委員会が重大事態と認定しました。

どうして、学校は、もっと早く、「重大事態」として動かなかったのでしょうか。

具体的には疑問点は2つあります。

まず、第1に、なぜ、より早い時期に、(例えば凍死が判明した時点で)学校が「重大事態」として、市教委を通じて市長に報告しなかったのでしょうか。

そして、第2に、なぜ、凍死という痛ましい結果になる前に、比較的早い段階で「いじめ」として取り扱わなかったのでしょうか。とりわけ、なぜ、北海道警が、裸の画像の送信の強要を把握し捜査を始めた時点で、「重大事態」として対応しなかったのでしょうか。

いじめの重大事態とは?

いじめ対策推進法28条1項は、

1 いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。
2 いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間(=30日を目安に)学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。

のいずれかを、いじめの「重大事態」としています。

そして、法30条は、地方公共団体が設置する学校(公立学校)について、「重大事態」が発生した場合には、地方公共団体の教育委員会を通じて、重大事態が発生した旨を、その地方公共団体の長に報告しなければならないとされています。

いじめ対策推進法
(学校の設置者又はその設置する学校による対処)
第二十八条 学校の設置者又はその設置する学校は、次に掲げる場合には、その事態(以下「重大事態」という。)に対処し、及び当該重大事態と同種の事態の発生の防止に資するため、速やかに、当該学校の設置者又はその設置する学校の下に組織を設け、質問票の使用その他の適切な方法により当該重大事態に係る事実関係を明確にするための調査を行うものとする。
一 いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。
二 いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。
 (略)
(公立の学校に係る対処)
第三十条
 地方公共団体が設置する学校は、第二十八条第一項各号に掲げる場合には、当該地方公共団体の教育委員会を通じて、重大事態が発生した旨を、当該地方公共団体の長に報告しなければならない。
 (略)

「いじめの結果ではない」と考えたとしても学校は報告・調査する必要がある

さて、文部科学省の「いじめの防止等のための基本的な方針」によれば、児童生徒や保護者から、いじめにより重大な被害が生じたという申立てがあったときは、その時点で学校が「いじめの結果ではない」あるいは「重大事態とはいえない」と考えたとしても、重大事態が発生したものとして報告・調査等に当たるとされています。

児童生徒又は保護者からの申立ての場合は、調査をしないまま、いじめの重大事態ではないと断言できない、ともしています。

いじめの防止等のための基本的な方針
4 重大事態への対処
(1)学校の設置者又は学校による調査

(略)児童生徒や保護者から,いじめにより重大な被害が生じたという申立てがあったときは,その時点で学校が「いじめの結果ではない」あるいは「重大事態とはいえない」と考えたとしても,重大事態が発生したものとして報告・調査等に当たる。児童生徒又は保護者からの申立ては,学校が把握していない極めて重要な情報である可能性があることから,調査をしないまま,いじめの重大事態ではないと断言できないことに留意する。(略)

今回、女子生徒が自ら命を絶ったと思われ、しかも遺族は、それがいじめによるものだと主張していたと思われます。

たとえ、学校は、その時点で、死亡は「いじめの結果ではない」あるいは「重大事態とはいえない」と考えていたとしても、重大事態が発生したものとして報告・調査等に当たらなければならないのです。

さらに、児童生徒又は保護者からの申立ての場合は、調査をしないまま、いじめの重大事態ではないと断言することはできないのです。

それでは、なぜ、それにもかかわらず、3月の時点で、学校は重大事態として、教育委員会を通じて旭川市長に報告しなかったのでしょうか?

本来ならより早い時点で「重大事態」として調査・報告をしなければならなかった

第2の疑問点として、なぜ、凍死という痛ましい結果になる前に、比較的早い段階で「いじめ」として取り扱わなかったのでしょうか。

とりわけ、なぜ、北海道警が、裸の画像の送信の強要を把握し捜査を始めた時点で、「重大事態」として対応しなかったのでしょうか。

文部科学省の「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」の別紙には、「いじめ(いじめの疑いを含む。)により、以下の状態になったとして、これまで各教育委員会等で重大事態と扱った事例」が整理されています。

児童生徒が自殺を企図した場合として、「軽傷で済んだものの、自殺を企図した」ものが重大事態として扱われたとしています。

心身に重大な被害を負った場合として、「リストカットなどの自傷行為を行った。」「心的外傷後ストレス障害と診断された。」「嘔吐や腹痛などの心因性の身体反応が続く。」「多くの生徒の前でズボンと下着を脱がされ裸にされた。」「わいせつな画像や顔写真を加工した画像をインターネット上で拡散された。」などが、重大事態として扱われたとしています。

金品等に重大な被害を被った場合として、「複数の生徒から金銭を強要され、総額1万円を渡した。」などが、重大事態として扱われたとしています。

いじめにより転学等を余儀なくされた場合として、「欠席が続き(重大事態の目安である30日には達していない)当該校へは復帰ができないと判断し、転学(退学等も含む)した。」ものも、重大事態として扱われたとしています。

旭川の事案では、週刊文春や読売新聞の報道によると、2019年6月に、友人らの前で川に飛び込んだり、裸の画像などを携帯電話で友人に送らされたりしたということです。

さらに、週刊文春の報道によると、複数で取り囲まれその場で自慰行為をするよう強要された、PTSDと医師に診断されその後遺症に悩まされていた、とのことです。

これらが、児童生徒が自殺を企図した場合や、心身に重大な被害を負った場合に当たることは明白であり、いずれも本来ならばそれぞれ単体でも重大事態として扱われるべきものです。その他にも報道の中には、重大事態に該当しそうなものがいくつか見受けられました。

それでは、なぜ、2019年時点で「重大事態」として扱われなかったのでしょうか。

なぜ早期に発見・対処できなかったのか?

今のご時世、どの学校でもそうだと思いますが、旭川市内の公立学校でも、いじめ対策推進法をうけ、旭川市いじめ防止基本方針に基づき、いじめの早期発見のため、アンケート調査を年複数回行うことや相談体制を確保することが謳われています。

それでは、なぜ、いじめのアンケート等でいじめの早期発見がなされなかったのか、なぜ、早期に適切な対応がなされなかったのか不思議でなりません。

亡くなった生徒は先生に何度も相談をしようとしていたようですが、学校側が適切に対応したのかこの点も疑問です。

本来はどうあるべきだったのか?

いじめを早期に発見し、被害が比較的軽微な段階で適切に対処する。なぜ、早期に発見できなかったのでしょうか。まさか、いじめを発見したのにもかかわらず、なかったこととしてやり過ごしていたのでしょうか。

女子生徒が友人らの前で川に飛び込んだり、裸の画像などを携帯電話で友人に送らされたりしたことについては、学校は当然把握していたと思いますが、なぜその時点で「重大事態」として調査・報告をし、適切な対応ができなかったのでしょうか。少なくともその時点で適切に対応していれば、女子生徒が自ら死を選ぶことはなかったのではないでしょうか。

さらに、なぜ、凍死という痛ましい結果となったにもかかわらず、学校はその時点でもなお「重大事態」としてすぐに調査・報告をしなかったのでしょうか。

私は、岐阜県東濃地方にある複数の県立高校のいじめ対策委員をやっており、各校の対策について毎年、意見を述べる立場にあります。

それぞれの高校は、いじめ対策推進法や学校ごとの基本方針に則り、いじめの早期発見や重大事態への適切な対処に向け、毎年、PDCAサイクルを回して、生徒一人ひとりが安心して過ごせる、そんなよりよい学校づくりに励んでいます。年数回の会議では、軽微な事案の発見及び対応について報告を受けます。おそらく、外部の人は、こんな些細なことでも真面目に取り扱うのかと驚くことでしょう。

だからこそ、週刊文春の報道を読んだときには衝撃を受けました。

学校がいじめ対策推進法に基づいてちゃんと動いていれば起きないような事態が起きているからです。率直に、いじめ対策推進法のない「異世界」の出来事かと思ってしまうほどです。

重大事態としての認定及び調査の開始は遅きに失した感がありますが、今後、しっかりとした調査が行われることを願っています。

ちなみに、冒頭の写真は、旭川地方裁判所の外観です。2017年に旭川・富良野を旅行したときに撮ったものです。

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