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コロナ地獄を救ったカレー

2021年7月末から約2週間ほど、コロナを発症した。

発症から3〜4日ほどは39度前後の高熱が続き、さすがに辛くてそこから解熱剤を飲み出したが、解熱剤で37度台まで下がる→しばらくするとまた39度前後まで上がるの繰り返しで、7〜8日目くらいまでは「生きているだけでつらい…」と布団でうめく毎日だった。

その後、9〜10日目くらいから症状が目に見えて改善し、10日間の自宅隔離期間が終了。そして15日目くらいから、ほぼ完調といえる程度まで回復した。それでも、発症から17日ほど経った今なお、倦怠感みたいなものがうっすらと残っている。約2週間で4キロほど痩せた。

感染経路ははっきりと特定できていないが、なんとなく「あの時の不注意だろうな」という目星は付いている。おそらくは自分の不注意から、PCR検査をしてくれた病院や、毎日のように容態を電話で確認してくれた保健所のリソースを余計に費やしてしまったことを、とても申しわけなく思う。

さて、「カレーライター」として細々活動する自分だが、このコロナ地獄にあっても、カレーは食べ続けた。とはいえ、「カレーライターとして、カレーの火を絶やしてはならぬ」といった気負いやがんばりは一切なく、コロナ生活の中でもカレーに自然と手が伸びた、というのが正直なところだ。

そこで以下では、コロナ発症によりで39度前後の高熱&一時は嗅覚を失うという、ある種の“極限状態”で食べたカレーが、果たしてどんな味わいだったのかを簡単に記録する。

それはもしかすると、北極や南極といった極地で食べるカレーや、死に向かいつつあるなかで味わうカレーとも、何か共通するものがあるかもしれない。読者の方々が「極限状態におけるカレーとは、どんな存在なのか」や、「結局、カレーとは何なのか」などを考えるうえで、少しでもプラスになれば本望だ。

なお、発症期間中は本当に心身の余裕がなく、一部のカレーは写真に残せなかった。

①ゴロッとじゃがいもと厚切り豚バラのポークカレー ※2食

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数あるレトルトカレーを見てきたつもりだったが、これは初見だった。コロナ生活の息子を憂いて母親が送ってくれた、大量の食料の中に混ざっていた一品。PCR検査の結果が陽性と判明した夜、激しく落ち込み、意識が朦朧とする中でこれを発見し、「そうだ、おれは今、まさにこういうカレーが食べたいんだ! そう、日本のカレーライスが!!」と強く心の中で叫んだことを、覚えている。

当カレーはコロナ発症期間中に2回食べ、2度とも嗅覚をだいぶ失った時期だったが、日本のカレーならではのうまみと優しさは、はっきりと感じられた。不思議だ。ライスは日本米ではなく、炊いて冷凍しておいたバスマティライスを選んだが、それがまた衰弱した体でもスルスルいけてとてもよかった。

②ゴロッと玉ねぎと骨付きチキンのスープカレー

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上のポークカレーと同じ販売元のスープカレー。まるごと入った玉ねぎと鶏手羽元の出汁がよく出ていて、嗅覚の多くを失っていた状態だったにもかかわらず、沁みる美味さだった。

それと辛さが異様に鋭く感じられ、普段から辛いものは食べ慣れているはずなのに「この辛さは、キャパギリギリかも…」と思った。きっと積み重ねられた辛さ耐性がコロナでリセットされたうえ、他の風味を感じる感覚が鈍ったぶん、辛味がモロに舌を刺激したのではないか。ぜひ平常時の今、もう一度食べて味を比べたい。

*8/18追記:味覚・嗅覚がほぼ戻った状態であらためて食べてみたところ、辛さはマイルドでした(笑) やはりコロナ期間中の舌の感覚は、特別だったようです。

③亀田のカレーせん ※毎おやつ

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これも母に頼んで送ってもらった一品。「ついでにカレーせんも」くらいのノリで頼んだのに、ドカンと3袋も送ってくれる無償の愛が、まずは心に沁みた。そして味わいに関しても、「インドっぽい本格スパイスが香っていること」が、おバカになってしまった自分の舌にもはっきり感じられ、アガッた。コロナ期間中は食欲が大きく減退し、おやつを食べることなど基本的に考えられなかったが、このカレーせんだけはちょっとした合間にほぼ毎日食べ続けた。

④キッチンABCの黒カレー&オリエンタルライス

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発症から4〜5日目くらいに、猛烈にこれが食べたくなり、人に頼んでテイクアウトしたもらった(写真は以前お店で食べた時のもの)。この時も嗅覚と味覚がほぼゼロだったが、濃厚な甘味と旨味が効いているであろうことがうっすら感じられ、かつニンニクなどのパンチも心地よく感じられた。

結果、嗅覚・味覚がほとんどないにも関わらず、MAX時の6〜7割くらいの満足感を覚え、「すげえな洋食!すげえなABC!!」と妙に感動した。食べ物の味ではない部分が、いかに満足感に寄与しているかを、あらためて知った気がした。あと、やっぱりカレーがやたらと辛く感じた。

⑤セブンイレブンのお店で揚げたカレーパン ※2食

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7〜8日目くらいに、家族に頼んで2個買い(写真は以前自分で買った時のもの)。1個目はほぼ風味がわからなかったものの、翌日2個目を食べた時に「あれ、だいぶ風味がわかるぞ!?」と嗅覚・味覚の回復ぶりが実感でき、本当に嬉しかった。

もともとパン生地がかなりしっかりしているので、時間が経っても「アルミホイルをかけてトースターで3分チン」で、かなり揚げたての感じになる。コロナにかかったことで、近所で揚げたてカレーパンを気軽に買えることのありがたみが、倍増した。

⑥かつや 赤辛カツ丼

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ウーバーイーツで注文した、かつやの大好きメニュー(写真は以前、店で食べた時のもの)。正確にはカレーではないが、自分の中では9割カレーなので、挙げておく。

いつもは松・竹・梅の「梅」がちょうどいいが、コロナでやせ細った自分の身体を見て、精をつけなくてはと初めて「竹」を注文。この弱った身体で食べ切れるかな?と心配だったが、ペロッと完食。花椒がよく香り、唐辛子もビシッとキまり、かつやの中でも本当にこれは白眉だ。

⑦味楽来 カンボジアチキンカリー

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買い置きしていた36チャンバーズの新作レトルトを、思い切ってコロナ時期に投入。そうしたら、まあああああ辛いこと!!! 一口ごとに顔から汗が間欠泉の如く吹き出し、舌が焼け、全然食べ進められない。これは今まで食べたレトルトで、一番辛いのではないか。

でもココナッツミルクとさつまいもの魅惑的な甘さ・旨味が辛味とよくマッチしていて、スプーンをどうしても手離せない。仕方ないので、極悪な辛さの元凶となっている、約1ミリ四方に刻まれた生唐辛子を箸で一つ一つ取り除きながら、じりじりと食べ進める。結局、完食するのに1時間くらいかかった。

衰えた身体に刺激MAXな食べ物を投入してしまい、さすがに調子がおかしくなるかと思いきや、残っていた倦怠感と頭痛が、気づけばだいぶ薄まっていた。やっぱり・カレーは・すごいんだ! 発症から10日目くらいの、それなりに体調が回復した時期に食べたのもよかったのかもしれない。

⑧マトンと山椒のカレー

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AKOMEYA×SPICE Cafeのコラボレトルト。発症から12〜13日目くらいに買い置きを開けて食べた。粗挽きのマトン肉に魚介系の出汁の風味がよく絡み、なんと美味しいことか。この一皿に、どれだけの知見と試作回数とカレー愛が詰まっているのだろうと勝手ながら思いを馳せ、感動する。そして「カレーをここまで深く楽しめるとは、コロナ、治ったのかも」としみじみ思う。すでに味覚・嗅覚も9割がた戻っていた。

⑨アジア屋台村のカジャセット

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10日間の自宅隔離期間を終え、久々に行ったフットサルの帰りに寄った新大久保のアジア料理店の一皿。インド料理・ネパール料理から東南アジア料理、中華料理、韓国料理までが1店舗で味わえる店ということで、味はそこそこなのかなと思いきや、本格的なネパールのカジャ(軽食)セットを味わえた。フットサルからのネパール料理という、人生の楽しみルーティーンの一つが戻り、感慨ひとしお。

⑩コロンビア8の大阪スパイスキーマカレー

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発症から15日目ごろ、久々にこの名作レトルトを食べてみた。後入れのミックススパイスの袋を開けた瞬間にカルダモンの強烈な香りがハッキリ感じられ、かつ大盛りライスを苦もなく食べきったとき、「もはや戦後ではない」ではないけど「もはやコロナではない」という言葉が頭の中を爽やかに通り抜けた。


以上が、僕がコロナ生活で味わったカレーたちの記録である。こうして振り返ると、極限状態にあっても1日1回以上のペースでカレー的な何かを口にしていたこと、そしてそのカレーに心身のカンフル剤的な役割を求めていたことがわかる。また、常時よく食べるカレーを緊急時も変わらず食べることで、カレーをその時の自分の状態を測る「ものさし」にしていたことも見えてくる。

では、実際にカレーによって救われたのかどうかと問われれば、まあ答えは「YES」になると思う。カレーがなかったら、どれだけ食事へのモチベーションが低いままだっただろうか。カレーがなかったら、食事がどれだけ味気ないものだっただろうか。もしカレーがなかったら、地獄を抜けるのにもう2〜3日くらい余計にかかったんじゃないかとすら、本気で思う。

あわせてコロナ期間中は、なぜだか辛味に対する感受性が異様に高まり、カレーの辛さ(からさ)と病状の辛さ(つらさ)が、極めて高いレベルでリンクした。つまりは、辛(つら)くて辛(から)い2週間だった。

この先、極限の世界に何度迷い込むかはわからないけど、コロナと濃密にランデブーした2021年夏の2週間、カレーが少なからぬ救いになってくれたことを、胸に抱いて生きよう。